東南アジア土着の「最先端の農業技術」
ITやゲノム技術が役に立つとは限らない
東南アジアの村人が「最先端の農業技術」を作り出していると言っても、皆さんは信じてくれないでしょうか。教科書でアジアやアフリカの農村の貧困問題が取り上げられることもあるでしょうし、きっと「遅れた農業」のイメージもあると思います。
確かに、最新の農業技術―ゲノム編集で生み出された遺伝子組換え作物や、ITを駆使した栽培管理システムなど―は、主に先進国の理系研究者によって開発されています。これらは世界の食料生産性の向上に貢献もしますが、だからといって万能ではありません。
各地域によって、自然条件(雨の多少や平地か山地かなど)や文化・経済的背景(好まれる食べ物や収穫物の価格など)が大きく異なるので、どんなに素晴らしい技術が開発されても、実際に役立つ場面は限られていて、状況によっては負の影響をもたらすこともあります。
土着の農業技術には近代科学に匹敵する価値が
一方、私たち地域研究者は、途上国の農村を訪ねて現地語で会話をして―世界をフィールドワークして―農民たちの土着の技術を学ぼうとしています。
詳しく調査をしていくと、一見「遅れた農業」であっても、例えば森林を守りながら多様な産物を利用できる仕組みが潜んでいたり、あるいは厳しい乾燥下でも安定した収穫を維持する工夫が凝らされていたり、「庶民が生んだ最先端技術」がだんだんと見えてきます。
これらは地域の将来に活かされるだけでなく、人類が環境問題や気候変動を乗り越えるためのヒントとなるでしょう。一万年以上に及ぶ農耕の歴史の中で、名もない幾多の農民たちによって育まれてきた知恵と工夫の豊かな蓄積は、近代科学に匹敵する価値があるのです。
グローバルな課題とされる貧困問題や環境問題ですが、その克服には地域ごとの文脈の理解と、ローカルな知恵の活用が必須です。地域研究はその一助となります。
「『脱農業化』する東南アジアに求められる熱帯農業理論の構築」
卒業生には、民間企業職員や国・地方公務員として活躍する者のほか、国際協力分野での専門家・研究者や、途上国でのソーシャルビジネス起業家などがいます。
立命館大学国際関係学部では、広い意味での「国際関係学」をベースとした地域研究を学べます。英語を始めとする語学能力を向上させ、国際政治・国際経済・異文化社会を読み解く理論を修得した上で、特定地域の専門家を目指します。