植物のパラサイトたち-植物病理学の挑戦-
岸 國平(八坂書房)
微生物は地球上で最も繁栄している生物で、人類にとって有益なもの、有害なもの、無害なものなど多種多様です。とくに、植物に寄生するタイプの微生物には、病気を起こす病原体と共生型のものが存在し、例を挙げて解説されています。
人類は農耕の開始から農作物の病気に悩まされてきた歴史をもちます。いま現在も病原微生物との戦いは続いていて、世界の食糧生産の10%以上が微生物による病害で損失しています。
普段は気にも留めない小さな生物が植物を攻撃して人類の生存を脅かしているという事実を理解し、植物病理学に携わる研究者たちの終わりのない戦いのごく一部を覗いていただければと思います。
カビから植物を守れ! カビの感染戦略と植物の防御戦略
約10億人分の食糧(食用植物)が病気に
人類は多くの面で植物に依存しています。植物の有能さを挙げると切りがありませんが、例えば、大気中の酸素の大部分を生み出し、治療薬となる有用な化合物を作り出し、紙や布の原料になり、そして、食糧として人類の命を支えています。
食糧に着目すると、年間生産量の10%以上(約10億人分の食糧に相当)がウイルス、細菌、糸状菌(カビ)など、様々な微生物による植物の病害で損失しています。このなかで、植物病の一番の原因は何でしょう?答えはカビで、病害の70~80%は糸状菌病です。
カビvs植物 攻防の仕組みとは
私たちは、多種多様な植物に感染被害をもたらす炭疽病菌というカビの感染戦略と、それに対抗する植物の防御戦略を研究しています。一般に、植物は病気に弱いイメージをもたれがちですが、実際は環境中のほとんどのカビを不適応型菌として撃退しています(非宿主抵抗性)。
非宿主抵抗性は多くの免疫経路により重層的に構築され、植物の防御戦略上、最も重要です。私たちは、様々な不適応型炭疽病菌を解析ツールとして活用し、この植物免疫システムの解明に着手しています。一方で、カビも病原性因子を分泌して植物の免疫系を抑えるなど、工夫を凝らして植物への感染を試みます。炭疽病菌の植物感染手法を新たに発見することも私たちの目標です。
分子レベルで感染と免疫を解明
カビと植物の戦いの根底には生存競争や共進化があり、分子レベルでその仕組みを紐解きます。炭疽病菌はどうやって植物への感染を成立させるのか。そして、植物はどのように炭疽病菌の攻撃を防ぐのか。カビの植物感染メカニズムの掌握と、未知の植物免疫系の開拓を通じて植物保護に貢献します。
学生時代の所属研究室で微生物の生態に触れました。当時は大腸菌(モデル細菌)を研究していて現在の研究とは無縁でしたが、顕微鏡の中でしか出会えない小さな生き物が巧みな生存機構を備えていることに驚かされ、微生物研究に興味をもつきっかけになりました。
ポスドク時代に、これまでと異なる植物病理学の研究分野に飛び込み、病原微生物(糸状菌)と植物の分子レベルの戦いに学術的な魅力を感じながら現在も研究を続けています。
◆主な業種
(1) 食品・食料品・飲料品
(2) 農業、林業、水産業
信州大学農学部農学生命科学科の私が所属するコースでは、植物を農学的・⽣命科学的視点で捉え、フィールドワークとラボワークの両⾯から研究しています。植物の機能・構造といった基礎知識から、新品種の開発・⾼度な⽣産システム・⽣産物の利⽤や科学的評価にいたる応⽤知識・技術までの幅広い内容を、信州の豊かな⾃然環境を満喫しながら体系的に学ぶことができます。
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は? 生き物が好きなので、やっぱり今と同じ生物系の分野(生物学や農学)かなと思います。 |
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Q2.大学時代の部活・サークルは? サッカーサークル。月に1回程度、体を動かすくらいでした。 |