
仮想通貨やブロックチェーンなどに応用されている暗号技術=「ゼロ知識証明」が、今、注目されています。情報セキュリティの宮原大輝先生は、複雑で難しい暗号技術を、パズルを使って見事に解説します。
注目の最新暗号技術「ゼロ知識証明」
ゼロ知識証明という最新の秘密計算技術
今、非常に注目されている最新の暗号セキュリティ技術を紹介しましょう。ゼロ知識証明という秘密計算の技術です。
今から、数独というパズルを使って、ゼロ知識証明をわかりやすく説明しましょう。登場するのは、私とあなたです。私はこのパズルの答えを知っていて、そのことをあなたに自慢したい。しかしあなたは、答えが本当かどうか疑っている。そのような場面で、正解を漏らさないで(つまりゼロ知識)で、正解を知っていると証明する方法を考えてみましょう。

まずこの数独のルールを確認しましょう。9×9のマスに1から9までの数字があらかじめいくつか埋められています。空きマスに、1から9の数字を埋めていくのが、数独です。
ルールで重要なのは、各行、各列、そして9つの各ブロックに含まれる数字は、どれも1~9まで全て異なる必要があることです。

数独を使って、ゼロ知識証明の方法を解説
ゼロ知識証明の方法はこうです。私は数独の答えを知っています。答えと同じ数字のカードを伏せて置きます。あなたに答えは見えません。

次に、あなたが、1から9までの数字がちゃんと含まれているか検証します。もちろんそのままめくってしまうと、答えが漏れてしまうので、カードゲームでお馴染みのシャッフル操作を使います。
まず1行目の9枚のカードを裏返したまま、左から右に順番通りに取り出します。この裏返した9枚のカードの下に、1から9のカードを順番を示すために並べて置きます。このカードも裏返し、上下2枚の束を9個作ります。この9個の束をシャッフルします。シャッフル後、上のカードをめくります。

めくったカードは元々1行目にあった9枚のカードです。シャッフルしたおかげで並び順はわかりませんが、数字は1から9まで全て異なっていることを確認できました。つまり、あなたは、カードの数字は1から9までそろっているということを、答えを見ずに検証できたというわけです。

では、黄色の部分にカードを戻しましょう。めくったカードを裏に戻して、また上下2枚で束にして、もう一度シャッフルします。今度は、下側のカードをめくります。これは、カードの順番を示す数字なので、この数字の上のカードを左から順番に戻すと、元に戻るというわけです。以上で、1行目の部分の検証が終了しました。

カードを使った秘密計算は日本発信の暗号技術
残りの行や列も同じように検証できますので、このパズルに対するゼロ知識証明はすべて可能となりました。
このようにカードを用いる秘密計算は、カードベース暗号と呼ばれます。カードベース暗号は日本が発信する研究分野です。カードベース暗号は、もっと広めていきたいと思っています。

◆先生は研究テーマをどのように見つけたのでしょうか。
高校時代はPCの時代が必ず来ると思い、情報系の学部を選択しました。学部の講義で情報数学に出会い、ソーティングといったアルゴリズムがとても魅力的で、それらを研究したいと思うようになりました。カードベース暗号は、たまたま配属された研究室で取り組まれていたテーマであり、私の興味と重なり、博士号を取るまでに至りました。最新の論文や教科書を読む際に、なぜこれをやらないのか、自分ならこうするといった意見を高校生くらいのときから持つようにしていたので、それが今の自分に繋がっているのかなと思っています。
スノーデン
オリバー・ストーン
この映画はある1人の暴露を基に作られています。アメリカ合衆国の情報機関である国家安全保障局(NSA)に勤めていたスノーデンによって、アメリカ合衆国の秘密裏な監視体制が暴露されました。この映画を観ると、国家の安全体制や情報統制はどうあるべきか考えることができ、用いられる暗号技術にも興味が湧くと思います。