第4回 コアに含まれる軽い元素を突き止めろ!
地下2,900kmより深い部分を金属核(コア)といいます。コアはマントルよりもさらに深い場所にあるので、コアが水素を含んでいるかどうかを確かめるのはとても難しいことです。ところで、人間はどのくらいまで掘ったことがあるのでしょうか。たったの12kmです。地球の半径が6,400kmですから、12kmはわずかに地球表面を削ったに過ぎません。では、コアを調べる術はないのでしょうか。
コアは主に鉄でできていますが、そのほかに軽い元素を多量に含んでいることが地震波の観測結果から明らかになっています。コアの密度が、100%鉄でできている場合に比べて10%ほど小さいのです。この密度の差は、軽元素をたくさん含んでいるから生ずるものです。
しかし、コアに含まれている軽元素を突き止めるのは簡単ではありません。その証拠に、60年以上議論が続いており、累積論文数は毎年増え続けています(図1)。軽元素の候補は、S、Si、O、C、Hの5つありますが、論文数から緑の線のS(硫黄)が最も有力だとわかります。一方、水素(H)は最も人気がありません。しかし人気のあるなしは、実際どうかとは関係ありません。
では、どのように確かめればいいのか。地球深部に相当する超高圧高温環境を作り出することによって、実際に標本を取ってくることができない地球深部の物質の性質を知ることができます。この実験を行うための装置が2つあります(図2)。(1)は大容量の高圧発生装置で、ミリメートルスケールの試料に高圧をかけることができます。
一方、(2)のダイヤモンドアンビルセルは、われわれのグループが開発しているものです。直径5cmもない大変小さな装置で、試料のスケールも100ミクロン(1ミリは1000ミクロン)と小さく、4本のスクリューをしめることで試料に簡単に300万気圧もの高い圧力をかけることができます。30分もあれば超高圧状態を作ることができます。ちなみに、高圧高温実験は日本が得意とするところで、お家芸と言っていいでしょう。
そして最近、このダイヤモンドアンビルセルによって、地球の中心部を超える超高圧高温環境を実現できるようになりました。この実験技術を用いて、マントルの融解温度を調べました。もしマントルの下のコアの温度がマントルの融解温度より高ければ、マントルは融けてマグマを作るはずです。しかし、コアと接するマントル最深部はほぼ固体。つまり、コアの温度はマントルの融解温度よりも低くなければなりません。
ここからコアが何からできているかがわかります。純鉄の融解温度とコアの実際の温度を比較してみましょう。もしコアが純鉄でできていたら、外核(液体コア)は固体であるはずです。ところが実際は溶けています。従って、外核は純鉄ではないということです。では鉄に、酸素が入っているのでしょうか、それとも硫黄が入っているのでしょうか。検討してみると、それらが含まれている場合より、外核が水素を含んでいる場合にだけ、外核は液体でいられるのです。外核が融解するためには、少なくとも24atom%の水素を含んでいなければなりません。
こうして私たちは、コアには水由来の水素が多く含まれていることを提唱するに至ったのです。その水素は、海の水の80倍に相当する量と考えられ、最近の理論予測に近い値になっています。
まとめると、地球にはその形成時に、太陽系の温度の低い場所から大量の水が運ばれてきました。しかし幸運なことに地球は深い海に覆われることはありませんでした。それは水が地球深部に持ち込まれたからです。その結果として陸地と海が共存し、多様な環境が生まれました。それが生命の誕生と進化をもたらしたと考えられるのです。
おわり
できたての地球――生命誕生の条件
廣瀬敬(岩波科学ライブラリー)
地球が出来て間もない頃、と言ってもいつかよくわからないのですが、地球上に生命が誕生しました。それが必然だったのか、または偶然だったのか、地球は生命誕生にどう関わっているのか、一緒に考える一冊です。
生命と地球の歴史
丸山茂徳、磯崎行雄(岩波新書)
巨大隕石の落下が相つぎ、大気、核、マントル、海洋がつくられていった初期地球。中央海嶺上で熱水から栄養をもらって誕生した生命。地球と生命の誕生がよくわかる。磯崎先生は東京大学で約2.5億年前の地球史上最大規模の生物大量絶滅を研究、丸山先生はプルームテクトニクスを提唱した東京工業大学特命教授。