国家や国籍にとらわれないアメリカ文学
日本では新人賞を取って作家になる
人はどうやって小説家になるのでしょうか。それとも、もともと才能に恵まれた人がなるべくしてなるものなのでしょうか。日本では各種文芸誌が主催する新人賞を取ってデビューするというフォーマットが一般的ですが、作家になるのにも試験があるというのは、科挙文化の東アジアらしい仕組みだなと思います。
創作を学ぶアメリカのクリエイティヴ・ライティング大学院
アメリカでは、作家の視点から文学作品を研究し、自作の小説や詩を学位論文として執筆する、クリエイティヴ・ライティングに特化した大学院が1930年頃から発展してきました。
戦後の文学生産を語る上で無視できない創作科ですが、私はその教育手法がアメリカ文学に与えた影響について研究しています。クラスメートの作品を精読して批評するというワークショップ形式の教授法はアイオワ大学で生まれ、戦後全米に広がり、現在アメリカだけでも350以上の創作大学院があります。
創作科は作家の職場でもあります。今日アメリカで創作科との関わりがない純文学作家はとても珍しいといえるでしょう。
アメリカの大学を出て書けば「アメリカ文学」か
ところで、アメリカの創作科大学院を卒業した人が英語で書く文学作品は「アメリカ文学」になるのでしょうか。そもそもアメリカ文学とは何でしょうか。日本文学は日本語で書かれた文学といえるかもしれませんが、英語だとそうとは限りません。アメリカ人が書けばアメリカ文学になるのでしょうか。アメリカ国籍を持たない移民がアメリカで出版した作品は?
私自身、アメリカの大学の英文科で創作を学び、作品を博士論文として提出することで学位を得て、現在日本の大学で教えて研究する傍ら英語で執筆したり、翻訳したりしています。
近年、作家の国籍と言語が必ずしも一致しない現象が見られるようになってきました。この国民文学が解体して「世界文学化」する動きには、アメリカの創作科や、翻訳中継言語としての英語が重要な役割を演じています。アメリカ文学の研究者として、アメリカという国家の枠組みにとらわれない文学研究を目指しています。
文学作品は直接現実を変えることはできません。「文学」を読めばえらくなるわけでも現世利益を得られるわけでもありません。そのような媒介性(直接性の欠如)こそが文学独自の強みでもあります。その一方で、文学作品は人類が直面するあらゆる問題について、思考実験や想像世界の物語を通じて、問題を言語化します。
文学作品を読むこともまた一つのリアルな経験であり、その経験を全身全霊で受けとめた読者は、その作品と出会う前とは違う自分になっているでしょう。これはその作品の要約や解説に触れただけでは絶対に得られない、まさしく自分だけの体験なのです。
同時に、上記と矛盾するようですが、文学作品、とりわけ詩は、言語を「なにかに貢献する」「役に立つ」「目的を達成する」以外のことに用いる営みで、人類が言葉を獲得して以来、ずっと続いてきた遊戯でもあります。
「明日5時までに以下の口座に10万円を振り込んでください」−−人間が、このような直接的内容の伝達以外に言葉を使うことを諦めた世界を想像してみてください。きっと人類は滅亡しているか絶望しているでしょう。昨今文学が役に立たないという考えもあるようですが、実はまったく逆で、人類は文学に生かされているのです。
「冷戦期創作科教授哲学と20世紀アメリカ文学の研究:自由陣営文学における自己検閲」
◆講義の中で伝えること
読む力とは、単なる表面上の意味伝達のレベルを超え、テクストが間接的、あるいは遠回しに言及することをくみ取り、想定される読者に期待される背景的知識を理解し、くり返しや強調といった修辞に加え、ことばの音韻やリズムが持つ力に感応し、文章全体がもたらす効果を受けとめる、総合的で高度な読解力を指します。単なる意思伝達の道具としての英語力を超えた、高度なリテラシー能力養成のためには、文学テクストは最良の教材です、といった話をします。
◆主な業職種
(1) 中学校・高校の教員、塾等の教師
(2) 一般企業、公務員
(3) メディア・芸術関係
◆学んだことはどう生きる?
専門性を活かす仕事としては、中学高校の英語教員が筆頭に挙がります。立命館大学は毎年たくさんの教員を輩出しており、就職後の研修授業や、より高度な専門力と教育力を身につけるための教職大学院も充実しています。他の就職先としては、あらゆる業種・企業・職種がありますが、企業就職や公務員就職以外にも、仕事をしながら文学・音楽・演劇・美術などの創作活動を続ける卒業生もいます。
立命館大学の文学部には約百名の専任教員がいます。どの大学でも人文学の研究は個人商店みたいなものです。商店街に、個性豊かなお店が百軒並んでる!−−それが文学部です。そこでは文学以外にも、人類学・社会学・哲学・歴史学・教育学など多彩な専攻が共存しています。その多様性にこそ、人文学の強みがあります。
英米文学専攻では、イギリスとアメリカの文学だけでなく、広く英語の文学を扱います。一つの作品をじっくりとことん読み込み、味わい尽くすのが関西の大学の伝統です。近年は世界文学や翻訳研究といった角度からも英語文学、英語に翻訳された文学へ注目が集まっています。アイルランド、オセアニア、南アフリカ、ナイジェリア、インド、マレーシア、フィリピン、シンガポール…覇権言語であるがゆえに、より多様な書き手に声を与えることができるのも、英語の特徴です。
やっぱり世界は文学でできている 対話で学ぶ<世界文学>連続講座
沼野充義(光文社)
文芸評論家としても活躍するロシア文学研究者沼野充義先生の対談集です。タイトルに「学ぶ」とありますが、勉強しようと読むのではなく、寝転がって、面白い話に耳を傾ける気分で読んでほしい本です。
ゲストは、ぐんぐん読ませる『カラマーゾフの兄弟』新訳で一世を風靡したロシア文学者・亀山郁夫、文学と映画、フランス文学から日本文学と横断的な活躍をしているフランス文学者・野崎歓、アメリカ文学を読むことで世界文学が見えてくることを示してくれたアメリカ文学者・都甲幸治、最年少で芥川賞を受賞して以来活躍を続ける作家・綿矢りさ、日本語以外の言語を母語とする作家としてはじめて芥川賞を受賞した中国生まれの楊逸、日本語とドイツ語両方で作家活動をする多和田葉子。縦横無尽で脱線も満載のおしゃべりが、世界文学の豊かさを見せてくれます。
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ? やっぱり文学、もしかしたら医学 |
|
Q2.一番聴いている音楽アーティストは? アメリカのオルタナフォーク&ロックバンドのザ・ディセンバリスツ。瑞々しいサウンドと旧世界的物語性のある曲が魅力です。鶴の恩返しにインスパイアされたアルバム、 『The Crane Wife』がお気に入りです。 |
|
Q3.大学時代の部活・サークルは? 漫画研究会 |
|
Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは? 時代劇のエキストラ役。京都独特のアルバイトです。 |
|
Q5.会ってみたい有名人は? 特にないですが…ジェイムズ・ボンド役を射止めた未来の、イドリス・エルバ? |