基盤・社会脳科学

攻撃行動

攻撃行動が激しくなるしくみをマウスで研究


高橋阿貴先生

筑波大学 人間学群 心理学類(人間総合科学学術院 人間総合科学研究群 ニューロサイエンス学位プログラム)

出会いの一冊

動物心理学入門 動物行動研究から探るヒトのこころの世界

監修:日本動物心理学会、編集:小川園子、富原一哉、岡田隆(有斐閣)

「動物心理学」とは、動物の行動研究からヒトのこころのしくみを理解していこうとする学問分野です。なぜ個性があるのか、愛や信頼関係ってなんだろう、なぜケンカするのか、どうやって学習したり忘れたりするんだろう。そんな身近な疑問に対し、動物の行動研究から明らかになってきたことをわかりやすく、動物心理学の研究者たちが高校生向けに書いた本です。

こんな研究で世界を変えよう!

攻撃行動が激しくなるしくみをマウスで研究

なんで攻撃するのだろう?

小さな昆虫から大きな哺乳類まで、みんな攻撃行動を示します。動物たちにとって攻撃することは、自分の縄張りを守ったり、パートナーや子供を守ったり、社会的地位を獲得したりするうえで、必要なことです。

ただ、攻撃行動は自分も相手も怪我を負う可能性のある危険な行動です。そのため、激しくなりすぎないようにブレーキのしくみも存在しています。たとえば、雄マウスは攻撃するときに相手の背中やお尻に噛みつきますが、命にかかわるような部分(喉元や腹部)にはめったに噛みつきません。このようなブレーキは、ストレスがかかることで外れてしまうことも分かってきています。

ストレスがかかると攻撃が激しくなる

なぜイライラするのだろう。それが私の研究の疑問です。思うようにいかなかったり、ストレスがかかったりしたときに、私たちは苛立ちを覚えます。動物も、ストレスがかかると攻撃的になることが分かっています。

たとえば、あるボタンを押すといつも餌が出てくることを学習させたあとで、ある日そのボタンを押しても餌が出てこない状況にすると、動物はふだんよりも激しい攻撃行動を示します。また、幼少期に仲間から離されて1匹で隔離飼育されたマウスは、大人になってから激しい攻撃性を示すことも分かっています。私たちは、このようにストレスにより攻撃行動が通常よりも激しくなってしまう生物学的なしくみを、マウスを用いて研究しています。

脳も身体も腸も

私たちの研究から、攻撃行動がふだんよりも激しくなるときにかかわる脳のしくみが少しずつ明らかになってきています。また、身体を守るしくみである免疫系や、腸の中に住んでいる腸内細菌なども、攻撃行動に影響を与えることが見えてきました。

「怒り」というものに、私たちの健康状態や腸に住む別の生物たちの影響があるというのは、とても不思議で面白いところです。これからも、脳と身体と腸が相互作用しながら攻撃行動に影響を与えるしくみを明らかにしていきたいと思います。そして、ストレスによりそのバランスがどのように崩れてしまうのかを知りたいと思っています。

学生たちが実験中の神経活動記録データをもとに議論している
学生たちが実験中の神経活動記録データをもとに議論している
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

大学に入って、ハムスターのかわいらしいポスターが廊下に貼られているのを見て、ハムスターを見たくて動物心理学の研究室に足を踏み入れたのがきっかけでした。ハムスターやマウスの動いている姿をみるのがとても楽しかったのです。見ていると、隅っこで動かず固まっている怖がりに見える個体もいれば、積極的に探索する個体もいて、なんでこんなに行動が違うんだろうということに興味を持ちました。そしてそのしくみを知りたいと思って、遺伝子や脳の研究を始めました。いまでも、マウスの行動を見ていることが好きなので、この研究を続けています。

マウスたち
マウスたち
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「怒りの爆発を抑える生物学的基盤の解明」

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研究室のラボミーティング開始前の様子
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先生の学部・学科は?

筑波大学人間学群心理学類は、専任の教員を約30名抱え、脳と行動の基礎研究から発達臨床や心理カウンセリングに関する実践研究まで、ほぼすべての分野にわたって心理学を学べる大学は他にありません。心理学類のカリキュラムは、幅広い内容を偏りなく学ぶことができるように編成されています。

先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

人間はどういう動物か

日髙敏隆(ちくま学芸文庫)

人間は他の動物とは違う特別な存在、と思っている人もいるかもしれません。でも、人間も猫と同じように動物の中の1つの種にすぎません。ぜひこの本を読んで、人間ってなんだろうと改めて考えてみてください。また、この本の中で、様々な名著について紹介されている点でもおすすめです。


はたらく細胞 

清水茜(講談社シリウスKC)

私たちの身体の中で、外敵と戦う免疫細胞たちの活躍をわかりやすく描いた素晴らしい作品です。免疫系ってすごく複雑なのですが、この漫画を読んでおくとこの分野を学び始めるときの垣根がかなり下がります。


動物のお医者さん

佐々木倫子(白泉社花とゆめCOMICS)

古い作品ですが、大学の研究室ってどんな感じだろう、というのが垣間見れるディープな世界が書かれてます。自分が高校生のころに読んでとても影響を受けました。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

生物学や医学。神経科学の研究をしていると必然的にそこら辺の知識が必要になるので、いまだに勉強です。でも、動物心理学を最初に学んだことが研究への興味を開いたので、やはり動物心理学を選ぶかもしれません。

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?

カナダ。大学時代に行ったバンクーバーでの生活がとても楽しかったから。

Q3.感動した/印象に残っている映画は?

『天使にラブ・ソングを』ミュージカル全般が好きです。

Q4.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

猫との生活