公法学

企業の海外納税

日系企業の海外進出。外国で税を納める場合の注意点を精査


松原有里先生

明治大学 商学部 商学科 アカウンティングコース(商学研究科 商学専攻)

出会いの一冊

ルポ タックスヘイブン 秘密文書が暴く、税逃れのリアル

朝日新聞ICIJ取材班(朝日新書)

少し前になりますが、タックスヘイブンと呼ばれている中南米のパナマ共和国を舞台に、世界の大富裕層や大企業が過度な節税を目的に、秘密口座を有していたことが明らかになりました。これは、南ドイツ新聞というドイツの新聞社がスクープしたのですが、日本でもその解明に携さわった朝日新聞のジャーナリストが、経緯を明らかにしています。

税金を納めるのは、誰しも楽しいことではないのですが、それが回りまわって各国の社会保障制度や公共工事・災害時の原資になっていることを考えれば、やはり、一部の豊かな人や会社の行き過ぎた行動は好ましいものではないということも、これから大人になる皆さんにわかってほしいと思います。

こんな研究で世界を変えよう!

日系企業の海外進出。外国で税を納める場合の注意点を精査

多国籍企業の利益に関心

もともと法学部で勉強していた私は、ある時、経済・経営系の科目にも興味をもち、ビジネスの中で規制は何のためにあるのか、と考えるようになりました。

その後、海外と取引をしている日本企業、特に多国籍企業と呼ばれる海外に子会社や関連会社等の拠点を持つ企業集団に興味を持ち、そこでは、クロスボーダー取引と呼ばれる、国境を超える物資のやり取りでの利益の配分が重要な意味を持つことに気づくようになりました。

官民あげてグローバル化

ご存知のように、日本は島国で江戸時代には260年ほど鎖国をしています。しかし、歴史的にみると、有史以来、この国は国境を閉じている時期と逆に開いて外から積極的に新しい文化や物資を入手している時期が交互にあります。

今は、新型コロナ・ウイルスの影響で一時的に人の交流を止めている状態ですが、実は、ここ数十年の日本は、グローバル化といって、官民あげて世界に向けて窓を開いていました。それは、日本国内だけでは、少子高齢化により将来的に人口も生産性も減少し市場が縮小すると考えられているからです。

各国で異なる特許料、対立の原因に

私の今の研究は、日本企業が海外に進出した際に気を付けるべきこと、特に相手国の制度をよく知らずに、より多くの利益を日本ではなく別の国で税金として納める事の、メリットとデメリットを精査することです。

特に、日本は資源が少なく、日系企業は原材料を輸入し、それを加工または製品開発するという技術開発力によって世界中で売上をのばしてきたという特徴があります。新型コロナの特効薬になるかと期待されているアビガンがその一例です。

医薬品の開発は、長期間にわたり多大な研究開発費がかかることも多く、失敗例も多々あるのですが、一度その効力が認められれば新薬の特許から上がる利益は莫大なものになりえます。ただし、その算定方法について世界的に統一ルールがないため、各国で対立が起きる原因になるのです。

会計や財政・金融工学は、経済社会の「医者」

医学は病気を治すことができますが、会計および財政・金融の専門家には、経済を円滑に回し、皆を幸福にするという役割が期待されます。今、理系と文系の選択に迷っている人、将来、経済界での「医者」になりたいと思う人にはおススメの分野です。特にDX推進の今、データ処理能力は必須です

昨年6月に豪州メルボルンであった国際学会にて、日本の国際課税の主要なトピックについてのプレゼン後、同じ会議に参加してパネリストを勤めた各国の代表とコーヒーブレイクのひと時。
昨年6月に豪州メルボルンであった国際学会にて、日本の国際課税の主要なトピックについてのプレゼン後、同じ会議に参加してパネリストを勤めた各国の代表とコーヒーブレイクのひと時。
先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「移転価格税制の今後―無形資産とリスクの評価―」

詳しくはこちら

どこで学べる?
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
ゼミ生と横浜税関の資料展示室の見学へ行きました(2019年)
ゼミ生と横浜税関の資料展示室の見学へ行きました(2019年)
先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な職種

(1)公認会計士・税理士

(2)国税専門官・国家公務員(一般職)・地方公務員(都道府県庁)

(3)金融業および一般企業での経理・財務部

◆学んだことはどう生きる?

卒業生の中には、公認会計士や税理士の国家試験に合格し、外資系大手会計事務所(Big4)で、会計監査・税務・コンサル業務に従事している人が多数います。資格試験なので、別途、専門学校等で勉強する必要はありますが、合格すれば他業種に比べて実力主義なので男女差別も比較的少なく、常に努力のできる人には向いていると思います。また、資格は一生有効ですので、転職する際にも専門能力を生かした業務に就くことができます。さらに公務員になる人も多いです。

先生の学部・学科は?

ビジネス・パーソンを養成する学部なので、伝統的に実学に重きを置いている傾向はあります。ただし、一般教養課程にも興味深い研究をされている先生方もいるので(社会学・地理学・語学等)、専門課程(経営学・経済学・会計学・金融論・貿易論他)と併せて、2つのゼミを履修している学生もいます。大規模校ですが、学生にとっては、サークル・部活動に加え、勉学面でも人脈や知見を広めることができます。

中高生におすすめ

2030年の世界地図帳 あたらしい経済とSDGs、未来への展望

落合陽一(SBクリエイティブ)

2019年暮に出版されているので、新型コロナまではカヴァーできていませんが、今から20年後の日本と世界の近未来を予測する手助けになる本だと思います。社会学や未来予測に興味のある人向けです。


14歳からの資本主義 君たちが大人になるころの未来をかえるために

丸山俊一(大和書房)

14歳の中学生だけでなく、高校生の皆さんにとってもわかりやすく、グローバル化が進んだ現代社会の根底にある資本主義の考え方を説明しています。10年後の社会、もしくは経済理論の基礎をかじりたい人向けです。


会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカ 500年の物語

田中靖浩(日本経済新聞出版)

会計という学問が、大航海時代のイタリア(15世紀)やオランダ(17世紀)から、産業革命下のイギリス(19世紀)と大恐慌前後のアメリカ(20世紀)を経て、どのように発展していったのかを、世界史(産業史)を軸に講談調でまとめた本です。今、世界史を高校で勉強している人には、将来、大学で学ぶであろう会計や金融の知識の前提として、興味がわくと思います。


みらいぶっくへ ようこそ ふとした本との出会いやあなたの関心から学問・大学をみつけるサイトです。
TOPページへ