遺伝子複製を叩き、悪玉菌の増殖を抑制
生殺与奪の権は細菌が握っている
「生殺与奪の権を握るのは細菌である」とは何かの比喩ではありません。細菌と仲良くすることは私たちの健康に不可欠です。例えば、私たちの腸内には100兆個ほどの細菌が住んでおり、これら“善玉菌”の活躍が私たちの免疫や代謝を支え、がんや生活習慣病などから私たちを守っています。
他方、環境中には感染症を起こす“悪玉菌”が潜んでいます。とりわけ、くすりが効かない“超悪玉菌”は現代の医療体制を脅かしています。したがって、私たちがサスティナブルな健康社会を築くためには、細菌増殖のしくみを理解し、巧みにコントロールすることが必要なのです。
遺伝子複製は細菌細胞内の特定の場所で起こる
細菌は肉眼では見えない小さな細胞の中に生命の設計図である遺伝子を収納します。細菌が増殖する時、細胞中で遺伝子が複製されます。その後、細胞分裂によって全く同一の遺伝子を継承したクローンが産生されます。遺伝子複製反応は細菌細胞内の特定の場所、かつ、特定のタイミングで起こります。
細胞内の位置を教えるGPS機能が複製の鍵
つまり、細胞内位置情報をリアルタイムでモニターするGPSのような機能によって、細菌は遺伝子複製を管理しているのです。この“細菌GPS”の実態解明は、細菌増殖のしくみを理解するためだけでなく、GPSを標的とした新たな悪玉菌制圧法の開発につながるという点でとても重要です。
細菌GPSを構成するタンパク質を調査中
そこで私たちは様々な技術を駆使して、“細菌GPS”を構成するタンパク質やそのはたらきを調べています。この研究の先には、私たちが人為的に細菌GPSを操作して細菌増殖を自在にコントロールする未来があります。
そうなれば私たち一人ひとりの健康状態に合わせて善玉菌を増やしたり、悪玉菌を退治したりするテーラーメイド医療も夢ではありません。
◆テーマとこう出会った
「生きる」とは何か、という子どもの頃に思った素朴な疑問が今の研究につながっています。哲学的な意味ではなく、生命体を様々な分子の集合体であると捉えるとき、「生きる」とは、すなわち、それぞれの分子のはたらきを司る「遺伝子」を後世に伝えることです。この点において、私たちヒトの細胞と細菌の細胞とは同志です。
ただし、ヒト細胞を構成する遺伝子が数万個であるのに対し、細菌の遺伝子は数千個です。であれば、より遺伝子の数が少ない細菌の遺伝子を研究のほうが「生きる」ということへの理解に近づけるだろう、と思ったことが細菌研究のきっかけです。
実際に研究を進めてみると、遺伝子が少ない細菌であっても、とても複雑な遺伝子ネットワークを構築しており、「生きる」とは何かという問いの答えにはなかなか到達できそうにありません。
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「7.生物・バイオ」の「21.分子生物学・細胞生物学・発生生物学、生化学(生理・行動・構造等 基礎生物学も含む)」
Urs Jenal
University of Basel, The Center for Molecular Life Sciences
細菌のふるまいを制御する細胞内シグナリングの研究をしています。留学中に私を指導してくれた先生です。細菌のふるまいというよりも、研究者としてどのようにふるまうかを教えてくれました。
◆平成31年度科学技術分野の文部科学大臣表彰「科学技術賞」および「若手科学者賞」(九州大学ニュース)
薬学部では、くすりに関するスペシャリストを養成するため、有機化学、物理化学、生物化学、そして臨床に関する学問を体系的に学ぶことができます。一般的な理工系学部では臨床に関する知識を育むことが難しいのに対し、医療系学部では化学式や薬の構造に関する学問が乏しいです。薬学部ではこれらを専門的に学び、化学式を理解する医療人という個性的な人材を育成します。
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? スイス。実際に6年間住んで、気候や街の雰囲気、市民の人柄が素晴らしかったので。 |
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Q2.一番聴いている音楽アーティストは? ユニコーン。特に『すばらしい日々』。 |
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Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは? 大学院の時、健康食品専門の薬局で薬剤師としてアルバイトしていました。 |
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Q4.研究以外で楽しいことは? レモンの栽培 |
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Q5.会ってみたい有名人は? 奥田民生 |