たくさんの赤ちゃんの脳データで、ことばの発達を解明
遅れている日本のASD対応
自閉スペクトラム症(ASD)はコミュニケーションの困難性、言語遅滞などの様々な特徴を持つ、発達障害の1つです。ASDは、療育開始が早いほど改善に効果的とされていますが、 日本ではASDの診断は早くて3歳程度でなされ、欧米に比べると療育への取組も遅れています。
赤ちゃん研究から探るASDの予期指標
私たちの研究では、ASDの早期発見に役立つ指標を見出すことが1つめの目標です。私たち実験心理学者は、人間の行動や認知、それに関連する脳活動を計測するプロです。例えば、視線運動、歩行運動や母子相互作用の様子、言語に対する脳活動などを計測評価することができます。
0-3歳までの定型、非定型発達の乳幼児に3-6ヶ月おきに縦断的に実験参加してもらい、様々な行動、脳活動のデータ収集をしながら3、4歳児のASD特性を予期する指標を明らかにする研究を行っています。
例えば赤ちゃんは会話をしている大人のどこを見るのでしょう。実は月齢によって異なり、8-9ヶ月齢には口をじっと見ることが私たちの研究からもわかっています、しかしASDリスクの高い赤ちゃんは1歳でようやく口を見るようになることがわかってきました。
赤ちゃんの笑顔と泣き声に囲まれた実験の日々
以上のようなことを明らかにすることで、言語を発達させるための要因も明らかになってきます。つまり人間の言語を可能にするのはどのような認知あるいは運動能力なのか、どのような脳機能なのか、この問題解明が2つ目の目標です。このために、日々赤ちゃんの笑顔と泣き声に囲まれながら実験をしています。
乳幼児に関する私の研究では、乳幼児の認知能力等以外にも、乳幼児と保護者の関係性も縦断的に評価します。特に乳幼児時期の保護者の関わりは、後の子どもの発達にも強い影響を与えます。ここでどのような保護者の関わりが良い認知発達を促すかが明らかにできれば、保護者へ教育ができます。乳幼児保護者への教育が、まず子どもたちへの最初の教育につながると考えます。
◆先生が心がけていることは?
子どもの質の高い教育に関与できそうな研究結果は、積極的に社会に発信していかなければと意識しており、赤ちゃんラボで育児中の親御さんにも適宜アドバイス等しています。
「脳・認知・身体と言語コミュニケーションの発達:定型・非定型発達乳幼児コホート研究」
多賀厳太郎
東京大学 教育学部 総合教育科学科/教育学研究科 総合教育科学専攻
【発達脳科学】光を使った脳機能イメージングで、乳児の脳発達を研究する業界の基礎を作りました。研究に対する姿勢なども、学ぶところが多くあります。
■Developmental Brain Science Laboratory (多賀研究室)HP
鈴木健嗣
筑波大学 理工学群 工学システム学類/理工情報生命学術院 システム情報工学研究群
私の発達研究を、ロボティックスや工学的支援技術など様々な形で応用する可能性を広げてくれる共同研究者であり、情報系の知見を教えてくれる先生でもあります。
◆講義の初回では
乳幼児研究の導入として、私たちの研究室の実験も紹介されている「NHKスペシャル 赤ちゃん 成長の不思議な道のり」というDVDをよく使います。赤ちゃんは私たちが想像できないような高い潜在能力を持っているということを、様々な実験から科学的に紹介しています。
◆主な業職種
(1) コンサルタント企業のコンサルタント、データサイエンティスト
(2) IT企業のプログラマー
(3) 教育関連企業での教材開発、教材出版、発達障害療育職
◆学んだことはどう生きる?
定型発達、非定型発達の乳幼児の運動発達の実験を根気強く行った学生が、発達障害支援、療育を行う企業に就職して、発達障害のお子さんを持つ親御さんを対象とした情報発信の仕事で活躍しました。心理実験には対人能力、計画的に実験を遂行するスキル、統計を含むデータ解析スキル、結果をまとめわかりやすく発表するスキルが必要です。これらのスキルや能力は、どのような仕事にも応用できます。
慶應義塾大学文学部の心理学専攻では、実験心理学、基礎心理学に主眼を置いています。仮説を立て実験を行い、データ解析、統計検定により結論を導く科学的なアプローチで人間の心の過程を明らかにする手法や考え方を身につけます。これらの内容を少人数制で徹底的に教育を行うことも、他大の心理学科等にはない特徴です。動物実験設備、脳科学実験も行える貴重な環境を持っています。私のゼミの学生も、毎年数名脳科学実験で卒論を書いています。
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ? 大学では心理学を全く学んでいなかったので、心理学。あとは、高校時代に得意だった数学をしっかりキープしておけば良かったと、とても後悔しているので、数学。 |
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Q2.大学時代の部活・サークルは? ダンス部でジャズダンス、コンテンポラリーダンスなど踊ってました。ダンス部で培った舞台度胸は、たぶん学会発表とか講演などでも活かされてます。 |
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Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは? アルバイトはショップ店員、レストラン店員、試食販売員、エキストラ、家庭教師、塾講師など様々なことをしました。印象的なアルバイトは、特定の沿線の駅近ドラッグストアをくまなく回り、特定の会社の特定の品物の値段を隠れてリサーチするというもので、スパイ気分、ゲーム感覚でちょっと楽しく、しかも報酬もとても良かったです。 |
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Q4.研究以外で楽しいことは? ダンスやダンス系フィットネス。サルサなどラテン系も好きです。ダンスを通して、人間のリズムというものについても考えます。運動のリズムは音声言語のリズム、対人行動のリズムそして脳のリズムにもつながっていきます。赤ちゃんの身体のリズムの発達と発声のリズムについてもこれから研究するところです。 |