文化財科学・博物館学

鳥の生態

羽から鳥の生態がわかる!将来は博物館の鳥類標本からも


武山智博先生

岡山理科大学 生物地球学部 生物地球学科(理工学研究科 自然科学専攻)

出会いの一冊

フィンチの嘴 ガラパゴスで起きている種の変貌

ジョナサン・ワイナー、訳:樋口広芳、黒沢令子(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

生物の進化が「現在進行形」で起きていることを知った本で、大学生のときに出会いましたが今でもとても印象に残っています。

グラント夫妻が、ガラパゴス諸島に生息する小鳥であるフィンチ(チャールズ・ダーウィンにちなみダーウィン・フィンチともよばれる)を対象に行った長期の野外調査に基づく研究が主な内容です。

気候の変動(干魃と大雨)にともなう餌の種子のサイズと豊凶の変化による自然淘汰を受け、フィンチの嘴のサイズがダイナミックに変動してゆく様をまざまざと描写している。生物の進化についての入門書としてもお勧めです。

こんな研究で世界を変えよう!

羽から鳥の生態がわかる!将来は博物館の鳥類標本からも

鳥の羽で食性や渡りを調べる

我々の研究グループは、鳥の羽の安定同位体を分析することで、日本に生息する鳥たちの食性や渡りについて知りたいと考えています。この研究プロジェクトでは、安定同位体を分析するのに必要な試料を、鳥の体のどの部分の羽からどの程度の量を採取すれば十分か、その際の羽の損傷がどの程度であるのかを調べます。それは、将来的に博物館に収蔵されている標本から、なるべく損傷を少なくして羽試料を採取したいからです。

【安定同位体分析とは】
安定同位体は、「同じ原子番号をもつ原子(原子核)で質量数が異なるもの」を指します。生物の体を構成する主な元素は、炭素、窒素、水素、酸素などには同位体が存在します。例えば炭素には、原子量(質量数)が12の12Cとそれよりわずかに重い13の13Cの2つの安定同位体があります。地球上に存在する炭素は、その大部分(98.89%)が12Cであり、13Cはわずか1.11%のみ存在します。安定同位体を用いた研究では、ある試料中の13Cと12Cの存在比(13C/12C)を用いた炭素安定同位体比として表します[正確には、12Cの「標準物質」に対する13Cの比である‰(パーミル、1000分率のこと)で示す]。

生物の安定同位体を分析すると何が分かるのか

質量数が異なる安定同位体は、互いに物理化学的な性質は大変似ているものの、熱力学的な性質が異なっています。例えば光合成のような生化学な反応が生じる際、重い炭素と軽い炭素との間では反応速度が異なります(軽い方が速い)。これを同位体効果と呼びます。炭素固定を行う光合成回路が異なるC3植物(イネやコムギなど)とC4植物(トウモロコシやサトウキビなど)との間では、炭素安定同位体比の値がそれぞれ-27(‰)程度、-14(‰)程度と差があります。

食物連鎖は生き物同士の「食う-食われる」の関係ですが、「食う-食われる」が複数回繰り返されても、炭素安定同位体比の値はあまり変化しません。一方、窒素安定同位体の値は、「食う-食われる」が1度生じる毎に、一定の値(おおよそ3.8‰)上昇します。これら2つの安定同位体分析を組み合わせると、食物連鎖を介した生物どうしの繋がりを推定することができます。

また、あらゆる生物に含まれる水は水素と酸素から構成されますが、水は蒸発や発散する際の同位体効果が緯度(気温)の違いによって異なるため、これらの安定同位体は緯度の違いを反映します。そこで、日本で冬を越す渡り鳥(繁殖地は日本より高緯度地域)の水素と酸素の安定同位体比を分析すれば、どこで繁殖しているのかを推定することも可能になります。

沖縄の固有種に注目、安定同位体に雌雄差が見いだせるか

私たちが今回注目している鳥類に、中琉球とよばれる奄美諸島と沖縄諸島に生息する固有種があります。中琉球の島々に棲む生物は独特の進化を遂げ、ユニークな生態を持つものが少なくありません。

その一つ、沖縄島北部のやんばるの森に生息するキツツキであるノグチゲラは、この研究プロジェクトの分担研究者らの長年にわたる野外調査から、オスとメスとの間で採餌場所や餌生物が異なっていることが分かってきました。ノグチゲラの羽の安定同位体には、この雌雄差が反映されているのでしょうか、分析結果が楽しみです。

日本動物行動学会の年会にて、アフリカのシクリッドの協同繁殖行動に関する研究を発表
日本動物行動学会の年会にて、アフリカのシクリッドの協同繁殖行動に関する研究を発表
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「鳥類標本の羽から探る生態と種分化」

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研究室では魚類の水槽実験も行っています。
研究室では魚類の水槽実験も行っています。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) コンサルタント・学術系研究所

(2) 農業、林業、水産業

(3) 小・中学校、高等学校、専修学校・各種学校等

◆主な職種

(1) 技術系企画・調査、コンサルタント

(2) 生産管理・施工管理

(3) 中学校・高校教員など

◆学んだことはどう生きる?

