美術史

江戸戯画

江戸時代の「ゆるきゃら」はマンガの源流か


中谷伸生先生

関西大学 名誉教授 元東アジア文化研究科

出会いの一冊

キングダム(漫画)

原泰久(ヤングジャンプコミックス)

マンガを通じて中国の古い歴史を紹介しており、戦争の時の戦略など、いろいろと考えさせる物語になっています。人間が、苦しい時に、それを突破し逆転するためには、どのような考え方を持つべきなのかという、興味深い内容です。そのことは、皆さんが日々の勉強や受験などで直面することでもあります。このマンガでは、様々な奇策を練って、絶体絶命のピンチをチャンスに変える劇的な物語の展開が見られ、読者を引きつけるスピーディーな流れを見どころにしています。

こんな研究で世界を変えよう!

江戸時代の「ゆるきゃら」はマンガの源流か

マンガやアニメは、なぜ日本で大きく育ったか

世界中で注目される日本のマンガやアニメーションは、なぜ日本で大きく成長したのでしょうか。日本人は手先が器用で、丁寧な作業をするからでしょうか。それとも、空間と時間に対する特殊な感性があるからでしょうか。難しい問いですが、その理由と源流を調べることが、私の研究の出発点でした。

知られていなかった耳鳥齋の「ゆるキャラ」

その時に、現在では忘れられている耳鳥齋(にちょうさい)という江戸時代の戯画作者の存在を知り、この謎の人物を研究しようと思ったのです。戯画とは、世の中を諷刺する滑稽なマンガという意味です。この江戸時代の戯画が、現代のマンガにつながっているのかどうかは、今なお証明できてはいませんが、その根拠を探す研究は面白く、ワクワクする毎日が続いています。

また、不思議に思ったのは、「ゆるキャラ」でとぼけた雰囲気を漂わせる耳鳥齋の戯画が、私が研究を始めた1990年代には人気がなく、日本美術の歴史や研究から除外されていたことでした。これだけ面白い戯画が、マンガ王国といってもよい現代の日本の社会で、どうして受け入れられないのか、というのがもう一つの疑問でした。

社会風刺と日々の楽しさが両立している

研究とは、人々に生きる喜びを与えるためにあるはずです。耳鳥齋の笑いを誘う戯画は、人間社会の矛盾を諷刺する鋭い批判精神を示すとともに、日々の生活の楽しさを教えてくれます。そうした諷刺が、笑いを通じて、現代人にも「いかに生きるべきか」と迫ってくるのです。耳鳥齋研究の意義と面白さの原点が、そこにあります。

耳鳥齋の戯画の版画集から「おくびょうもの」。刀を差した大の男たちが、小さななめくじに怯えている様子です。
耳鳥齋の戯画の版画集から「おくびょうもの」。刀を差した大の男たちが、小さななめくじに怯えている様子です。
SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

学校でも会社でも難しい人間関係がありますが、その中で人々にとって何が救いなのかをいつも考えています。そうした中で、私が見出したのが、江戸時代のマンガとでもいうべき耳鳥齋の戯画でした。耳鳥齋の戯画は、一見すると馬鹿馬鹿しくて、ただ面白いだけのものと思われますが、実はものすごく深い人間的な真実を描いています。皆さん、一度は見てみないと話になりませんぞ!

先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「耳鳥齋の戯画と日本戯画史の構築」

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先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な業種

(1)デザイン・著述、翻訳、芸術家等

(2)マスコミ(放送、新聞、出版、広告)

◆主な職種

(1)コンテンツ制作、編集<クリエイティブ系>

(2)大学等の教員・研究者、美術館の学芸員

◆学んだことはどう生きる?

美術館の学芸員として働いている卒業生がたくさんいますが、この職業は、美術作品による展覧会を企画したり、作品の保存などを専門的に考える感性とアイデアで勝負したりする専門的職業です。時代の流行などを敏感に察知して、それに対応できる文化的な企画を構想する仕事です。忙しい職業ですが、芸術好きでやる気のある人にとっては、働きがいのある専門的な仕事です。


「好きこそものの上手なれ」という言葉がありますが、学生には、可能な限り、好きな職業に就くことを勧めます。自分の好きなものを探して、それを職業にできるように考えてください。

先生の学部・学科は?

文学部の芸術学美術史専修、および大学院東アジア文化研究科では、芸術の問題を考え、日本や西洋の美術に関心を持てます。芸術作品は、一見、実社会では役に立たないと思われがちですが、実は、これらの世界がなければ、人生は味気なく、喜びが半減します。皆さんも、マンガを読み、音楽を聴き、映画や演劇を見に行くでしょう。他大学にも似た学科がありますが、関西大学には充実した専修があります。

中高生におすすめ

日本漫画史 鳥獣戯画から岡本一平まで

細木原青起(岩波文庫)

江戸時代の戯画(現代のマンガにあたる)で人気のあった耳鳥齋(にちょうさい)をはじめ、日本の中世から現代(岡本一平)にいたる戯画や漫画の歴史をたどり、わかりやすい解説を加えています。マンガや戯画に対する著者の情熱には、頭が下がります。


近代日本漫画百選

清水勲(岩波文庫)

すべてのページにマンガや挿絵を入れて、江戸時代の末から1930年代までの諷刺マンガをわかりやすく解説しています。世の中のおかしなことを面白く描いた戯画や漫画を取り上げて、その流れを追いかける興味深いマンガの歴史書です。


AKIRA(漫画)

大友克洋(講談社)

超能力を持つ主人公のアキラは、世の中の未来を想像できる頭脳を持っています。恐るべき壮大さと近未来の予言の怖さが、スケール大きくSFマンガで描かれており、読者は、異次元の世界へ導かれ、あっと驚く世界を見ることになると思います。『週間ヤングマガジン』の連載マンガで、アニメ映画にもなりました。


先生に一問一答
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

やはり美術史や戯画研究を選びます。

Q2.一番聴いている音楽アーティストは?

ヨハン・セバスチャン・バッハ。『無伴奏チェロ』がお気に入りです。

Q3.感動した映画は?印象に残っている映画は?

黒沢明監督の『七人の侍』。

Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

 味付け海苔の販売員(たくさん売って表彰されました)。

Q5.研究以外で楽しいことは?

骨董街を見て歩くこと。


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