カビがキクの進化を助ける? 植物と内生菌のふしぎな関係
湿地vs.重金属が多く保水性もない土壌
「発芽実験、滅菌したのにカビが生えて失敗かも」という卒業研究の学生の一言、これが今の研究に繋がりました。
その実験は、サワシロギクという白い花の野菊の種子で、発芽率を出すものでした。サワシロギクは絶滅の危機に瀕しつつも日本全国の湿地に生育していますが、中には、蛇紋岩土壌という、重金属が多く貧栄養で保水性もない、多くの植物からは嫌われる環境に生育しているものもいます(以下、それぞれの植物を湿地型、蛇紋岩型と呼びます)。
湿地と蛇紋岩土壌という対極的な環境に、遺伝子の何が違って適応しているかを探るための第一段階の実験でした。
カビがモコモコ、芽生えも元気
失敗と聞きがっかりしながらも、その原因を考えるため、種子を播いた寒天培地のシャーレを眺めていました。
「でも、蛇紋岩型の芽生えの方が元気みたい」と学生が落ち込んだ声で言うのを聞きながら、ふと、もうひとつ、私も気づきました。湿地型よりも蛇紋岩型の種子の周りの方が、カビがモコモコと盛大に生えていて、カビが元気だと芽生えも元気。
もしやカビがサワシロギクの芽生えの成長を助けていて、蛇紋岩型ではカビの助けが大きいのかも、そんな思いつきを確かめたくて研究の方向を大転換。
重金属を無毒化する内生菌
その後、カビは種子の中にいる内生菌であり種子を通じて子に伝わること、蛇紋岩型のサワシロギクでは場所ごとに特有な内生菌の種類がいること、特に重金属量が多いところでは重金属を無毒化する力の強い内生菌がいること、そして、湿地型では病原菌となる菌類の一種が、何と蛇紋岩型では植物の中で強力に重金属を無毒化しているらしいのです。
「昨日の敵は今日の友」、こんなことが植物と菌類にもあるのかもしれません。そして、今、同じようなことが蛇紋岩土壌に生育するほかの植物でも起きていないか、研究を進めています。
小さい頃から自然や生き物が好きという人も多いですが、残念ながら読書好きなインドア派でした。中学あたりから新書で科学関連の本を読むようになり、その中でも動物や人類の本が面白く感じたのですが、植物には興味を惹かれませんでした。
ところが、大学で植物分類学の授業を受けたとき、授業中に色々な疑問が湧いて先生に質問したところ、先生にははっきりと答えてもらえず、自分で調べたり、疑問のままだったり。それで自分で謎解きがしたくなったわけですが、もしかするとそれが先生の作戦だったかもしれません。
「発芽時の内生菌による蛇紋岩適応は植物で平行的に進化したか」
ほかの大学の理学部生物学科と同じように、ミクロからマクロレベルまでの幅広い研究分野が揃っているのは同じですが、特にマクロレベルの研究者の比率が高いのが特色です。日本全国はもとより、熱帯の森林や、アフリカの湖など、世界のあちこちに調査に行く研究室もあります。
また、植物園がある大学は数えるほど少ないのですが、大阪公立大学には大阪府内に26ヘクタールの広大な植物園があり、そこで卒業研究をすることもできます。
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は? やはり、植物分類学。そして、生態学も人類学も。それから、建築学や心理学もおもしろそうだし、どうしよう。 |
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Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? タイムマシンでダーウィンに会いに行きたいからイギリス。 |
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Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは? 新聞社で、選挙の開票速報を電話で受けて、計算機で集計するアルバイト。 |
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Q4.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは? 料理。材料、調理器具、即興の調理過程、盛付け、そして「ごちそうさま」まで全部楽しめるから。 |