土木計画学・交通工学

歩行者の安全

VR空間で歩行者の行動を検証 より安全に歩ける道路計画


井料美帆先生

名古屋大学 工学部 環境土木・建築学科 環境土木工学プログラム(環境学研究科 都市環境学専攻 持続発展学コース)

出会いの一冊

持続可能な交通まちづくり 欧州の実践に学ぶ

宇都宮浄人、柴山多佳児(ちくま新書)

SDGs(持続可能な開発目標)という言葉は身近になっているのではないでしょうか。持続可能な社会を作るには、個々人の努力ももちろんですが、社会全体のシステムを考えていく必要があります。「交通」がいかにまちの持続可能性/不可能性を左右するのか、交通でどのようにまちを変えることができるのかがわかる本です。

ところどころ専門用語も使われているので、少し難しい部分もあるかもしれませんが、モビリティの重要性がわかる第4章、第5章や、事例紹介の第1章、第2章を読むだけでもよいでしょう。普段、ただ何となく使っているであろう道路や交通サービスの見方が変わると思います。

こんな研究で世界を変えよう!

VR空間で歩行者の行動を検証 より安全に歩ける道路計画

歩行者の交通死亡事故は、約35%

あなたが毎日通る道路は、安全で快適に歩ける場所ですか。

日本の交通死亡事故のうち、約35%以上が歩行者に関するものです。遠回りを強いられたり、十分な幅がなく、快適に歩けない道路も多くあります。ただでさえ狭いスペースに、最近では電動キックボードのような新しい乗り物も出てきて、歩行者の安全な環境を確保することは困難なのが現状です。

1本の道路だけで考えず、歩行者優先の道路を設け、自動車は他の走りやすい道路へと誘導するのも1つの方法ですが、これも簡単ではありません。

人の行動や心理は道路や乗り物の動きでどう変化するか

私たちの研究は、様々な乗り物と共存しつつ、歩行者の安全・快適性を高める方法を模索しています。キーワードは「人の行動原理の定式化」です。

たとえば、一見安全に見える場所では人は標識を無視したり、安全確認を怠ったりしがちです。こうした人の行動や心理が、道路の形状や周囲の乗り物の動きに応じてどう変化するか、実際の道路などでの観測調査や、仮想現実空間内で歩行者の判断を見る交通実験で詳しく調べます。

そして、人の判断のメカニズムを数式で表すモデルを作成しています。このモデルを用いて、歩行者が他の乗り物と安全にすれ違える道路環境や乗り物の条件(速度、減速の方法)、信号がなくても安全に横断できる横断施設、より良い信号のタイミングなどを求めています。最近では、建物内での移動支援ロボットと歩行者との共存もテーマにしています。

バーチャルリアリティ空間による道路の再現の様子です。仮想的に作った様々な道路環境で、歩行者、自動車のドライバーなどとして被験者に移動してもらい、行動の特徴を捉えます。
バーチャルリアリティ空間による道路の再現の様子です。仮想的に作った様々な道路環境で、歩行者、自動車のドライバーなどとして被験者に移動してもらい、行動の特徴を捉えます。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

私が生まれ育った名古屋は、戦後復興でとても広い道路が整備されています。これは車にとって便利ですが、歩行者にとっては横断が大変。まちの中心部も駐車車両で混雑し、子供ながらに不満を抱いていました。

大学進学時は、数式を道具として使うものづくりがしたくて工学部を選んだのですが、交通の分野は、人間の行動という意外なもの(?)を数理モデルとして扱います。その面白さと、子供のころの道路への印象が重なり、この分野を選んだ次第です。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「時空間的な横断選択行動を考慮した安全・円滑な歩行者横断施設計画方法の提案」

詳しくはこちら

先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
バーチャルリアリティの歩行実験の様子です。自分が動くと、あたかも自分が仮想空間の中を動いているかのように、周りの光景も移り変わります。これは短い距離の移動(横断歩道での横断)ですが、長い距離を動く時はコントローラなども使えます。
バーチャルリアリティの歩行実験の様子です。自分が動くと、あたかも自分が仮想空間の中を動いているかのように、周りの光景も移り変わります。これは短い距離の移動(横断歩道での横断)ですが、長い距離を動く時はコントローラなども使えます。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 建設全般(土木・建築・都市)

(2) 交通・運輸・輸送

(3) コンサルタント・学術系研究所

◆主な職種

(1) 技術系企画・調査、コンサルタント

(2) 保守・メインテナンス・維持管理、運用・システムアドミニストレータ・サービスエンジニア

◆学んだことはどう生きる?

建設コンサルタントや調査会社、高速道路会社、国家/地方公務員などに勤める卒業生がいます。交通・都市計画の専門分野の技術職の学生が多く、大学で学んだ土木工学、交通工学や、交通調査、データ分析手法に関する知識を活かしています。

シンクタンクに行った卒業生の1人は、大学院では留学生と共に学ぶ国際環境人材育成プログラムに参加していました。就職後は国内だけでなく、東南アジアなど海外のプロジェクトにも携わり、物流や土地利用の課題について調査しています。

先生の学部・学科は?

交通や都市の問題は複雑で、私が専門とする土木工学だけでなく、機械工学、情報学や経済学、心理学など、様々な分野に対して広い視野を持つことが必要です。

私のところは、学部は工学部ですが、大学院では「環境学研究科」という、理系と文系の両方が融合したところに進学しますし、交通を扱う教員が集結する「モビリティ社会研究所」もあります。自身の専門に加え、交通や都市を様々な切り口から学ぶ機会があるのが大きな特徴といえます。

鉄道会社との共同研究による、駅構内の観測の様子です。個人の特定をせず、広域の人の動きを分析することができます。
鉄道会社との共同研究による、駅構内の観測の様子です。個人の特定をせず、広域の人の動きを分析することができます。
先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

宇宙兄弟

小山宙哉(モーニングKC)

宇宙という舞台の魅力もさることながら、挫折や悩みを抱えつつも、目標に向かって真剣に取り組む主人公たちの人間味あふれる描写やセリフに共感を持ちます。冊数が多いですが、最初の数巻だけでも楽しめますよ。

一問一答