発生生物学

成長と栄養

⾃然界での姿から学ぶ!動物の成⻑を⽀える栄養適応機構と共⽣微⽣物の役割


服部佑佳子先生

京都大学 理学部 理学科 生物科学専攻(生命科学研究科 統合生命科学専攻)

出会いの一冊

あつまる細胞 体づくりの謎

竹市雅俊(岩波書店)

私たちの体は、多種多様な細胞があつまり、器官や個体を構築して生命活動を行っています。著者とその研究グループは、細胞と細胞とを接着する分子「カドヘリン」を発見し、カドヘリンが器官をつくる仕組みや、がんなどの病気とカドヘリンとの関係について明らかにしてきました。

一連の発見につながる科学的なプロセス、研究活動を支える多くの研究者の姿、そして、著者自身の自然に対する深い洞察と愛情が感じられる名著です。

こんな研究で世界を変えよう!

⾃然界での姿から学ぶ!動物の成⻑を⽀える栄養適応機構と共⽣微⽣物の役割

多様な栄養に応じて動物が成⻑する仕組み

これまでの生命科学は、実験に適するモデル生物を対象として発展してきました。一方、自然界に目を向けると、様々な環境に適応する多種多様な生物種が存在します。

そこで、モデル生物の一つであるキイロショウジョウバエとその近縁種の食性に着目した比較研究を行いました。

その結果、自然界で様々な果物や野菜を食べるキイロショウジョウバエの幼虫では、摂取した栄養バランスに応じて遺伝子発現や代謝を調節する仕組みが働くことで、多様な栄養で柔軟に成長できることがわかりました。

一方、特定の果物しか食べない近縁種では、この仕組みを進化の過程で失い、高炭水化物食を食べると成長できないことを見出しました。

野⽣の幼⾍の栄養源は微⽣物によって発酵した果物

この解析を進める中で、幼虫の栄養源として共生微生物が必須の役割を担うことを認識しました。

自然界でショウジョウバエの幼虫は微生物によって発酵した果物を食べて成長します。一方、実験室で無菌化した幼虫に果物だけを与えても、幼虫は全く成長できません。

そこで、野外で幼虫が食べていた発酵した果物の微生物を解析し、幼虫の成長に中心的な役割を担う特定の酵母種や複数の細菌・酵母間の相互作用、さらに、特定の酵母種によって栄養素が供給される仕組みの一端を明らかにしました。

⽣き物の⾃然界での姿から学ぶ

このように、生物の自然界での姿に目を向けることで、実験室でのモデル生物研究だけではわからなかった、発生・成長を支える新たな仕組みが明らかになってきました。

これらの結果は、生物多様性の理解や生態・進化学的な視点の重要性を改めて示すとともに、ヒトの健康増進に向けた新たな展開につながることが期待されます。今後、より詳細なメカニズムを理解したいと考えています。

酵母や細菌によって発酵したバナナを食べるキイロショウジョウバエの成虫
酵母や細菌によって発酵したバナナを食べるキイロショウジョウバエの成虫
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一問一答
Q1.大学時代の部活・サークルは?

書道部。書家の先生にご指導頂いたり、合宿もあって、とても楽しかったです。NPOの活動で、全国から選抜した高校生対象のハワイでの科学合宿の企画・運営も行いました。

Q2.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

子育て。自分の子を含め、子供それぞれに興味も個性も違い、徐々に世界が広がっていく様子を身近で見ることができて楽しいです。

Q3.好きな言葉は?

自分自身が心がけたい言葉として、「学問に王道なし」。大学院入学時に、当時の研究科長から贈られた言葉です。若い時期にしっかりと基礎力・論理力をつけることは、その後、時代の変化に応じて創造性を発揮し、新たな課題に取り組む上で必須と思います。単なる勉強だけでなく、様々な経験を通じて感性を磨き、人間性を高めることも大事。日々努力したいと思っています。

カザリショウジョウバエの成虫や幼虫が食べていたアサガオの解剖実験の様子
カザリショウジョウバエの成虫や幼虫が食べていたアサガオの解剖実験の様子

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