国際関係論

アメリカのインド太平洋地域における安全保障戦略を分析


佐藤洋一郎 先生

立命館アジア太平洋大学 アジア太平洋学部 アジア太平洋学科/アジア太平洋研究科 アジア太平洋学専攻

どんなことを研究していますか?

経済活動のグローバル化が拡大するにつれ、これまで国家単位で行われた様々な政策に対し、グローバルなレベルでの「ガバナンス(統治)」という視点から、再検討が迫られています。一方、二度の世界大戦に見られたような、国家間の対立と戦争の問題も、依然サイバー戦争・情報戦などを含む様々な形で継続しており、国家の安全保障の重要な問題であり続けています。さらには、安全保障の概念自体が国家間の戦争という定義を越え、研究者はテロリズムのような「非国家的なアクター」による脅威、「人間の安全保障」といわれるような、個人レベルでの安全保障も検討しなければなりません。

多極化する世界のパワーバランスとアメリカ

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私は長年、米国国防総省アジア太平洋安全保障研究所に所属し、アメリカのインド太平洋地域における安全保障戦略について研究してきました。昨今アメリカ以外の様々なアクターの重要性は増しています。例えば、ソ連崩壊から回復するロシア、経済成長を軸に軍事力強化を図る中国、中国を追い経済成長を続けるインド、人口減と経済の国際競争力低下で次第に国力を落としながらも現在世界3位の経済大国である日本など。しかし多極化する地域パワーバランスの中で、アメリカは依然として中核的な位置を占めています。米国のインド太平洋地域における安全保障戦略を理解すること抜きに、我が国の安全保障の確保に資することは不可能と考えています。

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合同ゼミ合宿へ向かう途中、B級グルメ名物・日田焼きそばを体験

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→商社、メディア、政府、大学
  • ●主な職種は→営業、記者、外交官、教員
  • ●業務の特徴は→対人接客、交渉、研究・調査
分野はどう活かされる?

新聞記者となった卒業生は、駆け出しのため国際関係報道にはまだしばらくは配属されることはなさそうですが、取材・調査力、分析力、執筆力などには、卒業論文作成に至る学習の集大成が活かされるでしょう。商社の営業においても、自社、ライバル社、取引相手の分析にもとづいた交渉を展開してゆく上で、国際関係の勉強で培った戦略的分析・交渉能力が活かされていると思われます。

大学院卒業生の外交官2名にとっては、ゼミで習得した専門知識が、そのまま職務に活かされています。大学院進学した学部卒業生の多くも、研究者または官職を目指す者が多く、学部での学習がそのまま院での勉強の土台となっています。海外の大学で教鞭を執るゼミ出身者のネットワークも広がっています。

先生から、ひとこと

日本と世界とのつながりがますます深まっていき、国境の内側に引きこもって隔離された生活ができなくなってくる時代が来ています。日本人の若者にとって「国際関係」の勉強とは、そんな時代の中で、いかにして世界とのつながりを、自らにとって、自らの所属するコミュニティ(家族、業界、町、国家など)にとって有利なものとしていくか、という命題に直接つながる知識やスキルを獲得するためのものだと考えます。

先生の学部・学科はどんなとこ

アジア太平洋学部の中の専攻分野として位置づけられる「国際関係」の授業には、同学部の他の専攻の学生や、もう一つの学部である国際経営学部からも多くの学生が集まってきます。これは、ひとえにその授業内容の面白さ、質の高さによるものと思われます。国際関係の授業の中には「戦略系」の講座がいくつかあり、国際経営学部学生にとっても、これらのコースは実践的で魅力のあるものとなっています。

また、アジア太平洋地域における国際情勢一般についての知識も、同地域で活躍するビジネスパーソンにとって必須であり、日本の企業のアジア展開とともに、そのような人材を輩出する大学に注目が集まっています。立命館アジア太平洋大学が、「企業が選ぶ」大学ランキングで、並みいる研究上位大学を抑えてトップレベルに君臨しているのは、多文化・多言語学習環境で鍛えられた学生たちの、自ら学んだ国際関係の知識を応用する実践力が評価されていると言えるでしょう。

こうした実践力は、受け身一方の学修では身に付きません。立命館アジア太平洋大学における国際関係の学修では、カリキュラム内における自主研究、フィールド・スタディ、インターンシップなどを重視しています。個別の講座についても、暗記型の勉強にとどまらない、分析思考、問題解決、理論検証の実践などに重点を置いた様々な学修が用意されています。国際関係の中の学問領域としては、安全保障、国際政治経済、平和学の3つの軸があり、国際法や開発学、環境政策、メディア研究などの周辺学問領域との連関をフルに活かした学際的、実践的なプログラムが用意されています。

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タイ・パタヤビーチでウインドサーフィンの国際レースに出場

先生の研究に挑戦しよう

ネットニュースを使って時事英語に慣れよう。模擬国連などへの参加を通じて、問題設定能力、戦略的分析力、交渉力などの研鑽を積んでください。ビブリオバトルなどに参加して、書籍の要約をする力を高めよう。

興味がわいたら~先生おすすめ本

白洲次郎 占領を背負った男

北康利

白洲次郎は、戦後日本の復興期に長期政権を担い、親米経済復興重視路線を敷いた吉田茂首相の側近であった人物。彼を通して、敗戦日本を取り巻く国際環境の激変を冷静沈着に分析し、国の取るべき指針を定め、その目標を達成すべく戦略を生み出し実践していくということが描かれている。国民の多くが自分の国の命運に能動的に関与することに無関心な中、率先的にリーダーシップを取る大切さがわかる。また、彼を通して、日本の平和主義が何を起源としどのような条件の下で可能であったのかを再検証することで、現在の日本を取り巻く国際環境への理解、日本の「平和主義」が直面する課題、日本の将来を見据えた戦略思考の切り口などが見えてくる。 (講談社)


官僚たちの夏

城山三郎

昭和の高度成長期の通産省(現:経済産業省)での官僚政治を描いた小説。国際政治経済における重商主義の考え方が、読み取れる。40年以上前に書かれた本であるが、今も色あせることのない作品。 (新潮文庫)


オキナワ論 在沖縄海兵隊元幹部の告白

ロバート・D・エルドリッヂ

沖縄における米軍基地の問題が、国際安全保障政策と国内政治、地元政治とのつながりの観点から読み取れる。著者は日本での研究歴が長く、在日米軍海兵隊の政治顧問を務めたこともある。 (新潮新書)


戦略論の名著 孫子、マキアヴェリから現代まで

野中郁次郎:編著

マキアヴェリ『君主論』から、毛沢東『遊撃戦論』、2001年に発行された宇宙地政学の本『アストロポリティーク』など戦略論について綴られた古典から現代までの著作12冊を、国内研究者チームが紹介し解説する。初めて戦略論に触れる人にとっても、古今東西の代表的な戦略論が理解できる。 (中公新書)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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