応用生物化学

代謝酵素

酵素は細胞内で集合している!予想を超えた酵素の姿が見えてきた


三浦夏子先生

大阪公立大学 農学部 生命機能化学科(農学研究科 生命機能化学専攻)

出会いの一冊

相分離生物学の冒険 分子の「あいだ」に生命は宿る

白木賢太郎(みすず書房)

細胞の中には膜で囲まれた区画(細胞内小器官)以外にも、タンパク質や核酸でできた集合体が存在し、それぞれ異なる機能を発揮していることが明らかになりつつあります。私たちが研究している、解糖系酵素がつくる集合体もそのひとつです。

細胞の中には高濃度の生体分子が含まれていますが、分子がいわばひしめき合った状態で、どうやって正しく機能を発揮できるのかという謎は、まだ解かれていません。試験管内で同様の状態を再現しようとしても、細胞内の反応よりも極端に低い反応しか示しません。

細胞内で分子が「相分離」してつくる集合体は、この謎を解く鍵になるのではないかと考えられています。「相分離生物学」の提唱者による導入本です。

こんな研究で世界を変えよう!

酵素は細胞内で集合している!予想を超えた酵素の姿が見えてきた

糖からエネルギーや生体成分を生み出す酵素

細胞の中で働く代謝酵素の新しい性質について研究しています。代謝は生命に必須の働きですが、代謝酵素はいわばその実働部隊です。

特に糖からエネルギーや生体成分を生み出す解糖系は、多くの生物で中心となる代謝経路の一つです。この解糖系酵素群ですが、実は近年、代謝以外にも様々な働きをすることが明らかになってきました。

代謝に加え、いくつもの役割をこなす

解糖系酵素の代謝以外の働きは、細胞内での転写調節や、細胞外での生物間相互作用に関わる機能まで様々です。解糖系酵素が代謝に加えていくつもの役割をこなすのは、細胞にとってはタンパク質を転写-翻訳する際にかかる負担を抑えつつ、生命活動に必要な多様なプロセスを動かすという、非常に合理的な仕組みとして捉えられています。

従来、解糖系酵素は細胞の中に均一に存在し、代謝にのみ関与すると考えられてきました。ところが実際には細胞内外の様々な場所にいて、多様な機能を果たしている。当時大学院生だった私はそれを知って、解糖系酵素の多様な局在がどうやって制御されているのかを知りたいと思いました。

集合して代謝効率を上げる

解糖系酵素の局在制御について調べているとき、とある失敗から、ある条件では解糖系酵素が細胞の中で集合して、糖代謝を早めていることを偶然見つけました。これは、細胞内で酵素が集合することで代謝効率を上げるという、新しい現象の発見でした。

現在は、酵素の局在変化と機能がどう制御され、関係しているのか、また、その原理を化成品や医薬品原料等の生産に応用できないかについて研究しています。研究を進めるにつれ、予想を超えた酵素の新しい姿が次々にみえてきて、どんな着地点に至るのかが楽しみです。

私たちが研究している、低酸素刺激に応答して形成される解糖系酵素群の集合体「G-body」です。この名前は、私たちの実験結果を再現したアメリカのグループがつけてくれました。
私たちが研究している、低酸素刺激に応答して形成される解糖系酵素群の集合体「G-body」です。この名前は、私たちの実験結果を再現したアメリカのグループがつけてくれました。
テーマや研究分野に出会ったきっかけ

高校生の時に、とある機能性物質が発見されたという記事を読んで、こんな研究がしたいと漠然と思いました。そこで、その研究ができそうなカリキュラムがある志望先を絞り込んで受験しました。

大学ではやりたいことができそうな研究室に配属を希望し、学部生の間は与えられたテーマをまとめるのに必死でした。最初のテーマをまとめ終わった時に、一気に視野が広がったように思います。大学院生になって始めた内容が、今の研究につながっています。

先生の研究報告(論文など)を見てみよう

「酵素群の細胞内集合による代謝制御機序の解明」

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細胞用のインキュベーターを開けているところです。このマルチガスインキュベーターを使用すると培養時の酸素濃度を簡便に、かつ厳密に調節できるので、細胞の低酸素応答を小スケールで調べたり、応答を制御する化合物候補のスクリーニングを行ったりするために主に使用しています。
細胞用のインキュベーターを開けているところです。このマルチガスインキュベーターを使用すると培養時の酸素濃度を簡便に、かつ厳密に調節できるので、細胞の低酸素応答を小スケールで調べたり、応答を制御する化合物候補のスクリーニングを行ったりするために主に使用しています。
学生たちはどんなところに就職?

