第2回 洋上を吹く風、波力、海流、海水の温度差。海には発電の潜在能力がある
海洋には、様々な発電の可能性があります。海上を吹く「風力エネルギー」や、その風による「波力エネルギー」だけではなく、「海流エネルギー」、「海洋温度差エネルギー」などがあります。では、日本近海の海洋エネルギーが持つポテンシャル(潜在能力)はどのくらいあるか見ていきましょう。
まずは、洋上風力発電に必要な風力エネルギー。日本は冬場の風は結構強いのですが、夏場はそうでもありません。ヨーロッパなど、風力発電を実用化している国も同様です。
その一方で、オーストラリアの南側やアフリカの南などでは、年間を通して風が強い。こういう場所で風力発電をどんどんやればよさそうなものですが、風があると波が起きます。そして、風が強い場所は波力エネルギーがあるのです。
下の図は波力エネルギーを表していて、赤いほうが波や風が強い場所です。オーストラリアの南側やアフリカの南などの年間平均波高は15mにも及び、20〜30mになる場合もあります。ただ、15mとは、建物約4階分に相当しますので、そんな高波の中で果たして風力発電が実現できるのかといえば、壊れたりする可能性も高く、利用は難しいと思われます。
次は、海流エネルギー。世界には、主要な海流が約14あります。その中で、発電に利用できるとされる、年間の平均流速が3ノットを超える速い海流はメキシコ湾流と黒潮の2つだけです。
その海域を持っている国は、日本とアメリカとイギリスの3カ国しかないので、日本が頑張って取り組めば、この領域では世界のトップになれるでしょう。
温度差で発電できる
意外に知られていないのが、「海洋温度差エネルギー(OTEC:オーテック=Ocean Thermal Energy Conversion)」です。
温度差発電には、平均20度の程度の差が必要であるとされていますが、深海の冷たい水と海面の温かい水の温度差があればあるほど効率良く発電できるシステムです。下の図は海洋温度差エネルギーの分布を表しています。赤いところほど温度差があります。赤道付近あたりの海は温度差が高いので適していますが、日本の海も排他的経済水域レベルで考えると、先進国の中では数少ない温度差発電が可能な海なのです。
実際に昨年から、沖縄で小規模な実証実験がスタートしていますし、今後もう少し大規模な実験をやってみようという動きが出てきています。こうして開発中のものを、ミクロネシアほかいろいろな国々の人が視察に来ていて、技術供与という形で他国への貢献も始まりつつあるという状況です。
日本の海洋資源 -なぜ、世界が目をつけるのか
佐々木剛(祥伝社新書)
日本は、実は、水産資源や海洋エネルギー・鉱物資源など、豊富な資源を備えた「海洋資源大国」。本書は、日本が持っていると考えられる資産としての海について紹介しています。海洋エネルギーに関しては、ここ4~5年の最新の動向にも触れています。技術的な話や工学的な視点は多くはありませんが、社会とのつながりなどもデータから見えてきて、誰にでも読みやすい視点だと思います。
この本を読んで、海は、日本人の普通の生活の中にいろいろな形で関わっていることに気づくのではないでしょうか。「海に関わることを大学で学びたい」という高校生には、興味を持てそうな具体的なテーマを探すきっかけになると思います。もちろん、個人的には「海洋エネルギー!!」と言っていただけるとうれしいですが、本で紹介されていることを実践するには、「どうやってやるか」の工学が縁の下でチャレンジしていることを読み取っていただければもっとうれしいです。
研究室で研究している大型の浮体式構造物の、基盤となっている学問は造船工学です。本書の中では造船工学についても取り上げられていますが、実は、造船工学まで触れられている本は案外と少ないです。海洋工学は今まで着目されてこなかった海のポテンシャルを引き出す工学です。本書で紹介されている海洋再生可能エネルギーについては、さらなる研究が必要ですし、また、どれにも浮体技術は欠かせない技術です。研究室での研究などを通して浮体運動をしっかり学べば、大学生でも大学院生でも即戦力の人材になれるでしょう。