機能物性化学

化学物質の分解

強固な結合を持つフッ素化合物を光でやさしく分解し、環境問題に貢献


小林洋一先生

立命館大学 生命科学部 応用化学科(生命科学研究科 応用化学コース)

出会いの一冊

夢の新エネルギー 「人工光合成」とは何か 世界をリードする日本の科学技術

光化学協会 (ブルーバックス)

光を活用した画期的な研究分野として、植物の光合成を人工的に作り出す、「人工光合成」があります。この本は光化学協会に所属する最先端を走る研究者らが集って執筆したものであり、光化学の基礎や、ゴール(新エネルギーの創出によるエネルギー問題の解決)がわかりやすく解説されています。高校生の方でも比較的読みやすいのではないかと思います。

私の研究とは一見違うようにもみえますが、応用展開(この本では人工光合成、私は難分解性物質の分解)が異なるだけで、光化学の基礎原理を理解・応用する点では同じです。より多くの方に光の魅力と可能性に興味を持ってもらえたらと思います。

こんな研究で世界を変えよう!

強固な結合を持つフッ素化合物を光でやさしく分解し、環境問題に貢献

私たちの生活を支えるフッ素化合物

炭素に結合している水素原子のすべて(または一部)がフッ素原子に置き換わった有機化合物はパーフルオロアルキル化合物(PFAS)とよばれ、フライパンなどの調理器具(テフロン)、イオン交換樹脂、半導体製造に不可欠な表面処理剤、消火剤、撥水・撥油剤など、我々の豊かな生活を支えている実用材料です。

分解に環境負荷がかかるのが課題

一方、これらの物質は化学結合としてきわめて強い炭素-フッ素結合を複数持つため、環境、生体蓄積性が高い、分解には400℃以上の加熱などの過激な条件が必要、さらに燃やすとフッ化水素ガスが発生するため、特殊な焼却設備が必要など、持続可能なリサイクル社会の実現に向けて、複数の課題が生じていました。

光を使い強力な還元剤の生成に成功

私は「光化学」(物質に光を当てたときにどのような化学反応を起こし、なぜそれが起こるのかを調べる学問)の研究をしており、その中で、可視光線(目で見える波長の光)をナノメートル(10億分の1メートル)オーダーの半導体微粒子にあてるだけで、金属ナトリウム(水に触れるだけで爆発的に反応します)に匹敵する強力な還元剤を生成できること見出しました。

こんなにも強い反応剤を光で作り出せるのであれば、きっと普通では分解できないような安定な物質も温和な条件で分解できるのではないかと思い、「強固な結合を持つフッ素化合物を光で温和に分解する」というテーマの着想に至りました。

物質(オレンジ色の溶液)に光(緑色のレーザー光)を当てて、物質が吸収した光エネルギーがどのように消費されるかを調べる分析装置(過渡吸収分光測定装置)
物質(オレンジ色の溶液)に光(緑色のレーザー光)を当てて、物質が吸収した光エネルギーがどのように消費されるかを調べる分析装置(過渡吸収分光測定装置)
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

物の性質を調べる、理解することが好きで、大学では物理化学(化学現象を物理的に理解する学問)に興味を持って勉強しました。調べる(計測)手法の中でも光を使った計測(分光分析)に興味を持ち、その後自分にしかできない計測(自分しか見えない世界が見られる!)を目指して研究しました。

一方、新しい材料・機能を通じて社会貢献したいと思う気持ちも徐々に強まり、人が見たことのない機能、現象を求めていろいろな物質を自分なりの視点で分析していた中、今回紹介した研究の種をたまたま見つけるに至りました。

光反応評価装置
光反応評価装置
先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「強固な結合をやさしく光分解する複合ナノ材料の創出」

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先生の分野を学ぶには
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半導体ナノ結晶の合成(半導体はエレクトロニクスで使われる固体をイメージしますが、半導体ナノ結晶は、有機溶媒や水に溶けます。)
半導体ナノ結晶の合成(半導体はエレクトロニクスで使われる固体をイメージしますが、半導体ナノ結晶は、有機溶媒や水に溶けます。)
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 化学/化粧品・繊維・衣料/化学工業製品・石油製品

(2) その他の化学系

◆主な職種

(1) 基礎・応用研究、先行開発

(2) 品質管理・評価

◆学んだことはどう生きる?

先生の学部・学科は?

先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

学問の発見 数学者が語る「考えること・学ぶこと」

広中平祐(ブルーバックス)

数学分野のノーベル賞と言われるフィールズ賞を受賞された広中先生の自伝的な本です。学ぶことは楽しく、また研究することは自分で何かを生み出す、創造することであり、それは何にも替えがたい喜びがあることを再認識した本です。

私がこの本を読んだのは30歳を過ぎてからでしたが、大学受験で一生懸命勉学に励む高校生の方が読めば、きっと何か心に刺さるものがあるのではと期待します。


HUNTER×HUNTER

冨樫義博(ジャンプコミックス)

背景設定が詳細で世界観に浸れる、善悪の二元論で片づけない、ハッとする名言が多いところが好きです。少年漫画でよくでてくる特殊能力は、肉体的には難しいですが、「知恵」という観点では大いにあり得ると思っています。

念能力を知らない主人公らに、「極寒の地で全裸で凍えながらなぜつらいのかわかっていないようなもの」と伝える場面がありますが、概念を知っている人と知らない人とで、同じ場面に遭遇しても感じることが全く違うという点で共通点を感じます。

いろいろなことを勉強、研究し、それらをつなぎ合わせて独自の「知恵」を創り出していく、またその「知恵」を使って複雑な社会課題を独自の視点で切り崩して解決に導く。このような、研究する上での創り出す、積み上げるよろこびやわくわく感が、少年漫画にも通じていると思います。自分自身まだまだ修行を積んで、より特殊な念能力を発動できるよう頑張りたいです。

一問一答
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

カナダ。しばらく住んだ経験があり、様々な国籍、人種の方が協力し合って生活している雰囲気が好きで、また自然も豊かだから。

Q2.一番聴いている音楽アーティストは?

Cosmic Koala, Lucid Keys and Paul Indigo の『The Player』。

Q3.大学時代の部活・サークルは?

軽音サークルに入り、ベースをやっていました。

Q4.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

子供と一緒に工作をすること。


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