優秀な遺伝子を使って、気候変動や病害に強いコムギを作ろう
コムギを輸入に頼る日本
持続的な農業と食糧の安定供給を、植物のもつポテンシャルを高めることによって実現したいと考えています。
今、私は、コムギとその近縁種を研究対象にしています。コムギは、豊かな食生活になくてはならない作物ですが、日本は、コムギをほとんど輸入に頼っています。
気候変動による耕地環境の悪化、新たな病害虫の出現によるコムギの減収は、日本のコムギ供給に大きな影響を与えます。
日本には膨大なコムギ遺伝子コレクションがある
私は、コムギ近縁種が持つ環境ストレス耐性、病害抵抗性をコムギに付与し、気候変動と病原菌の進化に頑健な作物を設計する研究を展開しています。
幸いなことに日本には、過去の調査隊が収集した膨大な数のコムギ近縁種が、ナショナルバイオリソースコムギによって維持管理されています。これらのコレクションを最大限に利用して、環境ストレス耐性と病害抵抗性に関与する遺伝子を、最新のDNA配列決定技術を駆使して単離する試みをしています。
うどんこ病菌の感染戦略も研究
また、そもそもコムギ近縁種は、イネやシロイヌナズナなどのモデル植物と比較し知見が蓄積していないので、どれくらい遺伝的・形態的多様性があるかを解明することから始めています。
コムギの病気については、うどんこ病を研究しています。うどんこ病菌は、宿主植物がないと生きられない植物病原菌で、コムギに巧妙な戦略を用いて感染しています。その感染戦略に関わる分子群を同定し、病原菌の進化に頑健な作物のデザインに役立てたいと思っています。
→先生のフィールド[フィールド植物制御]ではこんな研究テーマも動いている!飢餓をゼロにするためには、持続可能な農業を促進する必要があります。気候変動に頑健な作物を作出することが、一つの解決策です。そのためには、近縁野生種の中に埋もれていて、活用されていない優れた形質を支配する遺伝子を単離し、その遺伝子を交雑による古典的な手法や、ゲノム編集による次世代技術を用いて作物へ導入します。
◆テーマとこう出会った
中学校の時に『沙漠を緑に』という本を読み、食糧問題を解決するために農学に関わる研究をしたく、農学部へ行きました。また、生物間相互作用による進化にも、興味がありました。学生時代、植物において、植物と病原菌相互作用が、分子レベルで明らかにされつつありました。
植物で分子レベルで進化の研究をするには、植物と病原菌相互作用研究が良いだろうと思い、博士課程では、植物と病原菌相互作用の集団遺伝学的研究をしました。現在、縁あってコムギを研究することになり、中学生時代に考えていたことを実現するため、これまで培ってきた遺伝学と病理学研究の経験を活かし、劣悪な耕地環境でも育つコムギ作出を目指した研究を展開しています。
◆大学時代
山岳部に所属していました。当時は、部が低迷期だったこともあり、それほどすごいところへは行けませんでしたが、仲間と一緒に自然の中で濃密な時を過ごせたのは、人生の掛け替えのない時間です。
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「8.食・農・動植物」の「26.植物科学、育種・作物・園芸」
Sophien Kamoun
The Sainsbury Laboratory(セインズベリー研究所)
【植物病原菌と植物の攻防の分子メカニズムの解明と共進化】植物と病原菌の攻防のメカニズムだけでなく、進化にも着目した研究をしています。
神戸大学農学研究科応用生物機能学コースは、多様な研究室が集まったコースです。『世界からバナナがなくなるまえに 食糧危機に立ち向かう科学者たち』に書かれているような研究をしたい人には、植物遺伝学、植物病理学、昆虫学、土壌学、植物栄養学、土壌学など、最適な研究分野が集まっています。どの研究分野も、研究熱心なスタッフで構成されています。
植物たちの戦争 病原体との5億年サバイバルレース
日本植物病理学会(講談社ブルーバックス)
植物とその病原菌の分子レベルの巧妙な攻防を、最新の知見も含めて記述しています。植物好き、進化好き、植物のお医者さんになりたいと思う人に読んでもらいたい本です。
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? スイス。山と湖があるから。 |
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Q2.一番聴いている音楽アーティストは? 映画『グレイテスト・ショーマン』のサウンドトラック。特に、『From Now On』 |
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Q3.大学時代の部活・サークルは? 山岳部 |
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Q4.研究以外で楽しいことは? スキー |