結晶性の材料は社会の屋台骨! 結晶成長のメカニズムに迫る
結晶成長学は化学、物理、地学、生物に関連する総合科学
私は結晶成長学という学問の研究をしています。結晶成長学は結晶化のメカニズムを解明したり、結晶化を制御することによって社会に有用な材料を創出する学問です。
2014年にノーベル賞を取った青色発光ダイオードの研究が結晶成長学の研究の一例です。身の回りを見回すと、青色発光ダイオード(半導体)に留まらず、雪や氷、薬、骨・歯、チョコレート、ダイアモンド、スマホのアンテナ材、セメント、触媒、レーザー、蛍光体、プラスチック、さらに世界中で取り組まれているカーボンニュートラルを目指した二酸化炭素の固定化に至るまで、結晶成長が社会に貢献しています。結晶成長学は化学、物理、地学、生物のあらゆる分野に関連する総合科学であり、学術的に各分野の本質を担う重要学問です。
結晶が融ける現象にも謎が多い
ここではいくつかの研究の中で結晶が融けていく様子の研究を紹介します。例えば氷を想像していただいてもわかるように、融解という現象は私たちの日常生活でありふれている現象です。それにもかかわらず、融解現象は実はまだまだわからないことがあるのです。
表面融解と呼ばれる現象によって、融点よりも低い温度で結晶表面が液体でおおわれるということが知られており、この表面融解が皆さんが想像する融解現象の準備現象と信じられていました。
しかしながら、表面融解によって生成する液膜は非常に薄いことから、表面融解の存在を確認することが難しかったのですが、光学顕微鏡の技術が進み、原子レベルの高さを検出できる高分解能光学顕微鏡が登場し、氷の場合の表面融解が世界で初めて可視化されました。
世界初 有機結晶の表面融解の可視化に成功!
ただ、氷は、皆さんもご存じの通り、共有結合、イオン結合、配位結合など複数の結合が存在し、複雑な材料であるため、表面融解の本質がつかめなかったといういきさつがあります。
私たちは、結合の種類が分子間力しか働かない有機結晶に着目し、またさらに高分解能光学顕微鏡を改良し、世界で初めて有機結晶の表面融解を可視化することに成功しました。氷の場合とは全く異なり、有機結晶の表面融解が融解現象の準備現象である証拠をようやくつかみました。
有機結晶の表面融解を初めて観察することに成功した時は「よっしゃー!」と盛大にガッツポーズをとったことを鮮明に覚えています。
構想から8年 想い続けることこそが成功の鍵
私たちは「見えないものを見る科学」をモットーに、光学顕微鏡の力を信じて挑み、有機結晶の表面融解の可視化は構想してから8年後に成功しました。研究アイディアを8年間、誰にも言わず心の中にずっと隠し持っていました。
山口大学に赴任してから何年もお金がなく、そして誰も私がこんな研究をやるとは思われなかったのですが、想い続けることこそがこの研究の成功の鍵だったと私は思っています。振り返ると、苦しい時もありましたが、初志貫徹できてよかったです。
私が高校生の時、化学が得意だったのですが、浪人した時に先生のおかげで物理の楽しさに魅せられ、受験時には大学で化学と物理が融合したような学問を学びたいと思うようになりました。化学系の学部に入学し、物理化学という分野に出会い、物理化学をとにかく勉強しました。
わからないときはしつこく、物理化学の先生に質問しにいきました。その先生こそが結晶成長学の研究をされていたのです。結晶成長は化学と物理を融合した自分の興味のどストライクで、仕事にしてしまうほどはまってしまいました。研究室の先輩から聞くと、私が質問しにいくと時間がうんと取られるので、先生はうっとうしい学生がいると愚痴をこぼしていたそうです(笑)。そんなことは当時の私にはおかまいなしです。皆さんも学問との出会いを楽しんでもらえたらと思います。
「高分解能で高度なその場観察を駆使した表面融解のパラダイムシフト:氷から有機結晶へ」
◆主な業種
(1) 半導体・電子部品・デバイス
(2) セラミクス、ガラス、炭素
(3) その他の化学系
◆主な職種
(1) 基礎・応用研究、先行開発
(2) 設計・開発
(3) 生産技術(プラント系以外)
◆学んだことはどう生きる?
半導体、セラミクス、非鉄、化学、高分子、食品、セメントなど卒業生が働いている分野は千差万別です。それは結晶成長学という分野があらゆる分野と密接に関連している所以と言えます。結晶成長学の知識は社会に結晶性の材料を安定的に供給することと同義と言え、結晶性の材料は社会の屋台骨と言っても過言ではないでしょう。卒業生は各分野で材料の合成方法の開発から、製造プロセスの改良、品質管理の業務を行い、優良企業で活躍しています。
私たちの学科では科学研究費の採択率が高く、地方国立大学の中では恵まれた環境で研究することができると思います。私たちの学科の先生方はそれほど、先鋭的な研究をされているだと思います。私たちの学科では時流のカーボンニュートラルやエネルギーの研究から新材料の開拓だけでなく、生物や化学工学(プラントレベルのスケールの化学)の研究、計算科学を使った研究もできます。そればかりでなく、化学の学科では珍しく地球科学的研究や資源工学的研究もできます。
結晶成長学の研究も、化学系の中で5つの大学でしか研究できません。結晶成長学の基礎と応用を両方とも行っているのは私たちの研究室だけです。世界で一つしかない高性能な光学顕微鏡を使って研究できます。全世界で山口大学でしかできない研究が存在します。
右:いろんな実験で使用できるように最近購入した光学顕微鏡です。新たに改良をしていきます。
塩(NaCl)は私たちの日常生活において必要不可欠な結晶材料です。そして、結晶は美しく、ダイナミックに振る舞うため、見ていてとても楽しいです。塩を題材としてどのようにして結晶ができていくのか皆さんに知ってもらえればと思います。
全国各地にある塩田に出かけて、出来上がった塩の形を光学顕微鏡で観察してみましょう。また塩田で使用する水溶液を学校まで持って帰ってきてプレパラートの上で結晶ができる様子を観察してみましょう。塩田ごとにどんな特徴が現れるのか調べてみましょう。結晶化させるときの温度条件や不純物の成分の違いで結晶の成長メカニズムがどのように違うのか考えてみてほしいです。
| Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は? 同じように結晶成長学を学びたいです。 |
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| Q2.一番聴いている音楽アーティストは? 清木場俊介(1代目EXILEのボーカル)さんの曲です。山口県宇部市出身の方でこんなすごい方がいるとはと思い、最近はまっています。 |
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| Q3.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは? 4歳の娘と遊ぶことです。 |
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| Q4.好きな言葉は? 安っぽいですが、「よっしゃー!」です。口にすると何だか元気になれます。 |

