攻殻機動隊(映画)
押井守(監督)
子ども向けの戦闘アニメのような名前ですが、私が留学していた先でも、多くの研究者が好んで見ていたアニメーション作品です。ぜひ見てみてほしいので、ネタバレにならない程度のことしか書けませんが、「ヒトが皆、脳にコンピュータを搭載している未来」の話です。
記憶や経験もデータ転送できる時代において、機械に近づいていったヒトと、ヒトへと近づいていった機械が、自分を自分たらしめている「自我」というものの所在を探していきます。近年、イーロン・マスク氏のNeuralink社を初めとして、実際にヒトの脳にマシンを搭載しようという潮流がありますが、そんな近い未来の姿を想像させてくれる素晴らしい作品です。
記憶の操作で「好き」は作れる!恋愛や友情を司る脳神経を解明
メダカは「よく見知ったオス」を配偶者に
私の研究テーマの大筋は「社会性の脳神経メカニズム」にあるのですが、その中でも興味の中心は、少しずつ変遷してきました。
大学院時代には、できる限り簡単な生き物を使って「恋愛」のメカニズムを解きたい!と思い、メダカの恋の駆け引きの研究をしていました。その中で、メダカのメスが「よく見知ったオス」を好んで配偶相手として選択するという性質を見つけました。
「友達」の記憶の貯蔵のされ方を解明
その後、博士研究員となり、そもそも「よく見知った友達」というのは、脳の中でどう表現されているのだろうという疑問を持って、マサチューセッツ工科大学の利根川進先生の研究室に留学しました。
記憶中枢である海馬という脳領域の中で、果たして、友達の記憶は、どのニューロンによってどのように貯蔵しているのだろうかという謎を一つずつ解き明かしていきました。
マウスの感情操作に成功!
さらに、その発見を応用して、特定の友達についての記憶に、恐怖や快楽の情動を人為的に付加することで、強制的にその相手に対しての「好き」や「嫌い」を作ることにも成功しました。
操作したマウスが、その相手のマウスに猛烈に近づいていったり、離れたりするようになり、記憶の操作ができた瞬間、自分の仮説は合っていた!という確信を持ち、とても感動したのを覚えています。
今後のテーマは脳内での「自分」
さて、そんな現在、最大のテーマは、「自分と他者」です。これまでは他者に対しての感情や行動を取り扱ってきましたが、私たちは、他者がいるから自分がいて、自分がいるから他者がいます。
果たして、「自分」や「他者」は脳内でどのように表現されているのでしょうか。これからこの大きな謎に向かって飛び込んでいきたいと思います。
→先生のフィールド[光操作]平成29年度採択課題ではこんな研究テーマも動いている!私たちの研究室では、これまで行ってきた社会性行動の研究を応用して、「自閉症スペクトラム」という病気の原因を解明しています。自閉症は、他者との間で社会的なコミュニケーションが上手くできない病気です。全米でも54人に1人と、非常に患者数も多い一方で、まだ明確な原因がわかっておらず、現代社会の直面する大きな課題の一つです。私たちの基礎研究をもとに、少しでも多くの人々が健康的に暮らせるようになることを願っています。
◆テーマとこう出会った
大学院時代・博士研究員時代を通して、私が所属してきた研究室は、本当に自由な研究環境でした。大学院に入るやいなや、「何でもいいから、行動・神経・遺伝子をつなげられて、一番面白いと思うことをやってごらん」と指導教員の竹内秀明先生に言われ、手をつけたのが「恋愛」の脳メカニズムでした。人間も動物も、配偶相手を得るためにあの手この手を尽くし、理性と本能の間で蠢く情動には、何とも言えない不思議と神秘があったからです。
そのメカニズムが少しずつ見えてきた頃から、次のステップとして「恋愛を操作できないものか」と考え始めました。そうして、記憶の操作を行うべく、博士研究員として、記憶研究の最先端を走っていたマサチューセッツ工科大学の利根川進研究室で、今の研究を始めることになりました。
◆中高時代
私が研究者になろうと思ったのは、中高時代の生物の先生の影響が非常に強いです。授業も、「Molecular Biology of the Cell」という教科書を使い、最先端の分子生物学を教えてくれ、高3では英語の原著論文が渡され、各人がゼミ形式で論文内容を発表しました。
その時に、私が選んだ論文がRichard Axel先生の「嗅覚受容体のコーディングのメカニズム」の論文で、必死になって読んだのをよく覚えています。その2年後、その業績でAxel先生がノーベル賞を受賞したときは、自分の恩師の先見の明も含め、非常に感動しました。
◆出身高校は?
筑波大附属駒場高校
利根川進
マサチューセッツ工科大学 ピカワー学習・記憶研究所
【記憶の神経メカニズムの解析・記憶操作法の確立】博士研究員時代の私の上司ですが、研究の内容もさることながら、研究への好奇心が凄まじかったです。
◼︎利根川研究室HP(TONEGAWA LAB)
定量生命科学研究所には、最先端技術を使って様々な生命現象を「定量する」というコンセプトがあり、そこから得られた大量のデータを、数学やコンピュータを使って解析しています。
例えば、仮に「右を見る」という単純な行動を調べるときにも、頭や首や体幹などのいくつもの座標を、1秒間に数十回という高速で計測することによって、新しく見えてくる事実があるからです。
クジャクの雄はなぜ美しい?
長谷川眞理子(紀伊國屋書店)
動物行動学の話をする時に、コンラート・ローレンスの『ソロモンの指環』と並んでオススメしているのが、この本です。私たちの恋愛にも通じる、パートナーを選ぶ行動は、動物界では「配偶者選択行動」と呼ばれています。動物たちの不思議な恋愛行動が詰まった一冊です。
性と愛の脳科学 新たな愛の物語
ラリー・ヤング、ブライアン・アレグザンダー、訳:坪子理美(中央公論新社 )
きっと高校生は恋愛に興味があるに違いないと信じて、この本を選びます。『クジャクの雄はなぜ美しい?』が「動物恋愛行動学」とするならば、この本は「動物恋愛神経科学」。読み終わる頃には、恋愛に対しての見方が変わっているであろう一冊です。
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ? 神経科学・コンピュータサイエンス |
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Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? アメリカ。5年間生活していましたが、とても自由で素晴らしい国でした。 |
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Q3.感動した映画は? 『いまを生きる』 |
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Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは? 塾講師を長い間やっていました。プレゼンのスキルは、この時に培われました。 |
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Q5.研究以外で楽しいことは? 旅。バックパック1つでアマゾンやボルネオに行くのが大好きです。 |