インフラや環境リスクに関するコンサルティング業務を請け負う企業に就職し、環境計測などの業務を担当している卒業生がいます。

卒業研究では外来種と在来種の淡水魚の分布の違いと生息環境について取り組んでいました。毎週のように調査地へ通い、採集と環境要因のデータを集めていました。現場で「モノを見る」力と、得られたデータを解析し生物との関連を検討した経験が活かされていると感じます。

先生の学部・学科は?

生物地球学科の特色は2つあります。1つ目はフィールド・ワーク(野外での活動)を中心に教育と研究を進めている点です。私の担当する実習では、生き物が生息する場所、例えば河川や磯へ出かけ、事前に学んだ調査方法を実践したり、生物の種を同定し生物多様性の程度を評価するような、実際の「現場」でしか出来ない内容を扱っています。

2つ目は「植物・園芸学」「動物・昆虫学」「地理・考古学」「地球・気象学」「天文学」「恐竜・古生物学」の6コースがあり分野横断的な学びが出来る点です。多くの大学ではこれらの分野は複数の学科に分かれており、学科を超えた学びの機会は少ないのではないでしょうか。

先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

生き物をめぐる4つの「なぜ」

長谷川眞理子(集英社新書)

私はもともと動物の行動に興味がありましたが、大学生のときに授業で「4つのなぜ」に出会いました。これは、動物行動学の草創期を代表する研究者の一人であるニコラース・ティンバーゲンにちなみ、ティンバーゲンの4つの問いとして知られています。例えば、春になると私たちのまわりではツバメなどの鳥たちが、歌い(さえずり)はじめます。それはいったいなぜでしょうか? そのなぜには、4つの異なる問い方(答え方)がありますよ、というのがティンバーゲンの「4つの問い」です。

私が特に面白いと感じたのは、そのうち「究極要因」と呼ばれるものですが、他の3つの答え方には何があるのか、さまざまな動物を引き合いに分かりやすく書かれている本書で探してみてください。


カラー図解 進化の教科書 第1巻-第3巻

カール・ジンマー、ダグラス・J・エムレン、訳:更科功、石川牧子、国友良樹(講談社ブルーバックス)

高校生では少し難しい部分があるかもしれませんが、図が豊富で分かりやすく進化について学べます。高校の生物の教科書で扱っている内容が最近の研究とどう結びつくのか、といった点も参考になります。「フィンチの嘴」の研究も紹介されています。


捕食者なき世界

ウィリアム・ソウルゼンバーグ、訳:野中香方子(文藝春秋)

捕食者がいなくなったら生態系はどうなるのでしょうか。生物多様性や生態系がどのように成り立ち、維持されているのか、人の活動がどのようにそれらに(悪)影響を与えたのかを様々な研究を紹介しながら解き明かしています。教科書にも出てくる「キーストーン種」を見出した研究が興味深かったです。

次作の『ねずみに支配された島』も併せて読むと良いでしょう。島の生態系の独自性と脆弱性が取りあげられています。人が島に持ち込んだネズミやネコによって島の生物たちに何が起きたのか、またそれらの生物を守るために人が何を行ったのかを知ることができます。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

今と同じ生物学(生態学)ですね。

Q2.一番聴いている音楽アーティストは?

私は80年代の洋楽(ロックミュージック)を聴いて育ちましたが、その後、The Allman Brothers Bandに代表されるサザン・ロックと呼ばれる70年代の音楽ジャンルや、そのルーツである60年代のブルースも聴くようになりました。また、ブルーノート・レコードの50年代や60年代のジャズも時々聴いています。

Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

みかんの収穫のお手伝いです。先輩のご実家がみかん農家であった縁でアルバイトに行きました。

Q4.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

様々な人の生き方や考え方、社会の成り立ちや仕組みに関して知ることができるため、歴史に興味があります。歴史小説も含め幅広い時代の本を読んでいますが、最近は古代中国や近代ヨーロッパに関する本が多いですね。後者は現在の世界情勢を知る上でも欠かせないと思います。


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