分析化学

微量分子の測定

世界で初めて! 細胞一個でも様々な分子の検出に成功


川井隆之先生

九州大学 理学部 化学科(理学府 化学専攻)

出会いの一冊

フラジャイル 病理医岸京一郎の所見

漫画:恵 三朗、原作:草水 敏(アフタヌーンKC)

私が専門にしている分析化学は基礎学問なので、中々これに直接関連するような書籍はないかもしれません。ですから少し分野が外れた一例ですが、医療現場で利用されている分析技術 (検査技術) を漫画で分かり易く学べる本で、個人的にも面白いと思います。

こんな研究で世界を変えよう!

世界で初めて! 細胞一個でも様々な分子の検出に成功

微量分子を測定するには?

我々ヒトの身体は約37兆個の細胞から構成されていて、そこにはDNAやタンパク質などの大きな分子 (=化学物質) から脂質や糖などの小さな分子まで様々な種類の分子が存在しています。これらの分子が細胞一個一個のレベルで複雑に連動して動き、変化して、最終的に我々の生命活動が形成されています。

私は中学・高校の頃から生物・化学が好きで、「どんな分子がどのように動いて生命が形成されているかを解き明かしたい」と考えてきました。ではどうすれば、小さなスケールでの分子の動きを解析できるでしょうか?

例えば細胞一個に含まれる分子を測定したいとします。一般的なヒトの細胞のサイズは10-20マイクロメートルなので、その体積はわずか数ピコリットル (ピコ = 10のマイナス12乗) です。物質量 = モル濃度×体積ですので、非常に少ない物質量の分子を測定する必要がありますが、このような微量分子を測定できる手法はこれまで存在しませんでした。

「電気の力」で分子を操作する

そこで私は「電気の力」で分子を操作することで、少ない数の分子でも検出しやすくすることを考えました。例えばプラスの電荷を帯びた分子を電場に置くとマイナス極へと引き寄せられます。この現象を電気泳動と呼びますが、これを高度化すると、分子を一点に集めて濃縮したり、沢山の分子を分けて一つずつに整理したりできます。

例えば非常に微量の緑色の分子と青色の分子の混合物を測定したいとします。量が少ないと薄まって色が見えませんが、電気泳動を使って分子を一か所に集めれば色が見えるようになります。さらに緑色と青色の分子を分離できるため、それぞれの量を決定することができます。

医療・創薬に役立てる研究も

以上のような技術を使って、私たちはわずか細胞一個であっても様々な分子を検出することに世界で初めて成功しました。この技術によって、基礎的な生命科学研究だけでなく、医療・創薬に役立てるような研究も行っています。

技術が実用レベルに達するまで散々失敗してきましたが、これまで誰もできなかったことを自分達の力で突破して世界で初めて実現するというのは、とても爽快です。若い皆さんにも是非難しい研究に興味を持っていただき、大学で挑戦していただければ幸いです。

細胞一個をマイクロニードルで採取する様子 (顕微鏡観察下での画像)
細胞一個をマイクロニードルで採取する様子 (顕微鏡観察下での画像)
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

誰も知らない世界を切り拓く研究者にあこがれ、中学3年生くらいから目指していました。大学時代はバイオ系の研究に興味があったのですが、その際に教授からパワハラを受けて逃げ出し、大学院で入り直した研究室で今の研究テーマである分析化学(電気泳動分析)と出会いました。その後、分析化学の知識・技術を磨いて、技術サイドからバイオ研究を推進して社会に貢献するという目標で現在の研究を進めています。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「革新的電気泳動技術に基づく超高感度バイオ分析研究」

詳しくはこちら

先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
一細胞分析のための電気泳動装置 (正確にはキャピラリー電気泳動-質量分析 (CE-MS))
一細胞分析のための電気泳動装置 (正確にはキャピラリー電気泳動-質量分析 (CE-MS))
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 化学/化粧品・繊維・衣料/化学工業製品・石油製品

(2) 食品・食料品・飲料品

(3) 薬剤・医薬品

◆主な職種

(1) 基礎・応用研究、先行開発

(2) 設計・開発

(3) 品質管理・評価

◆学んだことはどう生きる?

化学メーカー、食品メーカー、製薬企業などで分析技術を駆使して製品開発を行っている卒業生が多いように思います。生体分析化学研究室は生命科学、分析化学、物理化学などの融合領域研究を進めているため、幅広い知識や分野外の人に分かり易く伝えるプレゼン能力などが評価されていると思います。

先生の学部・学科は?

九州大学理学部化学科では、化学に関連する非常に広い学問分野 (無機・有機・分析・物理・生物・量子・理論など)を学ぶことができます。また非常に研究レベルが高く、世界トップレベルの研究プロジェクトに参画しながら研究の進め方を学ぶことができます。

研究室全体の集合写真
研究室全体の集合写真
先生の研究に挑戦しよう!

私が専門にしている分析化学は基礎学問なので、高校生の知識でそのまま取り組むのは難しいかもしれません。むしろ最初は興味の範囲を限定しすぎず、ジャンルを問わず多くの本を読んで知識を蓄え、想像力を膨らませることが重要な気がしています。

またオープンキャンパスなどには是非参加して、実際の研究現場の雰囲気や研究内容を学んでいただくのが良いかなと思います。

中高生におすすめ

「がん」はどうやって治すのか 科学に基づく「最良の治療」を知る

編:国立がん研究センター(講談社ブルーバックス)

これはあくまで一例で、どのような本でも良いのですが、最新の科学のトピックスに触れられる本をオススメします。私は高校の頃は講談社ブルーバックスの本をよく読んでいました。全部が分からなくても良いので、こんな世界があるんだ、と広く知識を得て想像を膨らませていくことはとても重要です。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

情報科学

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

アメリカ、上を目指す人に対して寛容だから

Q3.一番聴いている音楽アーティストは?

すぎやまこういち、『交響組曲「ドラゴンクエストIV」導かれし者たち』

Q4.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

子育て、起業準備

Q5.好きな言葉は?

挑戦


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