電波の混信を克服し、限りある周波数資源を有効に使おう
異なる通信システムは同じ周波数上に入れない?
無線通信は電波を使って行われます。その電波には“周波数”と“帯域幅”という概念があります。両者はそれぞれ、道路を敷設する“場所”と“車線”として置き換えて考えることができます。帯域幅(車線)は大きいほど多くのデータトラフィックを送ることができ、つまり高速な通信が可能となります。
例えば、携帯電話システムをある周波数(場所)と帯域幅(車線)の上でサービスを展開すれば、他のシステム(無線LANなど)を同じ周波数上に導入することはできません。電波が混信するためです。
電波干渉をいかに除去するか
電波の混信を克服することができれば、システム間の周波数の棲み分けを考える必要がなくなり、周波数資源を使いたいだけ使えるようになります。この世界の実現に向けて、無線機に複数のアンテナを備えたアレーアンテナを活用した電波干渉除去技術の研究に取り組んでいます。
システム間の電波干渉をいかに抑圧するか、という点が問題になりますが、受信機において複数のアンテナを備え、それらの受信信号をうまく合成することで欲しい信号を取り出し、不要な信号を除去する学習型のアルゴリズムが存在します。
機械学習を応用、アルゴリズムを改良
しかし、異なるシステムでは干渉信号がどのようなものかを知ることはできません。いつ、どこから、どれぐらいの大きさで干渉信号が到来するのかを知る必要があります。そこで、機械学習を応用した干渉推定の方法や、アレーアンテナのアルゴリズムそのものへの改良など、様々なアプローチから研究を行っています。
難しい問題のように見えますが、この研究を始めたときに、ひとつのアイデアが浮かび、解決に向けた見通しを得ることができました。このアイデアが浮かび、うまくいったときのワクワク感が私の研究に対するモチベーションとも言えます。
大学で指導教官の授業を受けていたとき、携帯電話システム(当日は3G)の仕組みや通信速度といった具体的な内容を聞き、興味を抱いたのを覚えています。
研究室にも無事配属され、そこでは無線LANが電波干渉を上手く回避しながら通信する仕組みを学び、それをさらに改善する通信手順の研究に取り組みました。大学院ではその手法を無線LAN機器に追加して実用化するプロジェクトが始動し、合宿や実験などに打ち込みました。ここから無線通信の変調方式やアンテナ信号処理などの知識を広げ、現在の専門分野に至ります。
「超多端末収容のため多次元信号処理による多チャネル推定」
◆主な業種
(1) 通信
(2) コンピュータ、情報通信機器
(3) 大学・短大・高専等、教育機関・研究機関
◆主な職種
(1) 基礎・応用研究、先行開発
(2) 設計・開発
(3) 大学等研究機関所属の教員・研究者
◆学んだことはどう生きる?
まだ研究室が立ち上がって2年であり修士卒がおりませんので、具体的な事例は挙げられませんが、学生は無線通信の専門性・知識を活用して通信キャリアや関連するメーカーへの就職に向けた活動をしています。また、光カメラ通信ではカメラやイメージセンサの内部処理などについても知識を得られるので、これに関連するメーカーも候補となります。
純粋に研究に取り組みたい場合には、博士課程への進学も歓迎しています。大学教員などアカデミックな職業は、とくに培ってきた専門性を十分に活用できます。
名称は「電気工学科」ということでいかにも電気回路を扱ったり実験ばかりというイメージですが、電気工学にはプログラミングやソフトウェアの要素も多分に含まれます。また、このシンプルな名称には時代の流行にとらわれず基礎を重んじる意味合いもあると思っています。
その上でAIなど近年の流行もきちんと取り入れながら、「電気工学分野(エネルギー・制御)」「情報工学分野(通信・情報)」「電子工学分野(材料・エレクトロニクス)」から幅広く学ぶことができます。
通信は数学で表現することができます。電波はある周波数fcで振動する波なので、角周波数ω1=2πf1として、
g(t) = A・cos(2πf1・t)
として書くことができます。これは搬送波と呼びます。
また、送りたい情報信号(音声など)は、任意の波形となりますが同様にω2=2πf2という周波数を持つ信号として
s(t) = B・cos(2πf2・t)
と書きます。ここで、音声信号は高くても20kHz程度です。一方で電波は、例えばWiFiだと2.4GHzぐらいの周波数です。
つまり、f1>>f2という関係です。
(1) 無線通信は「変調」という操作を行い、情報信号s(t)を搬送波g(t)に乗せて空間に放射します。
変調信号は
x(t) = s(t)・g(t)
として書き表すことができます。積和の公式を使って展開してみましょう。
この信号には2つの周波数成分が現れることになりますが、どちらか一方を使います。
この信号が送信アンテナから放射され、受信アンテナに届きます。
(2) 受信した後は、もとの信号s(t)を取り出す必要があります。
その方法としては、搬送波を再度変調信号に乗算することで実現できます。
r(t) = x(t)・g(t)
同様に、積和の公式を使って展開してみましょう。すると、不要な成分が残るはずです。
これは低域通過(ローパス)フィルタを使って除去することができます。
こうして、もとの信号s(t)の成分「cos(2πf2・t)」を得ることができれば、通信成功です。
以上の流れを数式計算により確認してみましょう。
(3) 搬送波g(t)の周波数はWiFiだと2.4GHz、と書きましたが、他の無線通信システムとして例えば
・4G(LTE)
・5G
・WiGig
などいろいろあります。それらがどの周波数を使っているのか、調べてみましょう。
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は? 量子力学。今後の実用化に向けて非常に注目されています。 |
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Q2.大学時代の部活・サークルは? バンドサークルでギターや楽曲制作に明け暮れていました。 |
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Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは? コンサートなどイベント運営のスタッフ。コミケや戦隊ショー、演歌歌手のステージなど覗くことができました。 |
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Q4.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは? 休日に子供(3人)と遊んだり、出かけることです。 |