第3回 みなとみらいの観覧車サイズ。安定して浮く洋上風力発電を作る
洋上のエネルギーには、「風」と「波」と「流れ」の3つがありますが、それらの海洋エネルギーを取り出す方法についてお話ししましょう。
まずは、風車を回転させる風力発電です。 一般に、海上風車が設置される場所は離岸距離30kmほどで、たいした沖合ではありません。それでも原発118基分のエネルギーのポテンシャルがあるとも言われています(これには諸説ありますが、いずれにしても膨大な量が眠っています)。
さらには30kmよりも沖、もっと深い場所にも様々なエネルギーのポテンシャルはありますから、それらをどうやって取り出すかがポイントになってくるでしょう。
上のグラフは、地域別(電力供給エリア別)に見た、風力発電のポテンシャルを、陸上風力と洋上風力で比較したものです。赤の棒グラフが陸上での風力発電、青が洋上の風力発電。一目見て、青のほうが高い。また、地域で見れば、九州、北海道は風のポテンシャルは非常に高いし、沖縄も1県では高い。どこの地域をみても、海のほうが陸上より風のポテンシャルがあります。
陸上の風力発電の風車が回っている風景を見たことがあるでしょう。巨大な風車を建てる方が発電効率がよいのですが、景観の問題もあり陸上では難しい。となれば、洋上は悪くないアイデアなのです。
どんな風車がいいのか
洋上で風車を設置しようとすると、水深が結構深いところもあるため、海底に差し込んで建てればいいというわけにはいかず、浮体として浮かべなければなりません。浮かべるのと同時に「揺れにくくする」という命題もあります。そこで、海洋工学の出番となります。
下の図はノルウェーで、「スタックフォイル」という2MW(メガワット)くらいの発電設備の実証実験をしたときの画です。重さは550tなので、TVアニメ『超電磁ロボ コン・バトラーV』くらいの重さです。大きさで言えば、横浜のみなとみらい地区にある観覧車くらいですね。
設置後、何かメンテナンスが必要なときには、ヘリコプターで行って、写真の左上にあるヘリポートに降ります。それくらい大きいのです。このヘリポートの高さが100mで、水中の構造物も100mくらいあります。右の写真が、その簡単な模型です。
普通、海の上で見えているのは水面から上の部分だけです。が、ちゃんと真っ直ぐに浮くためには、水面上と同じぐらいあるいはそれ以上の体積を沈めておく必要があります。そして、真っすぐ浮かせるために重りをその水中の深い部分に積んでいます。そうしないとしっかり浮いてくれません。全体の90%が沈んでいる氷山の一角とまではいかないまでも、水中部分はなかなかの縁の下の力持ちです。
海上に浮かんでいれば必ず揺れますし、波や潮に流されます。風を受けなければ意味がありませんが、そのせいで傾きます。傾きやすい物体は、ゆったり揺れます。普通に風車が回っているときは、風がだいたい毎秒5〜10mで吹いています。波高は1m〜2mくらいが理想ですが、5mくらいのこともしばしばあります。波の周期は5秒から10秒くらい……。こんな場所でも良いパフォーマンスを発揮するためには、水面上はもちろん大事なのですが、むしろ水面下の部分の設計が鍵を握っていると言っても過言ではありません。
さらには、例えば超暴風雨で毎秒100mの風が来ても大丈夫、15mくらいの高波が来ても壊れない、流されない設備を設計しなければならないのです。最近は、「500年に1回くらいの大風にも対応できるように設計すべき」と国際的に言われ始めています。
風車の回転についても含め、こうしたことを一つ一つ検証し、それらに必要な計算式(基本は微分方程式と連立方程式です)を考えプログラムを作ったり、計算結果を実地で検証したりするのが私たちの研究となります。
日本は世界一の環境エネルギー大国
平沼光(講談社+α新書)
変化に富んだ日本の自然環境がもたらす様々な再生可能エネルギー、世界に先駆けて開発が進む日本近海に眠る非在来型天然ガスのメタンハイドレート、日本の英知を駆使して今まさに足を踏み出さんとしている宇宙エネルギー開発。「資源に乏しい……」といわれてきた日本ですが、実は自国の中に豊富な資源を抱えているのです。
古来より足元にあるものを無駄なく上手に使って生きてきた、日本人の資源との向き合い方なども通して、「資源に乏しくない日本」を紹介しています。まずは、「日本は資源に乏しいから・・・」という固定観念を捨てて欲しいと思います。確かに、日本の排他的経済水域は、今は取り出すことは簡単ではないかもしれませんが、エネルギー・資源の宝庫です。「使ってこそ」エネルギー・資源です。自分たちに与えられている環境を十分に活かすことの重要性も気づいてくれるとうれしいです。
日本の排他的経済水域を活用するのに、海洋工学は不可欠です。日本の海は潜在的にエネルギーも資源も非常に恵まれています。ただ、それに取り組む人の数が決定的に足りていません。海洋工学を通して、「誰かがやる」のではなく「私がやる」と言う人が増えていってくれると、本に書かれた「やれば出来る」が一つ一つ実現していきます。