熱工学

熱輸送デバイス

宇宙から半導体まで 熱を自由自在に操るデバイスを


上野藍先生

名古屋大学 工学部 機械・航空宇宙工学科(大学院工学研究科 機械システム工学専攻)

出会いの一冊

夢の叶え方を知っていますか?

森 博嗣(朝日新書)

大学教育の現場に身を置く者として中高生にぜひ伝えたいメッセージを、わかりやすく代弁してくれるので、ご紹介します。

大学教員出身の著者が、「自分がみたい夢と、周囲にみせたい夢は違う」という出発点から、夢を“現実に変える”考え方を丁寧に解きほぐすエッセイです。研究者らしく「抽象的な夢」と「具体的な夢」を行き来しながら、周囲の目に左右されない夢や、自分で作っていく夢へと視点を導いてくれます。

私自身、幼い頃からアンパンマンの主題歌にある“なんのために生まれて、なにをして生きるのか?”という問いを耳にしてきましたが、この本を読んで初めて、その問いを行動に変えるコツが腑に落ちました。たとえば部活で新しい役割に挑戦したり、校外のイベントに顔を出したり―小さな実験を重ねるほど、他人にみせるための夢ではなく、自分が心から面白がれる夢の輪郭がはっきりしてきたのです。失敗は“ダメ”ではなく、次の手を学ぶ材料。インターネットやSNSの画面の前だけでは見つからない「原体験」の大切さを、実感できる一冊です。

こんな研究で世界を変えよう!

宇宙から半導体まで 熱を自由自在に操るデバイスを

宇宙空間で人工衛星が正しく働くために

私の研究の究極的な目標はひと言で表すと、“熱を自由自在に操る(制御する)”ことです。熱工学を土台に、ナノ・マイクロデバイス(物凄く小さな素子)の開発に取り組んでいます。

研究室のミッションは『熱を究め、地球そして宇宙の未来を拓く』。宇宙・住まい・車・スマホなど、活躍の場はとても広いです。たとえば人工衛星は、宇宙空間の約−270℃という極低温と、太陽光や機器の発熱がつくる高温が同居する世界にいます。そこで熱の出入りを上手にバランスさせ、衛星が正しく働くためのデバイスや仕組みを生み出しています。

曲げられてウェアラブルな熱輸送デバイス

近年は、スマートウォッチのような“曲げられる電子機器”や、高密度な半導体のための熱の管理(マネジメント)に注力しています。スマホを長時間使用すると熱くなるのは、高性能化により発熱量が増え、一方、本体が薄く小さいため、たまった熱を外に逃がしにくいからです。従来は熱がよく伝わる材料で熱を運んで捨てる方法が主流でしたが、私たちは液体⇄気体の状態が変化する“相変化”を利用し、電力なしで効率よく熱を運ぶデバイス化に挑戦しています。

相変化は、水が沸いて蒸気になったり、逆に戻ったりするときに大量の熱が移動する現象です。液体や気体を漏らさず保持できる柔らかな材料と構造を工夫し、曲面にも貼れる独自のマイクロポンプを実現しました。

ミクロの世界で熱の通り道をデザインするのが私たちの腕の見せどころ。これにより半導体の性能向上や省エネ、ウェアラブルの可能性拡大に貢献しています。将来はモノだけでなくヒトの快適な温度管理にも応用先を広げ、熱を“邪魔モノ”にせず“味方”にする社会の実現をめざします。

ウェアラブルな熱輸送デバイス:曲げても使える、新しいタイプの“熱を運ぶデバイス”です。身につけられる形で使えるため、将来は服やアクセサリーのように体にフィットして活用できる可能性があります。次世代の科学技術として注目されています。
ウェアラブルな熱輸送デバイス:曲げても使える、新しいタイプの“熱を運ぶデバイス”です。身につけられる形で使えるため、将来は服やアクセサリーのように体にフィットして活用できる可能性があります。次世代の科学技術として注目されています。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

学生の頃、宇宙飛行士の毛利衛さんの「宇宙から見た地球に国境線は無かった!」という言葉に心を動かされ、宇宙の仕事を志しました。大学4年でJAXAの研究生となり、当時は宇宙科学と宇宙工学の違いもよくわからず、まずは目の前の研究に挑みました。楽しみながら本気で研究する先生や先輩に刺激を受けて専門を決意。博士課程での先生方や仲間の支えもあり、「人は人で育つ」を実感。今もその気づきが進路の軸です。

実験風景:研究室で作った“熱を運ぶデバイス”が設計した通りに動くかを調べています。結果が出るたびにドキドキしながら、同時にワクワクできる瞬間です。
実験風景:研究室で作った“熱を運ぶデバイス”が設計した通りに動くかを調べています。結果が出るたびにドキドキしながら、同時にワクワクできる瞬間です。
先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「狭隘・伸縮空間での気液相変化素過程の理解に基づくストレッチャブル熱デバイスの創成」

詳しくはこちら

先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
研究室メンバーと研究室の合宿にて:個性あふれる仲間と力を合わせ、毎日「金メダルをとるぞ!」という気持ちで挑戦を続けています。楽しさと真剣さが同じくらいあるチームです。
研究室メンバーと研究室の合宿にて:個性あふれる仲間と力を合わせ、毎日「金メダルをとるぞ!」という気持ちで挑戦を続けています。楽しさと真剣さが同じくらいあるチームです。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

◆主な職種

◆学んだことはどう生きる?

先生の学部・学科は?

先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

宇宙は何でできているのか

村山 斉(幻冬舎新書)

宇宙が大好きになってから、学生のころに読んだ本の中で、いちばんわかりやすくて面白かったのがこの一冊です。宇宙論(宇宙の始まりやしくみを考える学問)を、むずかしい言葉をできるだけ使わずに説明してくれます。中高生にも読みやすいと思います。村山先生の本はどれも引き込まれ、2024年に出た『宇宙はなぜこんなにうまくできているのか』も次に読みたい一冊です。


すごい科学論文

池谷裕二(新潮新書)

脳研究者・池谷先生の本。AIから人食いライオン、毒キノコを食べる方法(※危険なので絶対にマネしない!)まで、いろんな分野の最新研究をやさしく紹介します。

「え、何それ?」と思う話が続き、一気に読める面白さ。論文は難しそう…と感じる人でも、ポイントが簡潔にまとまっているので安心です。科学が好きだけど分野に迷っている人にも、研究は好奇心が出発点で“なんでもあり”だと気づける一冊です。


決定版 中村天風の教えがマンガで3時間でマスターできる本

合田周平、堀田孝之(明日香出版社)

日本の実業家であり哲学者でもある中村天風さんの本です。彼の考えは、松下幸之助や大谷翔平といった有名な経営者やスポーツ選手にも大きな影響を与えたと言われています。

研究や挑戦には失敗がつきものですが、天風さんの言葉は「目標を見失わずに前へ進む勇気」を与えてくれます。数ある著書の中でも、この一冊は中高生にも読みやすく、心の持ち方次第で結果や気持ちが変わることを教えてくれる本です。勉強や部活で思うようにいかないときも、「心の力で未来を切り開く」ヒントをもらえる一冊です。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

工学、そして医学。精巧なシステムとしての人体の仕組みの奥深さに宇宙同様に興味があるので。

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

国外というより地球外の宇宙で暮らしてみたい。憧れ、そして、不自由さから多くの気づきが得られるから。

Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

保育士さんのお手伝い

Q4.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

週末に自然と戯れること

Q5.好きな言葉は?

人生、全て自分にとって最善の方向に進んでいる!