第2回 親や学校は責任を負うのか
直人の両親は、責任を負うのか? ― 監督義務者の責任
次に、直人の両親に目を向けてみましょう。
確かに、直人の両親は、直接的に加害行為(山本君に怪我を負わせるような行為)をしたわけではありません。しかし、直人を監督する立場にある者です。
これに関し、民法714条は、「監督義務者」の責任を規定しています。もしこの規定の適用があれば、自分自身が不法行為をしていなくても、直人の両親は、賠償責任に問われる可能性があります。
ただし、注意したいのは、この監督義務者の責任は、加害行為を行った本人(直人)に「責任能力」がない場合に限定されたものだということです。実際に不法行為を行った者に責任能力がないために、被害者が加害者に責任を問えない場合に、被害者救済のために、代わりに、監督義務者に責任を負わせるという趣旨の規定です(正確には、本条の立法趣旨について学説上で争いがありますが、ここでは触れません)。
ちなみに、責任能力とは、「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能」を意味します。何歳という具体的な定めはありませんので、ケース・バイ・ケースなのですが、12歳くらいが1つの目安と考えられています。他方、成年(20歳以上)であっても、精神上の障害などによって責任能力が認められない場合もあります。
では、今回のケースはどうでしょうか。直人は高校生。だとすると、通常であれば責任能力が認められます。したがって、直人の両親が、たとえ直人の保護者であっても、直ちにそれだけで責任に問われるということはなさそうです。
ただし、どんな場合でも両親は責任を負わないのかというと、そうではありません。独自に民法709条の責任を追及される可能性は残されています。これは、民法714条のように「他人(加害者)の代わりに、責任を負う」のではなく、「自分の監督義務に落ち度があったこと自体が、自分自身の責任」と捉えられる場合です。実際に、小遣銭欲しさに殺人を犯した中学3年生(当時15歳11か月。したがって、責任能力があります)の両親に対して、民法709条に基づく不法行為が成立するとした最高裁判例(最高裁昭和49年3月22日判決)があります。
このような監督義務者の責任は、近時では、高齢社会の観点からも注目されています。最近、アルツハイマー型認知症の老人(91歳)が、線路内に立ち入り、列車にはねられ死亡した事故に関し、鉄道会社が、列車に遅れが生じるなどの損害を被ったとして、遺族に対して、民法714条および709条を根拠として損害賠償を求めた事件がありました。この事件は、マスコミなどの報道によって取り上げられて注目されました(最高裁平成28年3月1日判決によって、最終的に、遺族の責任は否定されましたが、その第1審である名古屋地裁判決では、本人(死亡した老人)には責任能力がないことを前提として、その長男や老齢の配偶者に対して義務違反を認められ、また、控訴審である大阪高裁判でも、老齢の配偶者の責任が認められました)。
C高校は責任を負うのか? ― 使用者責任、国の責任
さらに、学校側(小林先生やC高校)の責任について考えてみましょう。
「学校で起きた事故なのだから、学校側にも責任があるのでは?」と考えた人もいるかもしれませんね。実は、学校で起こった事故に関し、学校側が訴えられるというのが後を絶ちません。
まず、教師は、学校における教育活動(およびこれと密接な関係にある活動)において、そこから生ずるおそれのある危険から、生徒を保護すべき注意義務を負っています。授業中、特別活動、部活動などの場面ごとに、様々な内容の具体的な注意義務が想定されます。もちろん、日常的に行われる一般的な説諭(いわゆる「お説教」)だけでは、十分ではありません。教師に、注意義務違反となる事実があれば、損害賠償責任に問われることとなります。
また、教師個人だけではなく、学校自体(学校設置者。学校教育法2条1項)が責任に問われることも考えられます。私立学校であれば、民法715条、国公立学校であれば、国家賠償法1条などが法的根拠となります。学校は、生徒が安心して学ぶことができる場でなければならず、そのための安全を確保することは、学校に課せられた基本的な責務なのです(ちなみに、国家賠償法によれば、国公立学校では、教師個人は直接的な責任を負わず、学校設置者である国や地方公共団体が責任を負うこととなっています)。