数理物理・物性基礎

粒子系

粒子の動きに数値シミュレーションで迫る


齊藤国靖先生

京都産業大学 理学部 物理科学科(理学研究科 物理学専攻)

出会いの一冊

新しい自然学 非線形科学の可能性

蔵本由紀(ちくま学芸文庫)

学生の頃、著者の蔵本先生の講義で統計力学を学びました。いま振り返ると素晴らしい講義で、「非平衡系を知るには平衡系に精通しなければならない」と仰っていたのをよく覚えています。

著者の先生は非線形科学の世界的権威で、自然や生命における複雑な現象に対し、物理学が持つ新たな可能性を丁寧に説明されています。平衡系の統計力学から新たな学問分野を切り拓いた著者の思いを垣間見られる本だと思います。

こんな研究で世界を変えよう!

粒子の動きに数値シミュレーションで迫る

自然の中の物質はほとんどが非平衡状態

大学で学ぶ物理の中に統計力学という科目があります。

統計力学は現代物理の主幹となる重要な学問の一つで、大学生レベルでは主に物質の平衡状態を扱います。平衡状態とは、物質が均一で物理量の値が永久に変化しない理想的な状態のことです。

ところが、自然の中の物質は時間的に変化したり、空間的に非一様で流れが生じたりと、平衡状態ではなく非平衡状態であることがほとんどです。この様な物質の非平衡状態を扱うのが非平衡物理学であり、私達の研究の大きなテーマになります。

外力で非平衡状態になる粒子系

非平衡物理学の対象は多岐にわたりますが、私の研究室では特に古典的な粒子系を扱います。

例えば、泡、エマルジョン、粉体など、個々の粒子がエネルギーを保存しない散逸粒子系のモデルについて詳しく調べており、理論と数値シミュレーションの両面から研究に取り組んでいます。

散逸粒子系は巨視的な粒子の集まりなので、粘性力や摩擦力によってエネルギーを散逸するという特徴があります。従って、外力が無ければ静止状態に陥りますが、外力を加え続けると、外部からのエネルギー注入と内部のエネルギー散逸がバランスした非平衡定常状態に陥ります。

液相から固相へ ジャミング転移

また、密度に応じて気相・液相・固相に区別され、特に液相からアモルファス固体への変化はジャミング転移と呼ばれ、重要な研究テーマの一つです。

さらに、最近はジャミング転移した粒子系の固有振動に注目し、粒子間の摩擦や粒子の変形、粒子の形状などがマクロなレオロジーにどう影響するのか、擬フロッピーモードという新しい概念を使って解き明かす研究をしています。

ジャミング転移した粒子系の数値シミュレーション。粒子の大きさ(粒径)が幅広く分布しているため、多分散性があると言われます。灰色の実線は粒子間に働く力のネットワークであり、粒子の色(青色)はある粒子からのネットワーク距離を表します。
ジャミング転移した粒子系の数値シミュレーション。粒子の大きさ(粒径)が幅広く分布しているため、多分散性があると言われます。灰色の実線は粒子間に働く力のネットワークであり、粒子の色(青色)はある粒子からのネットワーク距離を表します。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

大学生の頃、自己組織化という言葉に出会い、自然や生命が持つ複雑な構造はどうして形成されるのかという問いに興味を持ちました。この問いの背景には非線形・非平衡物理学という当時としては新しい学問分野の発展があり、大学で学んだ統計力学を非平衡系に拡張する研究がしたいと思うようになりました。

大学院に入ると、最も単純な非平衡系の一つである粉体の研究に出会い、現在でも粉体を題材にした非平衡統計力学の研究を続けています。

せん断変形で降伏した粒子系の数値シミュレーション。実線が粒子間に働く力のネットワークであり、降伏によって力が増えたものを赤色、減ったものを青色で表しています(図では粒子自体は描かれていません)。また、線の太さで力の増減を表しており、降伏によって力の変化がある特定の領域に集中することが解ります。
せん断変形で降伏した粒子系の数値シミュレーション。実線が粒子間に働く力のネットワークであり、降伏によって力が増えたものを赤色、減ったものを青色で表しています(図では粒子自体は描かれていません)。また、線の太さで力の増減を表しており、降伏によって力の変化がある特定の領域に集中することが解ります。
先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「擬フロッピーモードで解き明かす粒子系の摩擦・変形・形状とレオロジーの関係」

