自然共生システム

水中の生物音響

海中に広がるイルカたちの音の世界 音からその生態を知る


木村里子先生

京都大学 東南アジア地域研究研究所/野生動物研究センター
農学部 資源生物科学科/農学研究科 応用生物科学専攻

出会いの一冊

水中生物音響学

赤松友成、木村里子、市川光太郎(コロナ社)

自分も共著の本なのですが、すごくたくさんの文献(つまり、世界中の研究者が行った研究)を引用し、凝縮してまとめた一冊です。著者らが実施した研究についてもわかりやすく紹介してあります。

水の中がいかに音で溢れているか、いかに応用できるかという点にも注目して読んでくださったら嬉しいです。

こんな研究で世界を変えよう!

海中に広がるイルカたちの音の世界 音からその生態を知る

水中の音の研究はこれから

私は海洋大型生物の研究に取り組んでいます。主な対象種はスナメリなどの沿岸性のイルカで、他にウミガメやウナギ、サメ、エイ、アザラシなどの研究にも関わってきました。

主な研究対象は、音です。陸上は光の世界で、人間を含め多くの生物が視覚を中心に据えて環境を認知しますが、水中は音の世界が広がっていて、多くの生物たちが音を出したり聴いたりしています。しかし、日本を含め、アジアでは水中の生物音響研究がまだまだ未発達です。

耳を澄ませて海を覗くロマン

現在取り組んでいる研究では、イルカなどの生物が出す音だけでなく、船舶航行などで発生する人為的な音(人工騒音)も対象としています。研究の手法としては、受動的音響観測と呼ばれる手法にドローン、バイオロギングなどを併用して、音で海洋生態系を可視化し、生物の行動や生態を明らかにしています。同時に人工騒音の影響を評価し、軽減させたいと考えています。

ちなみに受動的音響観測とは、受動的に周囲の音を録音する調査手法です。私はこの手法をとても気に入っています。耳を澄ますだけで、誰も傷つけることなく、海の中を覗くことができる。素敵だと思いませんか?

タイ湾におけるイルカの音響調査。タイ、マレーシア、スリランカ、アメリカ、日本の国際共同研究として行いました。1日中海上で過ごすため日焼け対策は必須です。対象種は、シナウスイロイルカ、ミナミハンドウイルカ、カワゴンドウなどです。
タイ湾におけるイルカの音響調査。タイ、マレーシア、スリランカ、アメリカ、日本の国際共同研究として行いました。1日中海上で過ごすため日焼け対策は必須です。対象種は、シナウスイロイルカ、ミナミハンドウイルカ、カワゴンドウなどです。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

私は、もともと研究者を目指していたのではなく、二者択一の決定を重ねて、研究者になるに至りました。

研究モチベーションの源流としては、中国の揚子江で研究キャリアをスタートさせた時に、ヨウスコウカワイルカの絶滅を目撃したことが大きいです。絶滅が危惧される生物の生態解明に携わることで、野生生物と人間の共存、より良い地球の未来に貢献したいという想いで研究を続けています。

昔読んだ本に「宇宙、海洋、人体に研究のフロンティアがある」と書いてありました。研究を始めてみると、その通りだなと思うことが多く、水圏生態系にはまだまだよくわかっていないことがたくさんあります。

アジア沿岸域に生息するカワゴンドウ。タイ、マレーシアなどで研究を実施してきました。アジアには沿岸性の強いイルカが多く、人為的な影響評価が今後さらに重要となってきます。
アジア沿岸域に生息するカワゴンドウ。タイ、マレーシアなどで研究を実施してきました。アジアには沿岸性の強いイルカが多く、人為的な影響評価が今後さらに重要となってきます。
先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「水中音響リモートセンシングで駆動するアジア沿岸生態系の生態解明と環境影響評価」

詳しくはこちら

先生の分野を学ぶには
もっと先生の研究・研究室を見てみよう
ドローンによるスナメリの行動調査。コロナ禍により、日本の各地で実施してきました。陸上から双眼鏡を用いた目視観察も同時に実施します。スナメリの分布、行動、船舶影響などを調べました。
ドローンによるスナメリの行動調査。コロナ禍により、日本の各地で実施してきました。陸上から双眼鏡を用いた目視観察も同時に実施します。スナメリの分布、行動、船舶影響などを調べました。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 農業、林業、水産業

(2) 官庁、自治体、公的法人、国際機関等

(3) 大学・短大・高専等、教育機関・研究機関

◆主な職種

(1) コンサルタント(ビジネス系等)

(2) 大学等研究機関所属の教員・研究者

(3) その他

◆学んだことはどう生きる?

大学や研究機関における研究者、国家公務員、地方公務員、外資系企業、国内企業など卒業後の進路は様々です。研究対象は海洋生物でも、解析にプログラミングなどが必要となることもあるため、IT系に就職する人も最近は多いと思います。

先生の学部・学科は?

私が所属する京都大学東南アジア地域研究研究所は、東南アジアや地域研究に関するありとあらゆる分野の研究者がおり、政治・経済・文学・文化人類学・環境学・医学・動物学など分野が多岐にわたります。

研究所の多くの先生が、京都大学アジア・アフリカ研究科を兼担していますが、私のように、農学部・農学研究科や、医学部・医学研究科など他の学部・研究科を兼担する先生も多くいます。

兼担する京都大学農学部・農学研究科は、守備範囲が広いため海洋動物から植物、昆虫、食品など幅広く様々なことを学ぶことができます。

先生の研究に挑戦しよう!

(1)生物の観察
動物や、植物でも構いませんが、とにかく観察をしてみましょう。『生き物をめぐる4つの「なぜ」』 (長谷川眞理子著、集英社新書)を参考に動物の行動や形態について考えてみましょう。

(2)生物の音
水中マイクで音をとってみるのは簡単ではないかもしれませんが、動物園や水族館、あるいは公園や道端、川岸、海辺、どこでも構わないので耳を澄ましてみて、どのような生き物、人工物がどのような音を出しているか、よく聴いてみましょう。その音が出る頻度は? 音の高さは? 大きさは? その意味は? など色々考えてみましょう。

インターネットでは、クジラやイルカをはじめ様々な生物の音を聴くこともできます。積極的に調べてみましょう。

中高生におすすめ

バイオロギング(2) 動物たちの知られざる世界を探る

編:日本バイオロギング研究会(京都通信社)

日本の研究者が世界中で実施した研究により明らかになった、様々な動物の行動や生態を知ることができる本です。私もスナメリの項を執筆しました。


世界を、こんなふうに見てごらん

日高敏隆(集英社文庫)

日本を代表する動物行動学者が書いた、心にじわりと沁みる一冊です。ぜひ読んでいただきたいです。

同じ著者による『チョウはなぜ飛ぶか』(岩波少年文庫)、『春の数えかた』(新潮文庫)も同様におすすめです。


生物から見た世界

ユクスキュル、クリサート他(岩波文庫)

この本を読んだときに「私が長年ぼんやりと考えていたことはこれだったんだ」と思いました。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

物理学や情報学基礎など、じっくりと学ばずにきてしまった学問をしっかり学んでみたいです。

Q2.一番聴いている音楽アーティストは?

最近は辻井伸行さんのピアノ演奏。『ラ・カンパネラ』

Q3.感動した/印象に残っている映画は?

『クラウド アトラス』、『レ・ミゼラブル』

Q4.学生時代に/最近、熱中したゲームは?

『いただきストリート』


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