美味しさとは何か?の解明に挑む
「人が感じる美味しさ」を研究
私たちは食べることで生きています。この食を起点とする生命システム(食-生命システム)は、非常に複雑であり、全容解明にはまったく至っていません。私は、だれにとっても身近でありながら、解明が進んでいない「人が感じる美味しさ」を研究対象として、食-生命システムの理解に取り組んでいます。
大切なのは「因子同士のバランス」
「美味しい」は、だれでも感じることができますが、「本当に美味しい物はどのようなものですか?」と聞かれると困ってしまいます。なぜでしょうか?これまでの研究により、美味しさを生み出す因子は、ほとんど調べ尽くされています。例えば、糖や脂質のように、エネルギー源になるものは代表的な因子です。しかし、糖と脂質が入っているものが必ずしも美味しいとは限らないですよね。
美味しさを形成する因子が「あるかないか」だけではなく、「因子同士のバランス」が大切になってきます。このように、因子を特定(要素還元)するだけでは不十分で、本当の意味でわかったというには、極めて多種多様な因子を統合(俯瞰統合)することが不可欠です。
しかし、既存の学術的な手法では、俯瞰統合がうまくできないのが現状であり、食-生命研究分野に限らず、多くの学術分野で大きな課題となっています。私は、美味しさを研究テーマとして、人工知能などを用いながら、俯瞰統合を可能にする解析手法の確立に挑戦しています。
"Simple" is best!!
前述の美味しさの例もそうですが、わかっているようでわかっていないことは、世の中に非常に多くあります。史上初めて自然界から単離されたタンパク質であるグルテンは、麺等のコシを生み出す「もと」として有名ですが、極めて独特の性質のため、その立体構造は不明でした。私たちは、麺の透明化と蛍光イメージングを組み合わせる手法を用いて、初めてグルテンの立体構造の解明に成功しました(Nature Commun., 2021)。
この研究の鍵は、透明化であり、私たちは、非常に高濃度のサリチル酸ナトリウム溶液に麺などの食品を浸すと、透明になることを発見しました。サリチル酸ナトリウムは、一般的に、抗炎症薬の成分として知られており、高校の化学でも学習する化合物ですね。抗炎症薬の成分を「高濃度にする」というたったこれだけのことですが、「食品の透明化」という全く別の用途に使えることを見出し、大きなブレイクスルーを生み出すことができました。
研究はとても難しいものと思われるかもしれませんが、実は根本にあるアイデアは、極めてシンプルなことが多いのです。このようなコロンブスの卵的な発想を大切に、楽しみながら研究に取り組んでいます。
◆主な業種
(1) 食品・食料品・飲料品
(2) 化学/化粧品・繊維・衣料/化学工業製品・石油製品
◆主な職種
(1) 基礎・応用研究、先行開発
(2) 生産管理・施工管理
(3) 品質管理・評価
◆学んだことはどう生きる?
大学院(修士課程)修了後に、食品企業で研究や開発職につく学生が多いです。ただ、学部や大学院で専門とした内容が仕事のメインとなることは少ないかと思います。このことは、食品企業に限らず、他業種でも同じことです。
「どのように課題を設定し、どうやって解決していくか?」は、大学・企業・官公庁、文系職・理系職を問わず、あらゆる分野・領域で共通して重要な能力です。そのため、私の研究グループでは、研究教育活動を通じて、このような力を培い、将来、いかなる分野・領域においても世界で活躍できる人材の育成を目指しています。一方、研究を一生の仕事にされたい方は、大学院の博士課程に進学するのも一つの選択肢です。
興味ある内容を調べていくことは大切です。一方で、将来、仕事をスムーズに進めていくには、基礎学力が非常に重要です。特に、研究では、一番最初に発見することが大切であり、そのためには、「現在、何がわかっていて、何がわかっていないのか?」を知ることが肝要です。
今の情報化社会の中で、極めて膨大な情報の中から必要なものを集め、理解し、整理する力は、研究者にとって、アイデアを出す力と同じくらい不可欠な能力かもしれません。実は、この力の鍛錬には、受験勉強は最適です。また、文章を書く力や英語で自分の考えを伝える力、教養として日本の文化や歴史、音楽等を身につけていることも役に立ちます。
生物から見た世界
ユクスキュル、クリサート、訳:日高敏隆、羽田節子(岩波文庫)
人間以外の生物は、ある種の単純な機械のようであると考えられていた約100年前に、「同じ世界であっても昆虫や動物は、私たち人間と異なる方法で環境を捉えており、それぞれの生物が主体的に組み上げる独自の場こそがこの世界の正体である」という、今では広く受け入れられている概念を提唱したユクスキュル。
近年の研究によると、これまで知能が低いと考えられてきた魚類が、実はそうではないことがわかってきているようです。本書を読むと、約100年経った今なお無意識のうちに、「高等な」人間からの視点で世界を視てしまっている自分にドキッとすると同時に、生物という、未知なものに思慮をめぐらし、切り込んでいくアプローチに感服させられます。
Q1.大学時代の部活・サークルは? テニス |
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Q2.大学時代のアルバイトでユニークだったものは? 研究の被験者 |
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Q3.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは? 今に始まったことではないですが、食べること&飲むこと! |