光工学・光量子科学

真空ゆらぎ

「真空ゆらぎ」を活用した、新たな量子技術の開拓


丹治はるか先生

電気通信大学 情報理工学域 III類(理工系)物理工学プログラム(情報理工学研究科 基盤理工学専攻)

出会いの一冊

量子力学の冒険

トランスナショナル カレッジ オブ レックス(言語交流研究所ヒッポファミリー)

難解そうに見える量子力学的な概念を平易な言葉で説明している本です。古典理論で説明しようとするとどこがおかしくなるのかという切り口で、そのおかしさを解消するために、歴史的な経緯も交えながら謎解きのように説明が進められます。

第一章を読むと「光子」がどのようなものなのかがわかります。また、「真空ゆらぎ」のエネルギーの存在は第三章まで読むと明らかになります。

難しい数式もところどころに出てきますが、数学もことばの一種であるという立場で、「習うより慣れろ」という精神で使用されているので、繰り返し読むことで理解が深まるのではないかと思います。

こんな研究で世界を変えよう!

「真空ゆらぎ」を活用した、新たな量子技術の開拓

光エネルギーの最小単位「光子」

ナノスケールの現象の説明を得意とする量子物理学という学問体系によると、光は波と粒子の性質を併せ持っています。それ以上分割できない光のエネルギーの最小単位が「光子」と呼ばれる粒子です。

同じ周波数(色)の光子はすべて同じエネルギーを持っていて、箱の中に光子を入れたり出したりすると、その個数分のエネルギーが増減します。

光子をすべて取り去っても、小さなエネルギーが残る

ところが奇妙なことに、光子をすべて取り去った後の箱の中のエネルギーはゼロにはならず、光子1/2個分のエネルギーが残ります。これは「真空ゆらぎのエネルギー」と呼ばれる非常に小さなエネルギーなのですが、実は蛍光塗料の発光などの身近な現象もこのエネルギーの存在により説明できます。

私は、光子が一つもない空間にも存在するこの「真空ゆらぎのエネルギー」を使って物質や光を操作することを目指して研究を行っています。

「真空ゆらぎ」の性質を使い、物質や光を操作

以前、この「真空ゆらぎ」を利用して、本来は不透明な物質を透明にすることができることを実証したのですが、それを発展させ、「真空ゆらぎ」の性質を自在に変化させることによって物質や光を操作することができないかと考え、現在はそれに向けた研究開発を行なっています。

「真空ゆらぎ」を活用すれば、光子や原子などの量子に対して最小限のエネルギーで雑音の少ない操作が行えるという利点があるため、近年実用化に向けて飛躍的な進歩を遂げている量子計算や量子通信などの量子技術にも応用できるのではないかと期待しています。

原子を励起させるための青いレーザー
原子を励起させるための青いレーザー
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

小さい頃からものを作ることが好きだったため、もともとはロボットについて学ぶために機械工学科を目指していました。ところが、進路選択の時期にたまたま参加した物理学科の説明会で量子力学に関連する研究内容に強く興味を惹かれ、結局そのまま物理学科に進学しました。

大学3年生の時に、レーザー光を当てると不透明な物質が透明になる「電磁場誘起透明化」という現象についての解説記事を読んで衝撃を受けたことが現在の研究分野に至ったきっかけとなりました。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「真空場の積極活用による量子技術の開拓」

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原子をレーザー冷却するための超高真空装置
原子をレーザー冷却するための超高真空装置
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 光学機器

(2) 精密機械・機器(医療機器・光学機器を除く)

(3) 半導体・電子部品・デバイス

◆主な職種

(1) 設計・開発

(2) 基礎・応用研究、先行開発

(3) 技術系企画・調査、コンサルタント

◆学んだことはどう生きる?

量子技術の知識をそのまま就職後の業務に生かせる業種はまだまだ限られていることもあり、研究室の卒業生の就職先は、光学機器メーカー・自動車メーカーからコンサルティング会社まで、非常に多岐に渡ります。

量子技術の研究において不可欠な、世の中にはまだ存在しない新しい装置を一から構築し、工夫を重ねてそれを思い通りに動かせるようにするというプロセス通して、能動的に考え、自ら手を動かして試行錯誤できる力を身に付けた結果、研究室の卒業生がこれらの幅広い業種で活躍できていると考えています。

先生の学部・学科は?

電気通信大学情報理工学域III類(理工系)の特色は、小規模な大学としては珍しく、光・量子関係の教員が数多く所属していることです。大学の規模が小さいため、教員同士の距離が近く、異なるバックグラウンドで培われた多様な知識や技術の共有から、実験装置の貸し借りに至るまで、交流がとても盛んです。

このような環境では、学生さんが指導教員以外の先生からも気軽にアドバイスを受けることができるため、研究を通じた学びの幅が広がることがメリットだと感じます。

先生の研究に挑戦しよう!

中高生におすすめ

ご冗談でしょう、ファインマンさん

リチャード P. ファインマン、訳:大貫昌子(岩波現代文庫)

1965年のノーベル物理学賞を受賞したファインマン博士の自伝です。おそらく多くの人が「ノーベル物理学賞受賞者」から想像するであろう人物像とはかけ離れた、普段着のファインマン博士のユーモア溢れるエピソードがぎっしりと詰め込まれています。

ファインマン博士は、家庭用コンピュータがようやく普及し始めた1980年代初頭に、すでに量子コンピュータについて提案するなど、独創的な発想で知られる物理学者ですが、この本からはその自由な発想の原点を垣間見ることができるとともに、何事も楽しむ、ということの大切さに気付かされます。


メメンとモリ

ヨシタケシンスケ(KADOKAWA)

「長編絵本」ですが、年代を問わず、自分の「今」と「未来」について考えさせられる本だと思います。将来について思い悩んだときに肩の力を抜かせてくれるかもしれません。

一問一答
Q1.一番聴いている音楽アーティストは?

フルート奏者の上野星矢。特にGary Schocker作曲の『Regrets and Resolutions』。

Q2.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは?

子育てとフルートの演奏。


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