イスラームの「英雄」サラディン 十字軍と戦った男
佐藤次高(講談社学術文庫)
「十字軍」の遠征は世界史の教科書に必ず載っていますが、この本は従来の西洋史の視点からではなく、サラディンという一人の英雄の生涯を通して、「十字軍」に攻め込まれたイスラーム側にとって「十字軍」とは何だったのかを描いています。アラブ史の研究者として世界的に名高い著者が、ヨーロッパ側の史料からは伺い知ることのできない、もう一つの「十字軍」の真実を、アラビア語史料から明らかにしていきます。皆さんもこの本を読むと、一つの歴史的出来事も立場を変えてみれば、まったく別の面が見えてくることに気づくはずです。歴史学研究の面白さは、まさにそこにあると言えるでしょう。
オスマン帝国にはすでに年金制度があった!
世界の5人に1人はイスラーム教徒
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私が現在行っているのは「オスマン帝国の年金制度」の研究です。オスマン帝国は600年以上にわたって中東イスラーム世界に君臨した大帝国でした。
皆さんは、「中東」や「イスラーム」に対してどのようなイメージをお持ちですか。中東といえば絶えず戦争や内乱がある物騒な地域、イスラームといえば過激派によるテロの温床といったようなネガティブなものではありませんか。
でもご存知でしょうか、今や世界人口の5人に1人はイスラーム教徒(ムスリム)なのです。日本人も「グローバル化をめざそう」とよく言いますが、彼らのことを知らないで、果たして真のグローバル化と言えるでしょうか。
イスラームと関係深い福祉政策
私の研究も、日本の年金制度への危機感から生まれたものです。年金は欧米で発達したものと思っていませんか。しかし、オスマン帝国では日本の戦国時代に既に老齢・病気・戦傷で働けなくなった軍人に年金が支払われていたのです。この福祉政策はイスラームと深い関係があり、学ぶべき点が多々あります。
私たち日本人は明治以来欧米の知恵を取り入れて活かしてきました。しかし、それだけでは十分とはいえません。異文化を知ることはただ単に科学技術などの知識を吸収するだけではなく、相手を理解し共存するための手段でもあります。非欧米の文化にも見るべきものがたくさんあるはずです。私の研究はその小さな一歩だと思っています。
![トルコの伝統工芸「エブル」のアトリエで創作を体験した時の写真。手にしているのは自分の作品です。](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/dimension=570x10000:format=jpg/path/s76df89a20f09707f/image/ia044d7e68171f05c/version/1611498077/image.jpg)
「年金制度にみる近代トルコ社会」
![image](https://miraibook.jp/client/images/sekai/learn-icon.png)
![国際シンポジウム「近代オスマン帝国の軍事と福祉」で研究発表を行った時の記念写真。](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/dimension=570x10000:format=jpg/path/s76df89a20f09707f/image/ia0114d2e1323d12c/version/1611498158/image.jpg)