第5回 松野泰也先生インタビュー
◆先生の専門分野である「リサイクル工学」について説明してください。
社会中に使用されている製品には、貴金属、レアメタル、その他金属や樹脂などの様々な素材が使われています。これらの素材を二次資源(都市鉱山)とみなして、使用済み製品から回収し再利用することで、天然資源の消費を抑制するとともに、エネルギー消費や温暖化ガス排出を削減することに貢献する学問です。
◆発展させようとしているご研究(とその方向性)は、どのようなものですか。
現在は、有機王水を用いた革新的な貴金属・レアメタル回収プロセスの開発に取り組んでいます。現在、わが国の都市鉱山からの金のリサイクル量は、概ね1000億円規模となっていますが、将来、中国などのアジア諸国では、1兆円規模になると推測されます。それらを有効に活用するためには、効率的かつ経済的さらには環境調和型のプロセスの開発が求められているのです。マテリアルフロー分析により、将来の日本および世界の都市鉱山のポテンシャルを推計するとともに、既存の水溶液王水、シアンを用いたプロセスに代わる、経済的かつ環境調和型リサイクルプロセスの開発に取り組んでいます。
◆先生が指導されている学生の研究テーマ・卒論テーマ、大学院生の研究テーマを教えてください。
・有機王水を用いた革新的な貴金属・レアメタル回収プロセスの開発 ・世界の銅のダイナミックマテリアルフローの解析 ・世界のステンレス鋼のダイナミックマテリアルフローの解析 ・夜間光衛星画像を用いた世界の鋼材ストック量の推計 ・1価銅を用いた高効率銅電解採取プロセスの開発 など
◆先生のゼミや研究室の卒業生は、どんな就職先で、どんな仕事をされていますか。
マテリアル工学で学んだ知識を生かして鉄鋼会社等のメーカーに勤める学生が多いが、中には総合商社に勤める学生もいます。在学中には、マテリアルフロー分析に関する研究テーマに従事し、将来の世界の銅等の都市鉱山の利用ポテンシャルの推計に取り組んでいた学生がいました。彼は、就職先の総合商社で、非鉄金属を取り扱う部署に配属され、鉱山に投資すべきか、それとも都市鉱山(二次資源)に投資すべきかの解析に取り組んでいるようです。まさに、リサイクル工学は、実学であり、社会にて活用されていることを実感しています。
◆研究室やゼミ、および授業(講義)では、どのような指導、内容の講義をされていますか。
都市鉱山を活用し、素材をリサイクルするためには、社会中にどれだけの活用ポテンシャルがあるかを、俯瞰的な視点から解析します。そして、その上で、実際に各種素材をリサイクルするための要素的技術開発を実施します。このように、私の研究室での指導は、俯瞰的(マクロな)視点に基づく解析と個別要素(ミクロな)技術の開発の両方をできる人材の育成です。自分の研究している技術が、何のために必要なのか、社会においてどのような貢献をするのかを、常にかんがえさせています。
◆先生は研究テーマをどのように見つけたのかを教えてください。
自分が学生のときは、資源問題というよりは、エネルギー問題、そして環境問題が大きく取り上げられていました。工学をもって、これらの問題に取り組む技術者・研究者になりたいと思い、この道を志したのです。その後、都市鉱山の活用が、資源問題、エネルギー問題、環境問題を解決する道であることから、自然と興味を持つようになり、近年では、環境調和型の貴金属・レアメタルの回収に取り組んでいます。
◆この分野に関心を持った高校生に、何を勉強していけばよいかアドバイスをいただけますか。
どんな専門的な内容でも、原理・原則は同じです。われらの研究は、物質保存則、熱力学に基づいている。高校生では、化学、物理などを勉強し、その面白さと大切さを知ってください。
<前回を読む>
第4回 電子機器を溶かして金属を取り出す、有機王水法を開発!
日本は世界1位の金属資源大国
平沼光(講談社+α新書)
身の回りの製品を例にあげ、レアメタル等についてわかりやすく解説している。どのような製品に用いられ、何故必要なのかについて解説している。近年のレアメタルを巡る世界の動向について述べ、わが国には社会中の製品に蓄積されている都市鉱山からのレアメタルの回収が重要であることを唱えている。さらには都市鉱山のみならず、島国である日本の周りに無尽蔵に存在する海水に含有されている資源についても解説している。「資源は地中に埋まっているもの」という常識を覆し、日本は資源大国であることを理解するとともに、それらの資源を有効活用するためには日本の英知、つまり工学が重要な役割を果たすことを解説した入門書である。
「ピンチをチャンスに変えてきた国」。これは、本書の最後の章で述べられている言葉。レアメタルを活用し、ハイテク製品を生み出してきた日本。そして、レアメタルが偏在するゆえ、かつてレアメタルの確保が困難となった問題も引き起こした。そして、その問題を解決するために、都市鉱山や海洋資源の活用など、わが国の英知を結集して取り組んでいる。まさに、わが国は技術立国であり、高校生諸君に工学の大切さ偉大さを理解し、この分野に進んで欲しいと願う。
廃棄物が膨大な資源となる近未来 ―課題と挑戦―
都市鉱山は、日本のあちこちに廃棄され散在している。都市鉱山を活用するには、全国に散在する使用済みストックを、効率的に回収・集積することが必要であり、さらには回収した使用済み製品から効率的に有用な金属を効率的に(経済的に)リサイクルする技術開発が必要である。そのためわが国では、自治体、企業、(大学も含む)研究機関が知恵をふり絞ってこの課題に取り組んでいる。
リサイクルは、技術開発をすれば実現できるものではなく、技術の壁、人の壁、社会の壁に取り組む。つまりリサイクル工学とは、要素技術の開発と俯瞰的視点に基づいた総合的な学問である。それらの努力により、「つい昨日までは「なかなか難しいだろう」と思われていたことも、明日には実現のめどがつき、明後日には実際に商業化されている(本書P.122)」のだ。
地上資源が地球を救う
馬場研二(技報堂出版)
地上資源(都市鉱山)と地下(天然)資源を対比させ、将来、人類が持続可能な(つまり次の世代に負荷を残すことなく生きていける)社会を構築するためには、都市鉱山の有効活用が必須となることを提唱している本。「エントロピー」なる熱力学で勉強する概念を、資源に関して適用し、わかりやすく解説している。高校生以上の読者であれば十分理解可能である。日本および世界各国のリサイクルの実情についても解説していてわかりやすい内容となっている。高校生以上、一般の人にも都市鉱山を理解するための本としてお勧めできる。