生体医工学・生体材料学

がん治療

化学と免疫学をつないで挑む、がん治療の材料開発


弓場英司先生

大阪公立大学 工学部 応用化学科(工学研究科 物質化学生命系専攻)

出会いの一冊

がんと闘った科学者の記録

戸塚 洋二、立花 隆:編集 (文春文庫)

ノーベル賞も確実と言われた物理学者が、がんで「余命わずか」と宣告されてから死に至る直前までの間、自らの病を科学者然とした態度で見詰めた闘病記です。自らの病状をも研究・分析の対象とするだけでなく、迫りくる死に対して、常にポジティブな気持ちを持ち続けた、その姿勢に心打たれます。

がん治療のための研究に興味がある人、病気と向き合う人の心について興味がある人、どちらが読んでも得られるものが大きい本だと思います。

こんな研究で世界を変えよう!

化学と免疫学をつないで挑む、がん治療の材料開発

異物を追い出す免疫系によるがん治療

私たちの身体には、体内に侵入した異物(細菌、ウイルスなど)を排除するメカニズムである免疫系が備わっています。このシステムを利用して、異物に対する免疫を事前に活性化しておくのがワクチンです。

免疫系は、体内で異常をきたした細胞に対しても応答することができます。これを利用して、がんを治療するための研究が行われています。

しかし従来の技術では、がんに対する抗体を作り出すことはできても、がん細胞を直接攻撃する免疫細胞(キラー細胞)を活性化することは困難でした。

がんを攻撃する免疫細胞が活性化

私たちは、化学の立場からキラー細胞を活性化するための材料開発に挑戦しています。

具体的には、がん抗原(免疫系にとっての目印)を包んだ微粒子に、細胞の中ではたらく高分子をコートして免疫細胞に食べさせると、細胞の中で抗原が運ばれる経路が変わり、キラー細胞が活性化されることを発見しました。この微粒子を、がん細胞を移植して腫瘍を形成したマウスに注射すると、腫瘍がみるみる小さくなることも見つけています。

自己免疫疾患の治療にも

化学と免疫学の間には何のつながりもないように思えるかもしれませんが、免疫系にとっては化学的に作られた材料も異物であり、材料に対する免疫応答を理解することで、次にどのような材料を開発すればよいかが見えてきます。

私たちの研究成果は、がん治療用の材料開発に加えて、免疫系が過剰に反応することで引き起こされる自己免疫疾患の治療技術にもつながると考えています。

作製した材料が、細胞や組織の中でどのようにはたらいているかを観察するための特殊な顕微鏡(共焦点レーザー顕微鏡)です。
作製した材料が、細胞や組織の中でどのようにはたらいているかを観察するための特殊な顕微鏡(共焦点レーザー顕微鏡)です。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

大学に入った当初は環境問題に興味があったのですが、研究室に入る直前に突然、市販薬のアレルギーを発症してしまいました。その原因を探るために市販薬に含まれている薬効成分を一種類ずつ服用して応答を見る、いわば実験のようなことをお医者さんと行っているうちに、くすりという人工物が自分の体の中で起こしていること、特に免疫に興味を持つようになり、それまで学んでいた化学と、免疫をつなぐ研究をしたいと思うようになりました。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「機能性高分子を利用した免疫応答制御と治療に関する研究」

詳しくはこちら

先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
手前から、遺伝子の発現を計測するためのPCR装置、組織から遺伝子やたんぱく質を抽出するためのビーズ式組織・細胞破砕装置、凍結した組織を10ミクロンほどに薄く切断するためのクライオスタットが並んでいます。
手前から、遺伝子の発現を計測するためのPCR装置、組織から遺伝子やたんぱく質を抽出するためのビーズ式組織・細胞破砕装置、凍結した組織を10ミクロンほどに薄く切断するためのクライオスタットが並んでいます。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 化学/化粧品・繊維・衣料/化学工業製品・石油製品

(2) 医療機器

(3) 薬剤・医薬品

◆主な職種

(1) 基礎・応用研究、先行開発

(2) 設計・開発

(3) 品質管理・評価

◆学んだことはどう生きる?

先生の学部・学科は?

先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

はたらく細胞

清水茜(講談社)

複雑な免疫系のエッセンスを、漫画として楽しく学ぶことができます。私の研究室に配属される学生は、大学受験で生物を学んでいなかった方がほとんどですので、免疫学に興味を持っていただくきっかけとして読んでいただいています。


若い読者のための第三のチンパンジー

ジャレド・ダイアモンド(草思社文庫)

人間とは何かということを、進化学や地理学など、様々な視点から概説している本です。答えを単に求めるのではなく、議題に対してどう考察できるのか、何がわかっていないのか。そういった時間を与えてくれます。これは研究者が頭の中で常にやっていることで、読みながら、それを追体験しているような気持ちになれるところが読んでいて気持ちいい点なのだろうと思います。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

免疫学。化学を修めた今ならば、全く異なる視点で学べると思います。

Q2.一番聴いている音楽アーティストは?

上原ひろみ『Haze』

Q3.大学時代の部活・サークルは?

軽音楽部

Q4.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

バンド活動。気晴らしになるだけでなく、音楽と研究には共通する点があると思っています。


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