パソコンのキーボード、マウスなどは、人間からの入力を受け、コンピュータを快適に動かします。そのような役割を果たすのが、ヒトと機械のよりよいつながり方を研究するインタフェース分野です。杉浦裕太先生は、この研究をさらに押し進め、暮らしの身近にあるソファやカーペットなど、やわらか物体にセンサを組み込み、人間がより自然に使いやすいインタフェースに取り組んでいます。
枕や布がデバイスになる!いつの間にか生活環境に溶け込む、やわらかインタフェース研究
寝入りばなの灯りを自動調節してくれる枕を開発
私たちの生活空間には、人間がリラックスするためのやわらかなものが多く存在します。ソファやクッションなどやわらか物質に、センサを内蔵させると、センサは触った場所を感知し計測し、とても触り心地のよい入力装置を持ったインタフェースを実現することができます。
私は枕に圧力センサを取り付け、触った場所の圧力を測定することで、夜、寝入りばなに灯りを自動調節してくれるやわらかインタフェースを開発しました。このインタフェースは、ユーザが枕にうずめるときの様子をセンサが感知し、コンピュータがこれらの細かな動きを解釈することで、眠りの状況に応じた消灯サービスをしてくれるのです。この枕は、手で触るとテレビチャンネルを変えることもでき、リモコンとして使うこともできます。
クッションのセンサ化
次に私が着目したやわらか素材は、布です。布は引っ張ると伸び縮みします。これに光センサを入れてやると、布の収縮密度を計測することを発見しました。おなかに巻きつけると、食事中の腹部の形状変化を計測することができ、ダイエットアプリとして利用できるようにしました。
伸縮性の布センサ
カーペットを大型画面ディスプレイに変える!
次に着目したのは、カーペットです。カーペットを手でこすりつけるように触ると、濃淡がくっきりと変化する経験をだれでもしたことがあると思います。私はこの現象にヒントを得て、濃淡を自動的に制御する掃除機型のロボティクスデバイスを開発しました。このデバイスでカーペットを掃除すると、大きな絵を描くことができます。
カーペットのキャンパス化
これをホテルで使えば、カーペットの上に、宿泊者へのウエルカムメッセージや、その日の天気予報を描き出すなど、新しいディスプレイの提案ができます。
さらにぬいぐるみに着目し、ぬいぐるみに取り付けるだけで、動きを与えることができるデバイスを開発しました。ぬいぐるみはリビングに置いておくだけでも、心をなごませますが、そこにちょっとした動きが入ると命を吹き込んだようになります。ただ動きをあたえるだけでなく、ぬいぐるみどうしで動きを伝えあい、ぬくもりのあるコミュニケーションメディアとして提案しています。
アメリカの計算機科学者、マークワイザーは「最も深い技術とは見えなくなるものである。日々の生活環境と区別がつかないほど、その中に溶け込む」と言っています。人々の日常生活に溶け込み、その延長線上にコンピュータからサービスを享受できる、そんなライフスタイルを革新した世界を私は目指しています。