教育心理学

メタ認知

メタ認知を意識して問題を解こう


吉野巌先生

北海道教育大学 教育学部(札幌校) 教員養成課程 学校教育専攻 教育心理学分野

出会いの一冊

メタ認知で〈学ぶ力〉を高める 認知心理学が解き明かす効果的学習法

三宮真智子(北大路書房)

第1部では、メタ認知という専門的な概念を20のトピックを通してわかりやすく解説してくれています。メタ認知の種類や役割、メタ認知とその他の心理概念(発達、記憶、学習障害、脳、知能など)との関係などについても整理されています。

第2部では、メタ認知を学習や教育に活かすための様々な具体例(効率的な学習方法ややる気の出し方に至るまで)が取り上げられていて、高校生がすぐにでも使える内容になっています。

こんな研究で世界を変えよう!

メタ認知を意識して問題を解こう

メタ認知とは

「メタ認知」は、最近はテレビのバラエティ番組でも耳にするようになりましたが、「認知を認知すること」、つまり、自分の認知をより一段高いメタレベルからながめてチェックしたりコントロールしたりする認知機能のことです。

例えば、教科書などを読んでいて「きちんと理解できてないな」と気づいたり(メタ認知的モニタリング)、数学の問題が上手く解けないときに「別のやり方でやってみよう」と自分自身に指示をする(メタ認知的コントロール)などです。

メタ認知がうまく機能しないと、理解していないことに気づかずそのまま読み進めてしまったり、複雑な問題になると何をどうやってやったらいいか考えることができず、行き当たりばったりでやろうとするなど、学習や練習がうまくいかない原因になります。

「頭の中の先生」にアドバイスをもらう

私は小学校や中学校の先生と一緒に、メタ認知をはたらかせて問題を解いたり学習したりする方法を模索しています。研究当初から一貫して行っているのは、児童生徒にメタ認知そのものやメタ認知を意識する必要性、メタ認知をはたらかせる方法(メタ認知的方略、「頭の中の先生」)について教えることです。

ある研究では、小学校5年生にメタ認知を「頭の中の先生」として教え、算数の問題を解く時に「頭の中の先生」に「求めるものは何かな?」「似たような問題を前にやったことはあるかな?」「計算はあっているかな?」などのアドバイスをしてもらい、その言葉をノートに書きながら問題を解こうと促した結果、事後テストで効果が見られました。

小学校5年生の算数授業で、メタ認知を「頭の中の先生」として教え、「頭の中の先生」の言葉をどのように使ったら良いかノート指導をした時の黒板掲示物です。
小学校5年生の算数授業で、メタ認知を「頭の中の先生」として教え、「頭の中の先生」の言葉をどのように使ったら良いかノート指導をした時の黒板掲示物です。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

私は心理学の中でも比較的基礎的分野である認知心理学が専門で、音楽認知や記憶などの研究をしていました。論文を書く時に「何をどのような順番・構成で書いたら読み手にうまく伝わるか」を意識したり、一方では、趣味のチェロを練習する時に「この部分が弾けるようになるためにはどんな練習をしたらいいか」考えたりなど、メタ認知の重要性について意識することが多くなりました。

北海道教育大学に移ったのを機会に、メタ認知に真剣に向き合おうと思ったわけです。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「小学校の教科学習においてメタ認知を育成するノート指導法の開発」

詳しくはこちら

先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
メタ認知を意識しながら算数の問題を解く実践授業(小学校6年生)では、認知心理学研究室のゼミ生(3〜4年生)も参加して机間指導を行いました。
メタ認知を意識しながら算数の問題を解く実践授業(小学校6年生)では、認知心理学研究室のゼミ生(3〜4年生)も参加して机間指導を行いました。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 小・中学校、高等学校、専修学校・各種学校等

(2) 官庁、自治体、公的法人、国際機関等

◆主な職種

(1) 小学校教員

(2) 福祉・介護関連業務・関連専門職

(3) その他教育機関教員、インストラクター

◆学んだことはどう生きる?

やはり、小中学校の教員が多いですが、公務員も一定数います。公務員の場合、市町村の福祉課(生活保護や子育て支援等)、児童相談所、少年鑑別所の法務教官などが多いです。

教員の場合、理解の仕組み、記憶における精緻化や体制化の重要性、児童の思考の分析など認知心理学の知識や研究方法が役立っているようです。メタ認知の応用としては、問題を解くときに見通しをもって取り組んだり、ゴールから遡って手段を考えることを促す指導、確認や振り返りを重視する指導などで活かしてくれていると思います。

先生の学部・学科は?

私が指導している学校教育専攻・教育心理学分野は、他の教育大の教育心理専攻と同様に、小学校の免許取得を目指しながら教育心理学についても専門的に学んでもらおうというコースです。一般大学の心理学専攻に比べると、心理学関連の単位数はどうしても少なくなってしまいますが、学校での児童の学習や行動を心理学的に理解・研究し、教育実践に結びつける機会が多くあります。

先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

勉強法の科学 心理学から学習を探る

市川伸一(岩波科学ライブラリー)

教育・学習における認知心理学の重要性を教育界に広め、現行の学習指導要領に認知心理学の知見を盛り込むことにも貢献した市川伸一先生が高校生向けに執筆した本です。どうすればよく覚えられるか、知識はどうとりこまれ使われるか、いかにして問題を解くか、やる気の出るとき、出ないとき、などのテーマを認知心理学に基づいてわかりやすく解説しています。


認知心理学

監修:太田 信夫、編集:原田悦子(北大路書房)

心理学に興味をもちこれからそちらへ進もうとする高校生、現在勉強中の大学生向けに、心理学がどのように仕事に活かされているのかを解説するシリーズの認知心理学編です。製品のデザインやシステム開発に活かされている例も紹介されています。


音響・音楽心理学

監修:太田 信夫、編集:中島祥好、谷口高士(北大路書房)

シリーズ心理学と仕事の音響・音楽心理学編。私が音楽心理学の中の「音楽の認知」の章を執筆担当しましたが、演奏家が楽器を練習したり演奏したりする時のメタ認知の重要性、音楽教育者がいかにメタ認知を意識して子どもを教えるべきか、などについても書かせてもらいました。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

音響学

Q2.一番聴いている音楽アーティストは?

バッハ『ブランデンブルク協奏曲』

Q3.大学時代の部活・サークルは?

交響楽団

Q4.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

アマチュアオーケストラ、登山