第1回 21世紀は海洋の時代~海のエネルギー利用で日本も資源大国に
人類の誕生から現在まで“陸の時代”が続いてきました。いろいろな文明が進化していく間、人類は陸上をどんどん開発してきました。しかし、現在、人口増加の問題、それに伴う食糧問題、水の問題、エネルギー問題、環境問題など解決しなければならない問題が山積みになっています。これらの解決は、陸上だけではまかないきれず、海を上手に使わないと難しいと言われています。「21世紀は海洋の時代」と言う人もいるくらいです。
海には、波や海流などに、多くのエネルギー源があります。地球上の表面積の7割は海ですし、日本で言えば、陸地の10倍もの面積があります。日本は陸の面積は世界で60番目ですが、海の面積(排他的経済水域)では6番目です。広さプラス深さを考慮した海の体積で考えると、世界で第4位。日本の海は非常に深いのです。海が深いと、陸上の技術が簡単には通用しなくなってきます。そこで、海を「使える」状態にするのが海洋工学の役割なのです。
省エネに力を入れている間に出遅れた日本
日本は省エネが相当進んでいる国です。1970年代に石油ショックが起きた際に、「日本はエネルギーがないから、少ない石油でいろいろなことができるように」と、一生懸命考えてきたからです。しかし、一方で、その間、他の国は「他にエネルギー源はないか」と考え、海洋エネルギーの利用に乗り出していたのです。
この図は、1990年から2010年くらいまでの(横軸)、海洋での発電システムの開発状況を表しています。1990年の時点では、日本の温度差発電(黒い■)の実験機「伊万里」の発電容量は80kwレベルで、日本は海洋エネルギーについて、世界的に見ても技術的にトップレベルでした。しかし、2000年前後から状況が変わり、温室効果ガス排出量の削減のために自然エネルギーを活用することよりも原子力を優先させる方向に舵を切ってしまい、この10年間ほとんど何もしてきませんでした。ちょうど同時期、ヨーロッパ各国は、自然エネルギーに着目し、海流・潮流発電を中心に(赤い●)、実験をスタートさせ経験を積み、2005年には、波力発電や風力発電で大きな発電量を実現しています。
しかし、遅れたにせよ日本には過去の蓄積があるので、頑張ってヨーロッパ各国に追いつきたいと思います。
国も海洋エネルギー利用促進を後押し
こうした状況をうけて、国も、平成19年に「海洋基本法」を制定、平成25年には新たな「海洋基本計画」を策定し、「海洋資源の開発および利用の推進をしましょう」という姿勢を打ち出してきました。内閣では、総合海洋政策本部も立ち上げています。洋上風力発電の実証研究を銚子沖、北九州沖、長崎県沖、福島県沖で行う、波力、潮流、海流、海洋温度差発電などの実機の開発を行うなど、施策が具体的になっています。
大規模浮体構造物―新たな海上経済空間の創出
マリンフロート推進機構(鹿島出版会)
広大な海上空間を活かす浮体構造物。海の上に道をつくる。空港をつくる。発電所をつくる。森をつくる。レジャー施設をつくる…。海上は人が暮らす第二の空間です。浮体構造物の技術は着々と進化し、海に浮かぶ新しい施設の創造が始まっています。本書は浮体構造物に関する研究成果を主に技術的な観点から紹介。浮体構造物の可能性が感じられます。
まずは、“海洋空間を利用する”というイメージが広がればうれしいです。技術的なところの多くは大学・大学院そして世界中の研究者が勉強・研究していくところです。海洋工学はこれからの分野。まだまだ研究が欠かせません。本書で取り上げられたトピックの中で、一つでも、「自分が考えた方が面白いかも」と思ったら、海洋工学に来てください。
村井研究室では、海洋工学の中でも、大型の浮体式構造物の波の中での運動についての研究をしています。海洋開発は時に国の政策と大きく関わります。大きなプロジェクトが動くときには、企業や国の研究機関だけでなく、大学の研究室も一緒になってプロジェクトを実践していきます。それは、大学生や大学院生の研究(実験したり、計算したり、解析したり)が、いきなり大きなプロジェクトに対して直接的に貢献できる可能性を持っているということです。