日本語教育

算数を通した日本語教育

算数の学習で、外国人児童のことばの力を育む


池上摩希子先生

早稲田大学 日本語教育研究科 日本語教育学専攻

出会いの一冊

流れる星は生きている

藤原てい(中公文庫)

満州から幼子三人を連れて引き揚げてきた記録、ノンフィクションです。小4の時に学校の図書室で借りて一気に読んだのを覚えています。極限状態に置かれた人間の強さと脆さ、戦争の理不尽さは、10歳の子どもにも伝わってきました。何より、何とかして子どもの命を守ろうとする母親としての作者の姿に打たれました。近現代史の観点からすると描かれていない内容もあるかとは思いますが、日本語教師を目指し、中国帰国者の方々に対する日本語教育に進む一歩を示した一冊です。

こんな研究で世界を変えよう!

算数の学習で、外国人児童のことばの力を育む

日本語だけの社会ではない

「JSL」は「Japanese as a Second Language」=「第二言語としての日本語」といった意味です。

日本で育ち日本語だけで生活していると、日本語が一番目の言語となります。しかし、ボーダレス化の進む社会状況からは、今や「それが普通」とは言い切れません。例えば、以前の同級生に複数の言語や文化を持つ友だちはいませんでしたか。

「日本に来たら何もできない子になっちゃった」

私は、算数科の学習を通してJSL児童の日本語の力も考える力も伸ばせると考えて研究を行っています。保護者の都合で来日し、日本語が障壁となって学校での学習に参加できない子どもとの出会いがきっかけです。

「先生、私は日本に来る前は何でもできたよ、でも日本に来たら何もできない子になっちゃった」

この子は何もできない子ではなく、日本語がまだできないだけで、できることはたくさんありました。算数も得意でした。

日本語ができなくても算数の問題は解ける

数と計算の領域では、文章題のように言語を介在させないものであれば、解答を出したり課題を遂行したりすることが比較的容易です。また、算数科では具体物や半具体物を用いて、概念理解を促し、理解したことを表現します。

JSL児童がこうした活動に参加することで伸ばせる力があると考え、小学校の先生方と協働研究を進めています。実践事例や教材を分析していますが、実は先生方の工夫は、JSL児童だけではなく多様な児童の学びに貢献していると考え、ユニバーサルな支援への発展を期待しているところです。

夏休みの合宿、芝生の上でディスカッション。教室より、伸び伸びと話せるね。
夏休みの合宿、芝生の上でディスカッション。教室より、伸び伸びと話せるね。
SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

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日本語教育という学問領域は「日本語がわからない外国人に日本語を覚えてもらう」ためのものではありません。違う言語を理解し伝達するだけなら、立派な翻訳機があれば十分です。子どもたちに対する日本語教育も同様です。「日本語ができる子ども」ではなく、「ことばを使って相手を理解し自分を表現できる子ども」を育てることが目標になります。大切なのは学習に参加しながらことばを覚えていくことで、そのためには、周囲の私たちこそが「コミュニケーション上手」になる必要があると考えます。

◆先生が心がけていることは?

なるべくゴミを減らすこと。特に、仕事柄、紙を無駄にしないように、プリントアウトを我慢して辛くてもパソコン画面で読むようにしています、ハンドアウト、会議資料、草稿…。

先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「JSL児童の日本語の学びを支える実践研究-「ことばの力」を育む算数学習の実際-」

詳しくはこちら

どこで学べる?
もっと先生の研究・研究室を見てみよう

池上研究室HP

「目標は「日本語が上手な子ども」を育てることなのか -外国人児童生徒に対する日本語教育の現状と課題-」
※科研の課題と関わる内容のエッセイです。

Twitter「にほんご わせだの森」公式アカウント
※「にほんご わせだの森」は、早稲田大学大学院日本語教育研究科の大学院生たちが企画・コーディネートする新しい形の地域の日本語教室です。

2019年秋学期の新入生歓迎会のときの集合写真。ゼミ生たちと。
2019年秋学期の新入生歓迎会のときの集合写真。ゼミ生たちと。
中高生におすすめ

エクソフォニー 母語の外へ出る旅

多和田葉子(岩波現代文庫)

ドイツ在住の作家によるエッセイ。エクソフォニー(exophony)は、作者によれば「母語の外に出た状態一般を指す」(p.3)。ドイツ語と日本語で創作活動を行う作者は「母語の外に出る旅」をし、自らの言語体験についても綴ります。「自分を包んでいる母語の響きから、ちょっと外に出てみると、どんな音楽が聞こえはじめるのか。それは冒険でもある」(p.6)。誰もが越境する現代においては、誰もが自らのことばと向き合う瞬間を持つでしょう。ことばを教えること・学ぶこともこうした文脈で捉え直す必要があると、わくわくさせてくれます。


まんが アフリカ少年が日本で育った結果

星野ルネ(毎日新聞出版)

ルネ少年のお母さんはカメルーン出身。4歳での来日後、成長していく日常を描いた内容はとてもポジティブです。困惑も葛藤もあったと思うのに、この透明な明るさはなぜだろう。「〇〇人」・「〇〇国」といった枠組みから考えるのではないこと、周囲の人たちの暖かさ、この2点が肝要なのだなと思いました。とすれば、私たちの周囲の子どもたちにも、この2点を、是非!Twitterにあげられた漫画+描き下ろし。ルネ少年のお母さん、最高です。


先生に一問一答
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

日本近代文学。実は、当時、目指していました。または、獣医学。 

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

タイ。初めて行ったとき、初めてなのに「懐かしい」感じがしました。暑いのは苦手なのに、なぜでしょう。タイ語の響きが心地よいから?長く暮らしてみるとわかるかもしれないので。

Q3.感動した映画は?印象に残っている映画は?

映画館で観衆として拍手をした映画が、『カッコーの巣の上で』。あの、バスケットボールのシーンです。以降、J・ニコルソンが出るのを観るようになりました。最近では、『パターソン』や『グリーンマイル』もよかったです。

Q4.研究以外で楽しいことは?

金魚の観察。一匹10円だった餌金(他の魚の餌になる運命の金魚)が立派に大きくなりました。金魚鉢のふちを叩いて合図すると、「ごはんだ!」と集まって来ます。夜には鉢の底で並んで寝ています。三匹いますが、ちゃんと個性があっておもしろい。ただ、日本語が通じるかが、わからない。

Q5.会ってみたい有名人は?

中村吉右衛門さま。いや、きっとお会いできない、物陰から窺うだけでしょう、恐れ多くて。そのぐらい素敵、かっこいいです。


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