第4回 発電だけじゃない。環境保全や深海利用など海洋環境産業にも海洋工学が生きる
波力発電プロジェクトが活発
引き続き、海洋エネルギーを取り出す方法についてお話ししましょう。
世界で100を超える海洋発電の開発プロジェクトが進行中ですが、圧倒的に「波」を利用したものが多いのです。「波」は振動しているので、いろいろな機構を使って振動差を取ります。通常では、風と同じように何かの装置を回転させてエネルギーを取り出します。
例えば、上図の左上の写真のようなブイのタイプ(「Power Buoy」)は、揺れで発電する方式です。ブイ内部に空気室があり、海面の上下動でタービンを回転させます。同様に揺れる方式でも、内部にマグネットが入っていて、磁気の変化で電気を発生させるタイプもあります。ヒンジが付いていて波の中でばたばた揺れて発電するタイプ(「オイスター」/下段中)や、内部を水がすーっと抜けていって、波がドンと突き当たる力を発電するエネルギーに変換するもの(「シードラゴン」/下段右)もあります。本当に全部が実用可能かどうかは未知数ですが、現在世界中で実証実験中です。
これらの装置の大きさは、例えば上図の左上の写真の「ペラミス」、バナナボートのお化けみたいですが、前にいる人間と比べてもこんなに巨大なのです。
実験途上の海流発電
「流れ」を利用した海流発電は、風と同じように回転する装置を使い、エネルギーに変換して発電します。現在のヨーロッパの状況を見ても、これらはまだ実験段階で、実稼働しているところはそう多くありません。海流の利用ではなく、潮汐=干満の差を使っている発電方式が少しあるくらいです。
海流発電についてはまだ研究の余地が多々あるのですが、それには船のスクリュー(=プロペラ)に関する研究の蓄積や技術が生きてきます。
海流発電には、大きなプロペラのほうが高効率だということが明らかになり、設計段階に携わったときには、「水中での直径が30~40m欲しい」と言われました。船のスクリューは、大きなものでも直径10mくらいですから、それよりも大きいプロペラの実験をどこでやればいいかなども、実は問題の一つなのです。
「海洋再生エネルギー」は有望市場
最近、海洋再生可能エネルギーには無縁であったIBM等の大手のIT企業やBosch等の自動車関連企業が参入戦略を進めるなど、「海洋再生エネルギー」を将来の有望市場とみなされています。
海洋再生可能エネルギーは、今後いろいろな実験を重ねていき、量産体制に入るのは、20年後の2030年くらいを目標にしています。国もそのように動いていて、人材を育成しようとしています。その頃には皆さん、現在高校生から大学生の方たちが主役となっているはずです。
また、海洋再生可能エネルギーだけにとどまらず、今後海洋工学は、「海洋環境産業」を産み出していくでしょう。例えば、タンカーの事故で流出した原油の漂流予測や監視、回収を連携させたシステムづくりに海洋工学の技術が欠かせません。
海洋生態系の保全、深海微生物を利用した食糧生産や海産バイオマスエネルギーの開発などにも貢献できます。海洋工学は、海に眠っている「未来の宝」を拓く役割を担っているのです。
つづく
第5回 村井基彦先生 研究インタビュー
<前回を読む>
第3回 みなとみらいの観覧車サイズ。安定して浮く洋上風力発電を作る
海洋エネルギー利用技術(第2版) 発電のしくみとその事例
近藤俶郎、経塚雄策、永田修一、池上康之ほか(森北出版)
海洋エネルギーの第一線の研究者である著者陣が、多くの図表を用いて平易に解説した技術的な入門書。潮汐、波浪をはじめとする各種エネルギーについて、体系的に網羅しています。海洋深層水利用、スマートグリッド/マイクログリッドといった注目の技術も。また、アジアを中心に建設が進む大型潮汐発電所、先駆的な欧州の実証フィールド、沖縄県の海洋温度差発電実証プロジェクトなど、国内外の最新の動向も紹介しています。技術者向けであり、値段は高いですが、最新動向がわかる数少ない本です。
船舶一問一答
日本船舶海洋工学会(編集)(海事プレス社)
海洋工学の基本となっている船舶海洋工学に関して、一般の人に船の魅力を知ってもらうため編集されています。代表的な原理から少しマニアックな言葉の定義など、一問一答形式にまとめてみました。技術的な話だけでなく、船舶海洋工学を学べる大学も紹介しています。船舶海洋工学を学べる大学が意外と少ない、だからこそ、そこで学べば貴重な存在になれるのです。
海の仕事というと、何を思い浮かべますか。本書では、海の仕事とそこへのキャリアパスが少し紹介されています。海の仕事を改めて見てみると、島国日本の生活の根幹を支えているのが海を渡る貿易で、そのほとんどを船が担っているのだと気づくでしょう。
まずは先入観を持たずに、それぞれで“面白そう”と思うところのつまみ食いから始めてください。聞いたこともない言葉や思いもよらない質問に出会い、新しい視点を持てれば、それは船舶工学や海洋工学の入り口になります。
本の中では浮かぶモノの理論的な原理や仕組みなどが書かれています。その原理や仕組みは、船や浮体構造物の用途や大きさによって変わります。原理を応用できるようになっていくのが大学の勉強の柱ですし、その後の大学院などの研究室での研究はその実践の場になります。意外と奥が深い学問です。