人工知能と機械学習の専門家、濱上知樹先生は「人工知能が社会を変えることはもう絵空事じゃない」と言い、人工知能と機械学習の進展は、産業革命、情報革命に次いで新しい知能革命を到来させると予測されます。人工知能と機械学習の大いなる挑戦について、高校生に語りました。
第1回 45年前に描かれた未来像とは?~人工知能の可能性
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みなさんは人工知能と聞くと、どんなことを思い浮かべますか? きっとロボットが喋ったり、人間っぽいふるまいをする何かを想像されるかと思いますが、研究者から見た人工知能はそれに限りません。もちろんそれも人工知能の一部ではあるけれど、もっといろいろな人工知能があります。その中でも私は「機械学習」を専門にしています。機械学習というのは、今、人工知能研究で最もホットな分野ですので、この言葉は覚えておいてください。
さて、今から45年ほど前、ある少年雑誌で「未来の世界はこうなる」という面白い特集記事が組まれました。それによると未来の世界では、人間の頭は人工脳に、心臓は人工心臓に置き換わっているだろうと予測している。さすがに人工脳はまだないけれど、人工心臓はすでに実現しています。
ほかにも東京の町にはホバークラフトという空気で浮遊する車、まあ空飛ぶ絨毯ですね、それが空を飛び交っている。町中に動く歩道がある。街頭にサイネージ(電子看板)があって、高速道路はすごいジャンクション(立体交差道路)になっていると予測しています。
学校では生徒1人に1台のパソコンがあり、遠隔操作で授業をしている。家庭でも一家に1台コンピュータがあって、例えば座るだけで家族の健康状態がわかる、配膳をするロボットや床を走り回って掃除する掃除ロボットが普及するというふうに予測しています。
当時の研究者が45年前にここまで予測したということもすごいですけど、もっとすごいのは、これらは現在ほとんど実現しているってことです。家庭用コンピュータの普及の予測だって、今やiPadができてもっと軽量・薄型化しています。さらに45年前、医療用に無人の手術室ができると予測していますが、これだって、ダビンチという遠隔操作のできる無人の手術ロボットができてしまいました。家庭用の掃除ロボットや配膳ロボットだって、もうかなりの部分でできつつあります。
みなさんどう思いますか? だいたいこういった未来像の予測って、夢があっていいね、Aということで終わってしまうものですけど、人工知能や電子電気、情報の世界というのは、この半世紀の間に本当に全部作ってしまった。人工脳だって夢ではないかもしれない。変化の真っ只中にいると気づきませんけど、これはすごいことなんです。
人工知能は私たちを滅ぼすのか―計算機が神になる100年の物語
児玉哲彦(ダイヤモンド社)
2030年に暮らす女子大生のマリが、卒業論文を書くために、アシスタント知能デバイス(A.I.D.)のピートと一緒に、AIの開発史を調べる旅という設定。第二次世界大戦中のナチスの暗号装置エニグマの解読機であるチューリングマシンから、パーソナルコンピューター、スマートフォン、クラウド、IoTを経て、人工知能が一般化する2030年までの100年の物語。進化の行きつく先は?
脳・心・人工知能―数理で脳を解き明かす
甘利俊一(講談社ブルーバックス)
「人工知能が人間の知能を凌駕し、社会に大変革が起こる技術的特異点が2045年頃に訪れるという説があり、脳の研究者もこれを他人事とみるわけにはいかない。脳研究は、いまや社会全体の関心事である」と語る数理脳科学の第一人者・甘利先生が、脳の誕生、その働き、さらに心や文明、人工知能についてなど、脳の世界を解き明かします。
知能の謎 ~認知発達ロボティクスの挑戦
けいはんな社会的知能発生学研究会 (著)(ブルーバックス)
目に見えない「知能」を、ロボットを介して目に見える形でとらえ、これを明らかにしようとする「認知発達ロボティクス」という分野の入門書です。身体を持ったロボットが外界と係わり合いながら知的な振る舞いを獲得(学習など)していく様子からは、単なるプログラムの振る舞いという以上の知能の本質に迫る様々な可能性がみえてきます。
アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
フィリップ・K・ディック(ハヤカワ文庫)
古い小説ですが、人工知能についていまなお多くの示唆を含むSFです。人造とそうでないものの違いはなにか、意識や心、生命とはという根源的な課題を問いかけてきます。この小説が原作である映画「ブレードランナー」もおすすめです。
ミンスキー博士の脳の探検 ―常識・感情・自己とは―
マーヴィン・ミンスキー (共立出版)
高校生向けの専門分野の入門的な書物。人工知能の父、ミンスキーの著作です。濱上先生がこの分野に入るきっかけとなったのは、同著者による『心の社会』。『心の社会』は高校生にはやや少し難しいかもしれませんが、この本は、かなり高い本にはなりますが、比較的平易で読みやすいです。今こうして考えている自分とはなんであるのか、誰しもが一度は持つ疑問に、人工知能の立場から答えてくれます。
ポスト・ヒューマン誕生―コンピュータが人類の知性を超えるとき
レイ・カーツワイル(NHK出版)
2045年、コンピュータの計算能力が全人類の知能を超えるという説がある。その先の急激に進展する未来を描く全米ベストセラーの邦訳版。遺伝子工学、ナノテクノロジー、ロボット工学の技術革命が鍵だと言う。600ページを超える大著、価格も高めだが、著者のレイ・カーツワイルは技術的特異点などで知られるフィーチャリストで、AI(人工知能)も含めて幅広い技術の進歩と未来について知ることができる。