高校時代、先天性心臓病で引きこもっていた彼女は、「部屋にいながら外でいろんな体験をしたい」と思って過ごしました。大人になって、このSF的な夢の実現のため研究を進めたのが「身体の共有」です。他人の体をハックし、その体験を自らも体感できるようになる未来。その先進となる技術を、玉城絵美先生がご紹介します!
他人の身体を共有する~女性研究者の見たSF的な夢
みなさん、普段からInstagramやX、LINEなどのSNSを使われていますね。その中で楽しい写真や動画、きれいな風景などをみんなでシェアしあったりして、自分たちの体験を共有していると思います。私の研究している「身体の共有」とは、そういった他の人の体験を自らも体感できるようになる、というものなのです。
私の友達が文鳥を飼っていて、手のひらに乗せたりして楽しそうな写真なんかを見ると、私も触りたい!と思うんです。私、文鳥大好きなんです(笑)。触りたいのに、画面上だから全然触れない。そういうことってなんか許せないんですね。だって友達は楽しいことをしていているのに、私は忙しくて触れないんだから。
そういった、触るという動作も他人の手を借りて行うことを可能にする研究が、「PossessedHand/ポゼストハンド」です。――他人の手を自在に動かす研究です。
例えば、友達の手に、このPossessedHandを装着し、私が、友達の指をこんなふうに動かしたいというコマンドを送ると、友達の指がその通りに動きます。この装置から電気刺激が出ていって、指をこんなふうに動かしてねというふうに指示を出しているわけです。つまり、これって、他人の体をハックしているってこと。普通に言ってこの研究、ちょっと怖いんですよね(笑)。
そこでひとりよがりな研究になっちゃいけないと始めたのが、「UnlimitedHand/アンリミテッドハンド」です。これはPossessedHandの研究を応用したもので、バーチャルリアリティのゲームなどに使えるようにしたデバイスです。バーチャルリアリティの中の手と自らの手の動きを共有することによって、例えばバーチャルリアリティのゲームをより臨場的に体感できたり、バーチャルな文鳥を触れるようにしたりとかできるんです。
このUnlimitedHandをVR用触感型ゲームコントローラーとして販売できるように、ベンチャー企業(H2L)も立ち上げました。
ひとりよがりな欲望から始まった研究なのですが、いろんな世界の人に身体共有の研究や開発を進めてもらっています。これからも身体共有に関する研究は広がっていくと言われています。ぜひ今後とも注目していってほしいです。
PSVR(プレイステーションVR)(ソニー株式会社)、GearVR(SamSung)
視覚に関するHCI分野の研究成果が社会実装されたものです。
誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論
D.A.ノーマン 岡本明、安村通晃、伊賀聡一郎、野島久雄:訳(新曜社)
著者のノーマンは認知学者で、HCIにも関わる分野の方です。日常、私たちが目にするもののデザインが、どのように私たちに認知されて、良い悪いといった評価になるのかを、心理学、認知学(何かに対して脳が知覚する性質を研究する分野)の分野で説明しています。
本書からは、私たちの日常身の回りにあるもののデザイン(工夫)に気づかされます。何もかもが合理的で短時間で解決することが、必ずしも便利であるとは言えません。ヒトに最適な仕組みを考えて設計されている物があるという点を読んでほしいです。
日常的に利用しているものは、どのように考えられてそこにあるのか、どのようにして私たちに使われているのかを見つめ直し、改めて自分の周りがどのように作られているか、どのように社会が作られているかを考えるきっかけになると思います。
新しいヒューマンコンピュータインタラクションの教科書 基礎から実践まで
玉城絵美(講談社)
HCIの概要から、人間やコンピュータの情報の入出力に関する特性、インターフェースを設計する際の考え方や評価方法、そして近年注目されている技術までを、図や具体例を交えてわかりやすく紹介しています。この分野は、「新しいものをつくる人」だけのためのものではありません。今ある仕組みをどう改善していくか、という視点にも大いに役立ちます。身の回りの社会やテクノロジーの“しくみ”に目を向けてみたい高校生に、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。
BODY SHARING 身体の制約なき未来 (未来のわたしにタネをまこう 3)
玉城絵美(大和書房)
この本では、ひとりの体験が他の誰かの体験になる――そんな未来のあり方を示しています。メタバースに「身体性」を取り入れることで、単なる映像や通信を超えて、人と人とが“感覚ごと”つながる社会を目指す内容です。テクノロジーの最前線とその先にある未来の姿が描かれており、これからの社会や生き方に興味がある方に読んでほしい一冊です。
感覚まるごとシェアできる、体験のデジタルマーケット「Maaart」
(H2L株式会社)
BodySharing技術を活用し、身体の感覚をデジタルデータとして販売、提供するオンラインマーケットです。
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感覚共有できるメタバースオフィス「BodySharing® for Business」
(H2L株式会社、株式会社乃村工藝社)
BodySharing技術を活用し、ユーザの状態を「元気度」と「リラックス度」としてアバターにリアルタイムに反映することで、コミュニケーションを生まれやすくするメタバース空間です。
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