国際関係論

国家が全面衝突する総力戦が、どのように冷戦に変容したか解明する


松村史紀 先生

宇都宮大学 国際学部 国際学科/地域創生科学研究科 社会デザイン科学専攻 グローバル・エリアスタディーズプログラム

どんなことを研究していますか?

冷戦後、アメリカを中心に先進国が作り上げてきた世界の秩序は、いま二重の挑戦を受けています。一つは、中国やロシアといった勢力の台頭です。二国はアメリカとの正面衝突を慎重に避けながらも、アメリカの行動の自由を狭めるような挑戦的行動を取っています。中東などにおけるロシア、東シナ海・南シナ海における中国などの行動は、その顕著な例です。もう一つの挑戦は、テロリストに代表される暴力の行使です。この二つの挑戦がどのように生じているのか、どんな方向に向かうのかを検討することは、日本の今後も含め、現代社会の難題を考える上で極めて有意義でしょう。

総力戦と冷戦 東アジアをとりまく国際政治

私は、20世紀前半までの、国家が全面衝突する総力戦体制が、その後どのように冷戦という形に変容していったのか、理論的な解明に取り組んでいます。その中で、中国、ソ連(あるいはロシア)、アメリカ、日本が、どのような国際環境の制約条件のもとに対外政策を構想してきたのかを明らかにします。

例えば、日本は、戦後アメリカとの同盟関係に入ることで、軍事手段を対外戦略の一手段として構想することを避けてきましたが、アメリカからの制約を受けることになりました。一方、中国はソ連と同盟関係に入ったものの、やがて中ソ同盟は破綻します。それによって中国は軍事手段を対外戦略の重要な一手段として構想してきました。このように各国の対外政策を考察することで、今後日本を含めた関係国がどのような対外政策を取るかを探ります。

先生から、ひとこと

知人者智。自知者明。〔他人を知るものは智者であるが、己を知るものは明者である〕
勝人者有力。自勝者強。〔他人に勝つものは力をもつが、己に勝つものは真の強者である〕
――『老子』

先生の学部・学科はどんなとこ

文学・哲学から経済・フィールドワークまで幅広い分野を学びながら、多文化が共生する社会とはどのような社会なのかを丁寧に考えようとする教員、学生が集まる場所です。

先生の研究に挑戦しよう

【テーマ例】
・冷戦期、中ソ同盟はなぜ成立し、破綻したのか。
・冷戦後もなお日米同盟が存続しているのはなぜか。

興味がわいたら~先生おすすめ本

国際政治 恐怖と希望

高坂正尭

国際政治はともすれば「~すべきだ」という道徳的な議論が先に来てしまいがちだが、国際政治の冷静な判断にはつながらない。そこに必要なのは、国際政治の構造をいくつかの視点から理解することだ。例えば、軍縮は望ましいが、どうして実現することが難しいのか、などである。本書は、平易かつ冷静にこのような点を解説している。 (中公新書)


諸子百家 儒家・墨家・道家・法家・兵家

湯浅邦弘

人が道徳的に良くなれば社会が良くなるのか。人は簡単に改心できるものではないから厳しい法によって秩序を作るべきなのかなどが論じられている。現代世界においてもなお重要な論点が、古代中国ですでに議論しつくされていたことに驚いてほしい。 (中公新書)


危機の二十年 理想と現実

E.H.カー

戦争の勝者が、自らの理想によって平和を作ろうとする時、敗者の利益を無視することが多い。勝者と敗者の間にある「利害対立」を顧みず「利益の調和」を欠いて平和を作ろうとすれば、敗者からの挑戦を受ける危険が待っている。現代世界の危機もこれと無縁ではない。いまなお多くの示唆を与えてくれる名著。 (原彬久:訳/岩波文庫)


七人の侍

1954年の日本映画。ある村を野武士から守るために、主人公勘兵衛は良心的でありながらも、いくつか非情な決断をくだしている。この非情な決断を前に、悩み考えることは、おそらく政治の世界を考える出発点になるだろう。 (黒澤明:監督 三船敏郎:主演)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。