分子レベルで見た触媒の働き 反応はなぜ速く進むのか
松本吉泰(講談社ブルーバックス)
触媒は、それ自身は変化せずに反応速度を大きくする物質です。では、なぜ触媒を用いると反応速度が大きくなるのでしょうか。
不均一触媒系では、反応は触媒の表面で起こります。しかし、ノーベル物理学賞受賞者であるヴォルフガング・パウリは、「固体は神がつくりたもうたが、表面は悪魔がつくった」と表面の複雑さ・難しさを表現しています。不均一触媒反応の分子レベルでの理解を目指した研究分野に「表面科学」があります。
本書では、表面科学による触媒の反応機構研究の最前線がどこにあるのか、どのようにしてここまで到達したのか、そして今後どのように展開していくと期待されるのかがまとめられています。表面・界面を対象とした研究の一端に触れることができる本だと思います。
界面の化学反応を100フェムト秒の時間スケールで追跡
物質の境界で起きていること
これまで、「界面」で起こるダイナミクスに着目した研究を進めてきました。異なる物質の境界である界面では、様々な科学技術の分野で重要な役割を果たしている反応・現象が起こります。
例えば、電気化学反応は電極と電解質の界面で、不均一触媒反応は触媒の表面で進行します。このような特異な環境である界面で、何がいつどのように起こっているのかを詳細に知りたい、というのが研究のモチベーションです。
レーザー光で界面の分子だけを測定
しかし、界面は分子数層分の厚みしかありません。一方で、界面の分子の周囲には、界面とは無関係の分子がはるかに多く存在しています。そのため、界面の分子だけを界面以外の分子と区別して測定することは、技術的には容易ではありません。高強度のパルスレーザー光を用いると、界面からのみ入射光の和の周波数の光が発生します。この光を検出することで、界面からの情報を得る研究手法は、和周波発生分光法と呼ばれています。
金属表面や界面水の超高速ダイナミクスを明らかに
特に、100フェムト秒(10兆分の1秒)の時間スケールで起こる超高速ダイナミクスも追跡可能な時間分解測定と光を波として検出する最先端の計測技術を駆使することで、新しい界面研究手法による測定を実現しました。これまで、本手法を用いて、金属表面の分子ダイナミクスや界面水の水素結合ダイナミクスなどを明らかにしてきました。
最近では、生体膜界面や電極界面で起こる化学反応ダイナミクスの究明に挑戦しています。これらの反応の詳細を理解することで、反応効率の向上などの反応制御に向けた研究開発の指針となりうる知見を得ることを目指しています。
化学ポータルサイト「Chem-Station」
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