応用人類学

触覚と動作

触覚を活用した衣服やインソールで、転倒予防やより良い歩き方に


大下和茂先生

岡山県立大学 情報工学部 人間情報工学科

出会いの一冊

人間を科学する事典 心と身体のエンサイクロペディア

編集:佐藤方彦(東京堂出版)

身体に関する様々な疑問に、科学的な視点から解説した本です。生活の様々なシーン別に記載されているので、興味のあるものだけを読めるようになっています。少し難しい(専門的な)部分もありますが、人(ヒト)の身体に興味がある人には参考になる一冊と思います。

こんな研究で世界を変えよう!

触覚を活用した衣服やインソールで、転倒予防やより良い歩き方に

力加減は指からの触覚情報で

私たちの生活の様々な場面で触覚は重要な役割を果たしています。例えば、物を掴んで持ち上げる時、力が強すぎると物が壊れますが、表面が滑りやすければ、物が壊れない程度の強めの力が必要となります。この力の調整は物と接触する指からの触覚情報が重要であり、指先が冷えて感覚が低下すると、物が掴みにくくなることは想像できるかと思います。

足元への意識が高まる鳶職人の服

私たちの周りには触覚を活用した道具が多く存在します。例えば、鳶職人が着る裾の広がった服は、広がった部分が足の動きによりヒラヒラと動いたり、周りにある物と接触したりすることで、足元への意識が高まるとされています。このような効果を応用し、衣類の形状によっては身体部位の位置や動きが分かりやすくなり、高齢者の転倒予防やスポーツパフォーマンスの向上に繋がるのではないかと研究を進めています。

また、私たちが立っていられるのは、足底(足裏)の触覚で体重のかかり方を把握することが重要な一因です。そのため、インソールの形状を工夫し、足底からの触覚感覚を変化させることで、より良い歩き方に導こうとする研究も進めています。

VRやARにも触覚が活用される

最近は、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などで物に触れたときの触覚を再現する、いわゆる“触覚グローブ”などの開発も進んでいます。映画では立体映像の3Dから体感型の4Dへの発展が注目され、映像に触覚刺激を加えた4D映画の開発も進んでいます。このように、触覚活用に関する研究は今後もより発展していくと期待されます。

実験の様子。関節や筋肉の動きを測定しています。
実験の様子。関節や筋肉の動きを測定しています。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

触覚の活用に関して「これがきっかけ!」と言うものはないのですが、私はずっと水泳(競泳、フィンスイミング)をやってました。水泳をやっている人は分かると思うのですが、水を掻く際に“水を掴む感覚”などと表現します。また、泳いでるときには身体を“水が流れる感覚”を得ることも重要です。そう考えると、水泳は他のスポーツよりも触覚を意識しており、また全身の触覚も使うことから、触覚に対する親和性は高かったのかもしれません。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「衣類の着用による触覚情報を利用した日常生活動作向上に繋がる方策について」

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もっと先生の研究・研究室を見てみよう
研究室での測定の様子。超音波画像から脂肪や筋肉の量を測定しています。
研究室での測定の様子。超音波画像から脂肪や筋肉の量を測定しています。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

◆主な職種

◆学んだことはどう生きる?

先生の学部・学科は?

「人間情報工学科」と言うのは少し珍しい名前ではないでしょうか。ここでは、「人間中心の設計思想」の理念に基づき、使用する人の特性やニーズに沿った「もの」や「サービス」を設計できる人材の育成を目指しています。

学びの特徴として、プログラミングなどの情報工学に関する授業に加え、人(ヒト)に関する授業が開講されています。講義授業では、ヒトの特性(生理学や解剖学など)を学ぶ「人体の構造と機能」や、その特性が気温、昼夜、加齢などでどう変化するかを学ぶ「環境生理学」、実験授業では、身体機能や動作・行動を数値化する方法を身につける「人間情報工学実験」などがあります。

私は「生体情報計測研究室」を担当しています。今回紹介した触覚に関する研究に限らず、人の行動に伴う様々な生体情報を計測し、それに基づいて生活をより良くする方法や健康増進に繋がる方策を検討しています。

先生の研究に挑戦しよう!

・日常で触覚が活用されたものを探してみよう。
スマートフォンのバイブレーション、シャンプーボトルの横刻み、点字ブロックなど、触覚を利用した道具はたくさんあります。

・体の部位によって触覚の感じ方が違う?
先の尖った2本の細い棒を用意します(2本の間隔が3~4 mmのもの)。目を閉じた状態で、誰かに2本同時に体に押し当ててもらい、2本だと分かるか感じてみてください。例えば、人差し指の腹の部分に押し当ててもらうと、2本が当たっていると認識できると思います(写真)。他の部位ではどうでしょうか?2本かどうか分かりにくい部位もあります。触覚の感じ方は体の部位によって異なります。


触覚精度の測定。間隔が3~4 mm程度の先の尖った2本の細い棒を、誰かに2本同時に体に押し当ててもらう。当たっているのが2本かどうか、2本と分かる身体部位と分からない部位とがある。

触覚精度の測定。間隔が3~4 mm程度の先の尖った2本の細い棒を、誰かに2本同時に体に押し当ててもらう。当たっているのが2本かどうか、2本と分かる身体部位と分からない部位とがある。

中高生におすすめ

ソフィーの世界 哲学者からの不思議な手紙

ヨースタイン・ゴルデル、監修:須田朗、訳:池田香代子(NHK出版)

「一番やさしい哲学の本」と言われる哲学の入門本です。馴染みのない哲学者の名前が出てきて頭に入りにくい部分もあると思いますが、自分自身の存在やこの世の存在に対する一つの考え方として、物事の見方が広がる一冊かと思います。


日本国紀

百田尚樹(幻冬舎文庫)

私たちが生きる国がどのように成り立ち、今に繋がっているのかを知ることは大事だと思います。2000年以上を経て今に至る日本の歴史が読みやすくまとめられた一冊です。歴史の教科書には載ってないような事が書かれていたり、近現代史に多くを割いていたり、学校での歴史の授業とは違う視点で楽しめます。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

興味のあることはたくさんあるのですが、現在の専門に関するもの以外であれば、「海洋科学(生物学、工学)」、「近・現代史」や「神道」です。

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

温暖な気候と海が好きなので、地中海周辺の国(でも、日本以外で暮らそうと思ったことはありません)。

Q3.大学時代の部活・サークルは?

高校までは水泳で、大学に入ってからはフィンスイミングと言う、足ヒレを付けて泳ぎ速さを競う競技をしてました(部活ではなく、地域のチームで)。

Q4.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

スクーバダイビング(海が好きです)。


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