生物多様性・分類

サワシロギクと内生菌

カビがキクの進化を助ける? 植物と内生菌のふしぎな関係


西野貴子先生

大阪公立大学 理学部 生物学科(理学研究科 生物学専攻)

出会いの一冊

多様な花が生まれる瞬間

奥山雄大(慶應義塾大学出版会)

研究という冒険がどのように展開していくか、ライブ感いっぱいに書かれています。最新の知見もあり、学術的には難しい内容も含まれているのですが、それを平易にわかりやすく書いてあり、専門的な知識がなくても読み進めることができます。

そして研究がどう進んでいくのかというだけでなく、研究者として成長していくプロセスも同時に盛り込まれていて、研究は冒険と同じように中毒性があることもわかるかと思います。

何よりも種分化という進化の大事件が、「今、ここで普通に、でも偶然に起きている」という感覚を持てる本です。

こんな研究で世界を変えよう!

カビがキクの進化を助ける? 植物と内生菌のふしぎな関係

湿地vs.重金属が多く保水性もない土壌

「発芽実験、滅菌したのにカビが生えて失敗かも」という卒業研究の学生の一言、これが今の研究に繋がりました。

その実験は、サワシロギクという白い花の野菊の種子で、発芽率を出すものでした。サワシロギクは絶滅の危機に瀕しつつも日本全国の湿地に生育していますが、中には、蛇紋岩土壌という、重金属が多く貧栄養で保水性もない、多くの植物からは嫌われる環境に生育しているものもいます(以下、それぞれの植物を湿地型、蛇紋岩型と呼びます)。

湿地と蛇紋岩土壌という対極的な環境に、遺伝子の何が違って適応しているかを探るための第一段階の実験でした。

カビがモコモコ、芽生えも元気

失敗と聞きがっかりしながらも、その原因を考えるため、種子を播いた寒天培地のシャーレを眺めていました。

「でも、蛇紋岩型の芽生えの方が元気みたい」と学生が落ち込んだ声で言うのを聞きながら、ふと、もうひとつ、私も気づきました。湿地型よりも蛇紋岩型の種子の周りの方が、カビがモコモコと盛大に生えていて、カビが元気だと芽生えも元気。

もしやカビがサワシロギクの芽生えの成長を助けていて、蛇紋岩型ではカビの助けが大きいのかも、そんな思いつきを確かめたくて研究の方向を大転換。

重金属を無毒化する内生菌

その後、カビは種子の中にいる内生菌であり種子を通じて子に伝わること、蛇紋岩型のサワシロギクでは場所ごとに特有な内生菌の種類がいること、特に重金属量が多いところでは重金属を無毒化する力の強い内生菌がいること、そして、湿地型では病原菌となる菌類の一種が、何と蛇紋岩型では植物の中で強力に重金属を無毒化しているらしいのです。

「昨日の敵は今日の友」、こんなことが植物と菌類にもあるのかもしれません。そして、今、同じようなことが蛇紋岩土壌に生育するほかの植物でも起きていないか、研究を進めています。

蛇紋岩土壌に生育するサワシロギク(蛇紋岩型)。湿地型はもっとすらりとした印象のものが多い。
蛇紋岩土壌に生育するサワシロギク(蛇紋岩型)。湿地型はもっとすらりとした印象のものが多い。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

小さい頃から自然や生き物が好きという人も多いですが、残念ながら読書好きなインドア派でした。中学あたりから新書で科学関連の本を読むようになり、その中でも動物や人類の本が面白く感じたのですが、植物には興味を惹かれませんでした。

ところが、大学で植物分類学の授業を受けたとき、授業中に色々な疑問が湧いて先生に質問したところ、先生にははっきりと答えてもらえず、自分で調べたり、疑問のままだったり。それで自分で謎解きがしたくなったわけですが、もしかするとそれが先生の作戦だったかもしれません。

青みを帯びてつややかな蛇紋岩。蛇紋岩は風化して崩れやすいため、サワシロギクの蛇紋岩型の調査のときは足場が悪く斜面を何度も滑る。周りと比べて植物が少ないがわかる。
青みを帯びてつややかな蛇紋岩。蛇紋岩は風化して崩れやすいため、サワシロギクの蛇紋岩型の調査のときは足場が悪く斜面を何度も滑る。周りと比べて植物が少ないがわかる。
先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「発芽時の内生菌による蛇紋岩適応は植物で平行的に進化したか」

詳しくはこちら

先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
実験室でDNAなどをもちいた分子実験や発芽実験などもするが、進化の現場である野外調査も大切。分析のために、植物だけでなく重い土壌を持ち帰ることも。
実験室でDNAなどをもちいた分子実験や発芽実験などもするが、進化の現場である野外調査も大切。分析のために、植物だけでなく重い土壌を持ち帰ることも。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

◆主な職種

◆学んだことはどう生きる?

研究材料が身近な植物であることも多く、その知識を活かして、高校の先生や博物館のサイエンスコミュニケーターになった人たちがいます。

また、ゼミでは植物標本の作り方、観察方法、名前の調べ方など、大学にあるような実験装置や薬品がなくても、大学を出た後でもできる植物の研究方法を学ぶ機会があります。働き方ではありませんが、趣味で山歩きをしたり、地域の植物同好会に入ったりすることで、大学で学んだことが心豊かな生活に一役買っているかもしれません。

先生の学部・学科は?

ほかの大学の理学部生物学科と同じように、ミクロからマクロレベルまでの幅広い研究分野が揃っているのは同じですが、特にマクロレベルの研究者の比率が高いのが特色です。日本全国はもとより、熱帯の森林や、アフリカの湖など、世界のあちこちに調査に行く研究室もあります。

また、植物園がある大学は数えるほど少ないのですが、大阪公立大学には大阪府内に26ヘクタールの広大な植物園があり、そこで卒業研究をすることもできます。

先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

バッタを倒しにアフリカへ

前野ウルド浩太郎(光文社)

研究は思うようにいかない、というのが面白いのだと、前向きな気持ちになります。挫けそうな時にも笑って読めます。


新種発見物語 足元から深海まで11人の研究者が行く!

島野智之(岩波ジュニア新書)

そこまでして発見したいという情熱はどこから来るのか不思議に思うほど、発見の裏話が満載です。


エラリー・クイーンの冒険

エラリー・クイーン(創元推理文庫)

今や推理小説の古典ですが、謎解きのおもしろさは科学でも同じで、その論理的構成はクイーンがピカイチです。この短編集が面白かった人には、長編もおすすめです。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

やはり、植物分類学。そして、生態学も人類学も。それから、建築学や心理学もおもしろそうだし、どうしよう。

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

タイムマシンでダーウィンに会いに行きたいからイギリス。

Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

新聞社で、選挙の開票速報を電話で受けて、計算機で集計するアルバイト。

Q4.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

料理。材料、調理器具、即興の調理過程、盛付け、そして「ごちそうさま」まで全部楽しめるから。


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