植物分子・生理科学

植物の再生能力

接ぎ木できるのはなぜ? 植物の再生能力にかかわる遺伝子を見出した!


池内桃子先生

奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科

出会いの一冊

愛なき世界

三浦しをん(中公文庫)

三浦しをん氏が植物発生学の研究者を綿密に取材をして書かれており、大学院生の日常が手に取るようにわかります。抑えた筆致でありながら、実験原理や研究の考え方がわかりやすく自然に表現されています。

こんな研究で世界を変えよう!

接ぎ木できるのはなぜ? 植物の再生能力にかかわる遺伝子を見出した!

根や葉などの組織片から再構築

植物は非常に高い再生能力を備えています。根や葉などの組織片をオーキシン・サイトカイニン含有培地で培養すると多能性を持ったカルスを形成し個体を再構築できることは高校生物の教科書にも掲載されており、皆さんもご存知だと思います。

どのように切れた器官をつなげているのか

また、植物が切れた器官をつなげる仕組みを持っているおかげで、我々人類は接ぎ木によって思い通りに有用な品種を組み合わせることもできます。しかし、植物がどうやって体組織から多能性を持ったカルスを作り器官を新たに再生できるのか? 植物はどのように切れた器官をつなげているのか? といった根本的な問いは長年未解決でした。

我々は、モデル植物シロイヌナズナを用いた分子遺伝学的研究を用いて、器官再生メカニズムの解明に取組んでいます。

組織の修復も再接続も

我々は再生を制御する遺伝子を探索し、その中でWOX13という一つの遺伝子に着目しました。WOX13遺伝子はコケ植物で再生現象を制御することは知られていたものの、維管束植物において果たす機能は不明でした。

陸上植物に広く保存されている遺伝子ですので、おそらく何か大事な機能を持つに違いないと考えて調べてみたところ、傷ついた組織の治癒と切断された器官の再接続に重要であることを見出すことに成功しました。

さらに研究を進めると、WOX13は組織培養系の器官再生を抑制するという予想外の結果が得られました。この研究を通じて、植物は器官新生と組織修復という異なる再生応答を特異的に制御する仕組みを持つことが明らかになりました。

シロイヌナズナカルスの蛍光顕微鏡画像です。緑の蛍光は、器官再生の重要な制御因子の発現を表しています。
シロイヌナズナカルスの蛍光顕微鏡画像です。緑の蛍光は、器官再生の重要な制御因子の発現を表しています。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

高校時代は、生物部に所属して菊の花びらを使った組織培養の実験を行っていました。非常にシンプルな操作で器官再生を誘導できるのが不思議だなとは思っていましたが、当時は自分自身が組織培養系の現象解明に取組むことになるとは思ってもみませんでした。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「植物の器官新生過程における細胞運命決定と自己組織化機構の解明」

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学生たちはどんなところに就職?

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先生の大学院は?

奈良先端大はまさに「大学院生のための大学」で、大学院生にとっては最高の研究・学習環境のひとつであると自負しています。各研究室が最先端の研究を展開しているだけでなく、アメリカの大学と合同でジャーナルクラブを実施したり、大講堂で英語で発表する機会があったりと、特色ある大学院教育を展開しています。

研究室の学生さんが植物のDNA を抽出して遺伝子を調べている様子です。日々地道に実験・議論を積み重ねた先に研究成果が得られます。
研究室の学生さんが植物のDNA を抽出して遺伝子を調べている様子です。日々地道に実験・議論を積み重ねた先に研究成果が得られます。
先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

らんまん

NHK「連続テレビ小説」

植物分類学者・牧野富太郎をモデルとしたドラマ。熱中できることがある人生の素晴らしさに気づかせてくれます。学問的目覚めや研究仲間との出会いに発見の興奮など、研究者なら誰でも胸が熱くなる場面ばかりです。日々ドラマに登場する植物の美しさとリアリティも秀逸です。


植物の世代交代制御因子の発見

榊原恵子(慶應義塾大学出版会)

第一線で活躍中の発生進化学研究者である著者が、学生時代から若手研究者になるまでの歩みを綴った臨場感あふれる一冊です。

一問一答
Q1.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

息子の成長を見守ること。

Q2.好きな言葉は?

「夢見て行い考えて祈る」。私が大学院生の頃に尊敬している研究者にかけていただいたこの言葉を、ずっと大切にして研究に取り組んでいます。


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