大部分の植物の根には、「菌根菌(キンコンキン)」と呼ばれるカビの仲間が住んでいます。菌根菌は、根の中と外に菌糸のネットワークをつくり、それを通じて根が届かない範囲の土壌からリンや窒素などの養分を吸収して植物に供給しています。その代わりに植物は、光合成によって生産した炭素化合物(エネルギー源)を“活動資金”として与えます。
4億年前、根が未発達であった植物が海から陸へ進出する際、先に陸上に適応していた菌根菌の祖先を利用して養水分を獲得したのが、この共生の始まりと考えられています。今、菌根共生は、省資源・低負荷型農業の実現や荒廃地緑化への利用に期待が高まっています。
化学肥料を使わない農業、荒廃した土地を緑化できる可能性
私は、この菌根菌と、植物の間での養水分のやり取りに関わる分子メカニズムや生態を調べています。それによって農業や荒廃地の緑化に利用する技術の確立を目指しています。うまくいけば農耕地への化学肥料の投入量を減らし、災害や開発によって荒廃した土地を緑化できる可能性が広がります。
私たちが特に得意とするのは、農耕地や火山などのフィールドワークを通じた共生微生物の生態の調査です。共生菌の養分吸収に関わる遺伝子群の働きを調べることも行なっています。これらの研究では、大量の遺伝子情報を扱う必要性があり、時にはスーパーコンピューターも使ってデータ解析を行います。
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「8.食・農・動植物」の「26.植物科学、育種・作物・園芸」
一般的な傾向は?
●主な業種は→化学メーカー、農業資材メーカー、環境コンサルタント、化粧品メーカー
●主な職種は→研究職、技術営業職
●業務の特徴は→化学・生物学関連の研究開発業務、コンサルタント業務
分野はどう活かされる?
微生物・植物の研究経験を生かした農薬や微生物資材の研究開発業務、化学分析などの経験を生かした化粧品開発業務、高性能コンピューターを用いた高度な遺伝子解析の経験を生かしたシステム開発、荒廃地での植物・微生物生態の研究経験を生かした緑化技術の開発や環境コンサルタント業務、顕微鏡観察の経験を生かして光学機器メーカーでの研究開発業務、農水省や国交省などの公的研究機関における研究。
北海道大学農学部では、農耕地や熱帯・寒帯の湿地などからの温室効果ガスの発生動態の研究や、植物の養分や有害物資の吸収に関わる遺伝子の機能解析、植物と微生物の共生現象の解明や農業・環境修復への応用など、社会の持続的発展に関わる重要な研究テーマの多くを網羅し、世界をリードする研究を行っています。
高校までの学習は教科書に書かれた事象を学ぶことで完結しますが、大学での研究は未来の教科書を作ることにつながります。敷かれた線路の上を歩くことから、何もないところに線路を敷く立場に変わるのです。
その準備のために、興味ある分野について深く知ることも大切ですが、様々な事象に広く興味や疑問を持って、自分なりの考えをまとめる能力を磨いておくことが、あなた自身のオリジナリティーを確立する上でとても大切です。
まず仮説を立て、その仮説に基づいて実験をデザインするとともに、その実験が正しく行えたかどうかを検証する方法まで考えて実行しましょう。また、得られた結果が仮説とは違っていた場合、なぜそうなったのか、別の角度からの説明は可能かなど、考え得るあらゆる可能性を挙げ、次の実験に生かしましょう。
【実験例】
・土壌に棲む微生物の多様な機能を調べるために、生の土と殺菌した土を用いた植物の栽培実験。
・化学的な性質(例えばpH)の異なる土を畑や林、河原など様々な場所から集め、植物の育ち方の違いを観察する。
Science Journal for Kids and Teens(オンライン雑誌)
私たちが行った菌根菌の荒廃地生態に関する研究を含め、様々なジャンル、特に地球環境や生物・病原菌の生態などに関する先端研究の論文を集め、英語を第1または第2言語とする中高校生向けに平易な英語で解説したオンライン雑誌。この出版団体が独自に作成した映像資料も添付されており、すべて無料で閲覧できる。
→オンライン雑誌のページへ
→「菌根菌の荒廃地生態」の記事ページへ