環境技術・環境負荷低減

マンガンの除去

微生物や植物の浄化機能を活用した人工湿地で、有害金属を除去・回収


惣田訓先生

立命館大学 理工学部 環境都市工学科(理工学研究科 環境都市専攻)

出会いの一冊

ひらく、ひらく「バイオの世界」 14歳からの生物工学入門

日本生物工学会(編)(化学同人)

タイトル通り、日本生物工学会が、生物工学・バイオテクノロジーの面白さを若い世代に伝えるために企画した本です。DNAや免疫システムなどの生物学の基本から、バイオエタノールや遺伝子治療などの応用研究までの豊富な70個のトピックが、多くのイラストと写真と共に紹介されています。私も、生物工学が廃水処理に応用されているトピックを執筆しました。

こんな研究で世界を変えよう!

微生物や植物の浄化機能を活用した人工湿地で、有害金属を除去・回収

廃水を浄化するための人工湿地を設計する

環境保全に関する技術は、地味ですが、私たちの生活に必要不可欠です。物理や化学が基礎ですが、生物学の面白さも実感させてくれる魅力もあります。

人工湿地はその技術の一つであり、土壌や植物、微生物などによって廃水が浄化される湿地の機能をエンジニアの視点からデザインしたものです。除去対象に応じて水深や流れを設定し、土壌や植物の種類を選定し、微生物の機能を制御します。

悪天候では植物は育たず、広大な面積も必要であり、大雨が降るとオーバーフローしてしまう欠点もありますが、化学薬品や電力をあまり使わず、温室効果ガス排出量も少ない自然の機能を基本とすることが、私の腑に落ちました。

コストのかかるマンガン除去を微生物の力で

除去対象として研究しているマンガンは生物必須元素であり、毒性は低いのですが、中和・凝集沈殿による通常の処理技術で除去するのはコスト的にも容易ではありません。

そこで、廃水中のイオンを固形物に変換できるマンガン酸化菌を利用することを考えました。マンガン酸化菌の生育に必要となる有機物と酸素を、ヨシなどの水生植物の光合成によって供給するのです。

植物の根は、マンガン酸化菌の棲み処として適しており、植物もマンガンを吸収します。植物の根から地上部までを定期的に収穫し、回収したマンガンを再資源化すれば一石二鳥です。

人工湿地に適した植物や微生物を探る

実際には、廃水に共存する他の金属の影響もあり、マンガン酸化菌にも種類があります。それらに相性が良く、現地の気象に適した植物や土壌も必要です。

生物からすれば、そんな環境に置かれたことがなく、迷惑かもしれませんが、自然の機能をエンジニアの視点からデザインするのです。

実験用の人工湿地でマンガンを除去する研究チーム(今年2020年、大学で撮影)
実験用の人工湿地でマンガンを除去する研究チーム(今年2020年、大学で撮影)
SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

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廃水の中から金属を除去し、回収することは、水環境・水資源の保全につながります。また、廃水処理技術は、環境保全産業の基幹の一つです。

先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「土壌・植物・微生物機能を用いた人工湿地によるマンガン含有坑廃水処理システムの開発」

詳しくはこちら

注目の研究者や研究の大学へ行こう!
どこで学べる?
先生の研究室では

水環境工学研究室では、大学院の博士課程、修士課程、学部生で構成されるチームで研究に取り組んでいます。共同研究をしている民間企業や自治体との現場訪問、打ち合わせ、成果報告に同行させ、自分の卒業研究が社会にどのように貢献できるのか、実感できる機会を大切にしています。ベトナム、インド、中国などからの留学生も受け入れ、国際的な視点を持つように促しています。

もっと先生の研究・研究室を見てみよう

惣田先生のページ(立命館大学理工学部)

ベトナムのメコン河.海外環境スタディ(夏期短期研修)では、毎年いろいろな国の環境を学びます。(2018年にベトナムで撮影)
ベトナムのメコン河.海外環境スタディ(夏期短期研修)では、毎年いろいろな国の環境を学びます。(2018年にベトナムで撮影)
先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な業種

水処理・プラント

◆主な職種

(1)研究職 

(2)技術営業職

◆学んだことはどう生きる?

卒業生は、水処理・プラント業界で活躍しています。研究職として廃水処理の新技術の開発をしたり、技術営業職として専門技術の知識を活かし、数年後の技術の発展を予測しつつクライアント企業のニーズを満たす営業活動を行ったりしています。

先生の学部・学科は?

立命館大学理工学部の環境都市工学科は、人々の健康で安全・安心な生活、快適で持続可能な社会の形成を支援するために、工学技術を活用し、いろいろな分野とも連携しながら総合的な立場で、環境や防災など人々の生活に関わる問題に取り組む人材を育成することを目的としています。

2回生になる時「環境システム工学コース」と「都市システム工学コース」に分かれ、環境問題、都市問題の専門家として必要な知識を得ることができます。海外の大学や研究機関などを訪問し、フィールドワークを中心に体験的に環境・社会問題への取り組みを学ぶ「海外スタディ」というプログラムも実施しています。

中高生におすすめ

ボタニカル・ライフ 植物生活

いとうせいこう(新潮文庫)

ハードボイルド設定の男が、不器用にベランダで植物を育てたり枯らせたりするユーモラスなエッセイです。好きだからこそ、マニュアルに頼らず平凡な対象に適当に向き合う尊さを知りました。


幻想絵画館

倉橋由美子(文藝春秋)

20枚の有名な絵画がカラーで掲載されており、14歳の少年を主人公として、その絵画から想像した20の短編から一つの物語が構成されています。ある絵画から物語を考えて、考えた物語から絵画を選んで……、と製作時の楽しさと苦悩が想像されます。個々の物語の内容は忘れても、この本の編集形式は忘れられないです。


ファイブスター物語

永野護(ニュータイプ100%コミックス)

1980年代から連載している長編SF漫画です。壮大な物語年表とメカや人物の緻密な設定に圧倒されます。その設定が2013年に大改編されて長年の読者はひっくり返りました。何歳であっても、積み重ねてきたものを覆し、新しいものを作り続ける作者の想像力、デザイン力、決断力が凄いです。


先生に一問一答
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

インド。他の国での生活はおよそ想像できますが、インドは一番苦労しそうです。学生の夏期研修の引率で訪問したことがありますが、文化、習慣、食事、宗教など、日本と大きく異なり、不条理を感じました。長くは無理ですが、短期間だけ暮らしを経験してみたいです。


藻類-細菌共生型の散水ろ床装置(留学生とインドのハイデラバードで再会、2019年、ハイデラバードで撮影)

藻類-細菌共生型の散水ろ床装置(留学生とインドのハイデラバードで再会、2019年、ハイデラバードで撮影)

Q2.感動した映画は?印象に残っている映画は?

クエンティン・タランティーノ監督1994年の作品、『パルプ・フィクション』。ギャング映画自体は好きではありませんが、ストーリーを時間的な順序と異なる流れで構成する編集が凄いです。論文の構成を考える上で、間接的に影響を受けました。

Q3.研究以外で楽しいことは?

アカハライモリを飼っています。体色と毒のある赤橙色が、地味なのか派手なのか、美しいです。


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