化学系薬学

新しい機能性分子をデザインして創り出す!


山本博文先生

徳島文理大学 薬学部 薬学科(薬学研究科) 

どんなことを研究していますか?

化学系薬学は、薬を製品化するためのまったく新しい製造法や、新薬のもとになる分子を創り出す分野です。画期的な方法を開発することで、現在すでに使用されている医薬品、農薬、化学薬品が、より安価に安全に製造できることが期待されるとともに、画期的な新薬の発見につながる可能性を拓きます。このような化学系薬学で、私は三つのテーマについて研究を行っています。

一つ目は、再利用を可能にする金属化学反応剤の開発です。地殻鉱物である金属の多くは限りある有用な元素資源であるため、医薬品等を製造するために用いられる金属を無駄なく回収して再利用できる技術の開発を行っています。これによって、継続性のある安定した医薬品製造が行えるようになるとともに、環境汚染や水質汚染の防止にも役立ちます。

免疫活性化抗菌薬など新規薬品の開発も

二つ目は、免疫活性化抗菌薬の開発です。抗生物質の普及により、近年、抗生物質がまったく効かない薬剤耐性病原菌の発生や感染症が深刻な医療問題の一つになっています。これらの感染症を克服するための新たな取り組みとして、我々自身が生まれながらに備えている免疫系(自己防御システム)を活性化して、菌感染症を治療できるまったく新しい抗生物質代替薬の開発を目指しています。

三つ目は、海洋生態系への影響を視野に入れた安全な分子標的型防藻剤の開発です。現在、地球温暖化や海流変動により、藻類が爆発的に増殖するグリーンタイドやアオコ、赤潮といった海洋・水質汚染が世界規模で問題になっています。しかしながら、現在、これらを予防・防止する有用な手段はまったくありません。このような背景のもと、海洋生態系や水生生物に影響を与えない、汚染の原因となる藻類だけを狙い撃ちする分子標的型防藻剤の開発を目指しています。また、最近では、この技術を応用することで、逆に藻類の成長を助ける物質を人工的に作り出して、温暖化の影響によって減少傾向にある食用海藻の培養と陸上養殖技術の開発も進めています。

講演会風景
講演会風景
この分野はどこで学べる?
学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?

●主な職種は→研究(製剤または医薬品合成)、臨床開発CRC、薬剤、MR(医薬品情報担当者)

●業務の特徴は→専門性を活かした薬関連業務

分野はどう活かされる?

・大学時に学んだ有機・無機化学の基礎を生かして、製剤または、医薬品合成の研究職

・大学時に学んだ創薬研究やアッセイ評価法を生かして、臨床開発

・薬剤師免許を取得後に、病院や調剤薬局で、臨床(管理)薬剤師

先生の学部・学科はどんなとこ

自立協同(自らが自立し、社会に貢献する)を建学精神にした大学で、特に薬学部では、自然科学や医薬品開発の分野に力を入れて研究活動を行っています。自立協同の建学精神のもと、社会貢献へとつながる基礎研究をモットーに、研究活動を通じた様々な経験を皆さんと共有していくことで、広い視野を持った人材の育成に努めていきたいと考えています。

もっと先生の研究・研究室を見てみよう
先生からひとこと

高校生に伝えたいこと。これまで化学研究の主流だった、低コスト化を最優先する量産化プロセス方法論を見直す時代に来ています。つまり、大量に安く製品を作り出すのでなく、合成反応剤や医薬品原料等が、無駄なく使われているかなどを正しく評価し、安全性とリサイクル効率に配慮する必要があります。私たちの研究分野では、可能な限り有害物質や重金属廃棄物を出すことなく、機能性分子や医薬品候補物質を作り出す方法を開発します。

先生の研究に挑戦しよう!

海に自生している海藻に様々な金属イオンを加えてみて、海藻の成長に与える影響などを観察してみよう。金属イオンの違いによって成長に違いが出ることが確認できると思います。

興味がわいたら~先生おすすめ本

有機化学美術館へようこそ 分子の世界の造形とドラマ

佐藤健太郎(技術評論社)

医薬品や機能性分子を作り出す難しさとともに、その有用性や可能性、魅力等がわかりやすく紹介されている。決して肉眼では見ることのできない分子にも、我々と同じように様々な形や個性・性質が存在する。そして、目に見えないその分子の集合体が、日々の日常的な物理現状を作り出す。それらは、時に世界的影響力を及ぼす可能性があることを、ぜひ知っていただきたい。


世界史を変えた薬

佐藤健太郎(講談社現代新書)

かつて「死の病」とされていた病気も、抗生物質の発明によってありふれた病気になった。他にも、歴史を変えてきた薬の発明は数多く存在する。現在不治の病とされている病気も、いつか将来、ありふれた病と呼ばれる日が来るかもしれない。この本は、過去に世界的に大きなインパクトを与えた新薬開発を振り返ることで、これからの研究を見つめる本である。


新薬に挑んだ日本人科学者たち

塚崎朝子(講談社ブルーバックス)

新薬の開発には、多大なる時間と労力と費用がかけられている。薬となり得る候補物質を探し出し、それらを選別して薬としての有効性を高め、毒性を弱めるといった作業と研究をしている。日本人は、世界に名が通るに至った薬をいくつも開発しており、この本はそれらについてまとめている。医薬品開発の難しさや魅力を感じてほしい。



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