世界最大の加速器で、高エネルギーニュートリノ測定をリードする
異質で謎の多いニュートリノ
ニュートリノは私たちの周りにたくさん飛び交っていますが、ほとんど反応せず地球すら貫通していってしまいます。電荷を持たず質量が非常に小さい素粒子と考えられています。ニュートリノは極端に小さい質量を持ち世代間(※1)で大きく混合しているなど、他の物質とは異質な存在であり、未だ謎が多く、未知の枠組みの解明への手がかりとなることが期待されています。
※1:ニュートリノは、電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノという3世代あることがわかっている。
国際共同実験で高エネルギーニュートリノ研究を提案
ニュートリノの研究では、1GeV(※2)程度のニュートリノを研究する大型のハイパーカミオカンデ計画などが進行中ですが、一方で1TeV(1000GeV)程度の高エネルギー領域での研究は未開拓でした。
私は、 CERN(※3)にある世界最大のハドロン衝突型加速器(LHC)の陽子衝突点の超前方に検出器を設置して軽い長寿命の未知粒子を探索する国際共同実験FASERに参画し、LHCを用いて未踏のエネルギー領域でのニュートリノ研究が可能なことに注目しました。LHCにおいて3世代ニュートリノを研究する実験(FASERν)を提案し、パイロットランの解析からLHCからのニュートリノの初観測に向けた反応候補の検出に成功しました。
※2 1GeV:1GeVはエネルギーの単位で、1ギガ電子ボルト(10億電子ボルト)。1TeVは1テラ電子ボルト。
※3 CERN(セルン):欧州原子核研究機構。スイスとフランスの国境をまたぐ地域にある。
タウニュートリノ測定に向けた将来計画を牽引
2022年から本格的なデータ取得を開始し、LHC陽子陽子衝突に起因する高エネルギーニュートリノ測定を実施しています。また、この実験を基に、今後アップグレードするLHCでの詳細なタウニュートリノ測定に向けた将来計画を牽引しています。
これらの研究により、3世代のニュートリノについてユニークな基礎データを提供するとともに、コライダー(※4)を用いたニュートリノ実験への道を拓いていきたいと考えています。
※4 コライダー:2つのビーム(加速された粒子)を衝突させる加速器。静止した粒子に加速した粒子を衝突させる方法に比べてはるかに高いエネルギーの衝突となり、より微細な構造を調べる実験が可能になる。
自然科学の実験に取り組んでいるときが、生きていて1番楽しく、それを仕事にしたいと思いました。詳細なテーマについては、選んだというより、学生実験で声をかけてくださった研究室に居ついたので、割とたまたまです。
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は? やはり自然科学になると思います。 |
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Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? ベルン大学で働いたことがあり、スイスの落ち着いた雰囲気や研究環境はよいと思います。ただ、私はドイツ語やフランス語で授業を行えないですし、他の国より大学での安定した職を得るのが難しいので、ずっと暮らすことは難しいかなと思います。 |