詳しくはこちら

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研究室の入口に飾った粒子系の画像。粒子間に粘着力が働く粒子系の数値シミュレーションによるものです。
研究室の入口に飾った粒子系の画像。粒子間に粘着力が働く粒子系の数値シミュレーションによるものです。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) コンピュータ、情報通信機器

(2) 半導体・電子部品・デバイス

(3) その他の電気・電子系機器

◆主な職種

(1) システムエンジニア

(2) 品質管理・評価

(3) 製造・施工

◆学んだことはどう生きる?

私の研究室で粘着力が粉体に及ぼす影響について調べ、粉を原料とする食品メーカーに就職した学生さんがいます。数値シミュレーションを使った卒業研究でしたが、粒子間のミクロな粘着力が堆積する粉体のマクロな挙動にどの様な影響を与えるか、非平衡系の統計力学的な観点から詳しく調べてくれました。粉を扱う様々な工程において、粘着力の原因となる湿気(水分)は大きな問題らしく、今では卒業研究で得た知識を活かし、開発部で活躍している様です。

先生の学部・学科は?

京都産業大学の理学部物理科学科には凝縮系、ソフトマター、原子核・ハドロン等を専門にする先生方がおられます。本格的に研究を始めるのは4回生になってからで、学生の皆さんは自分の興味に合った研究室を一つ選び、いわゆる卒業研究に取り組みます。

私の研究室では非平衡物理学に関する理論や数値シミュレーションを行いますが、学生の皆さんの自主性を尊重し、具体的な研究テーマは相談しながら決めていきます。自分の知りたいことを卒業するまで追究して欲しいというのが私達の願いです。

先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

自己組織化とは何か 生物の形やリズムが生まれる原理を探る

都甲潔、林健司、江崎秀(講談社ブルーバックス)

私はこの本を大学生の時に読んで卒論のテーマを決めました。現在の専門である非線形・非平衡物理の世界に進んだのも、この本がきっかけです。

この本を読む前は、自然は厳格な物理法則に従う、ある意味殺風景な世界だと思っていました。ところが、自然や生命に見られる美しい構造は複雑な物理法則が織りなす非線形・非平衡の世界そのものです。自然界のありとあらゆるものを理解するために、物理学者が見出した新しい可能性を知りたい方に読んで欲しいと思います。


ロジカル・ライティング

照屋華子(東洋経済新報社)

これから理系に進む皆さんは長い文章を書く機会が沢山あります。そんな時、ただ漠然と文章を書いていては解り難く内容の薄いものになってしまい、伝えたいメッセージを正確に伝えることができなくなってしまいます。

この本では、文章を読む相手の立場に立って、どの様に文章を組み立てれば解り易く正確にメッセージを伝えることができるかが解説されています。特に、文章を論理的に組み立てるためのノウハウが詳しく解説されており、誰でも実践できる様にまとめられています。

私もこの本で説明されているロジカル・ライティングを実践し、日々論理的な文章を書く努力をしています。理系に進もうという高校生の皆さんにとって、論理的な文章を書く力は必須となりますので、ぜひ一度読んで欲しいと思います。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

物理学。何度でも学び直したいという気持ちです。

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

オランダ。昔住んでいていい思い出が沢山あります。

Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

大学の地下書庫にある本の修復作業。水道管が破裂してびしょ濡れになった本のページとページの間にわら半紙を挟み込んでいくというアルバイト。

Q4.好きな言葉は?

「どうにもならないじゃない。どうにかするんだ!」お世話になった先生に言われた言葉です。


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