◆主な業種

(1) 化学/化粧品・繊維・衣料/化学工業製品・石油製品

(2) 食品・食料品・飲料品

(3) 薬剤・医薬品

◆主な職種

(1) 基礎・応用研究、先行開発

(2) 品質管理・評価

(3) 設計・開発

◆学んだことはどう生きる?

先生の学部・学科は?

私が所属している農学部生命機能化学科では、微生物学や食品化学・生化学はもちろん、有機化学・生物物理化学・分子生物学の知識と技術を集中して学べる環境が整っています。

自分の手を動かして分子を設計・合成し、分析し、生物での影響を調べるという、自立して研究を進めるために必要な技が身につきます。特に実験・実習に力を入れていますので、「実験漬け」で腕を磨きながら、やりたいことを探したい人にもおすすめです。

微生物を大量に培養するために使用する培養機器です。温度やpH, 酸素濃度など、様々な培養条件を設定できます。物質生産はこちらを使用して行います。
微生物を大量に培養するために使用する培養機器です。温度やpH, 酸素濃度など、様々な培養条件を設定できます。物質生産はこちらを使用して行います。
先生の研究に挑戦しよう!

(1) 酵素が試験管内で液滴を形成すると、溶液状態に比べて高い触媒活性を示すことが注目されています。ラッカーゼやエステラーゼ、ペルオキシダーゼ等の一般的な酵素について、異なる濃度条件下で、様々な分子夾雑材や塩、核酸を添加し、どのような条件で酵素の液滴が形成されるか調べてみましょう。また、それぞれの条件下で酵素の活性を調べ、酵素の状態と酵素活性の関係についてまとめましょう。

(2) 身の回りの日用品・消耗品などで、酵素を使用しているものを探してみましょう。そこで使われている酵素の活性を上げる(もしくは、使用量を減らす)には、どのような工夫をすれば良いでしょうか。いくつかアイデアを出して、実験で検証してみましょう。

中高生におすすめ

生物と無生物のあいだ

福岡伸一(講談社現代新書)

教科書的なものの見方から一歩離れて、生命そのものについて考えるきっかけを提供してくれる良書です。生命科学分野に関心をもつ全ての方におすすめです。


合成生物学の衝撃

須田桃子(文藝春秋)

ジャーナリストの視点から、新しい技術・学問分野を取り巻く状況や社会への影響について、テンポよくまとめられています。遺伝子組換えや生物工学に興味がある方におすすめです。


生物多様性 「私」から考える進化・遺伝・生態系

本川達雄(中公新書)

人類が自然から受けている恩恵を数値化する「生態系サービス」という考え方や、様々な生態系システムについて、進化・遺伝の観点も交えて軽快な語り口で書かれています。生物全般に興味をもつ方、「生態系」「サンゴ礁」「進化」「遺伝」というキーワードが気になる方におすすめです。

一問一答
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は?

生物物理化学と人工知能(AI)です。当時は物理が苦手で避けていましたが、早いうちにしっかり学んでいれば色々な可能性が広がると思います。AIは今ならではの学びたい分野です。自力で学習するより、大学の方が体系的に学べそうです。

Q2.感動した/印象に残っている映画は?

『君の名は。』です。公開当時は留学中でしたが、飛行機で帰国するたびに機内で繰り返し観ていました。日本のアニメはすごいと思いました。

Q3.学生時代に/最近、熱中したゲームは?

『ポケモン GO』にはまっていました。突然データが初期化されるトラブルがなければ、今も続けていたかもしれません。

Q4.好きな言葉は?

実験が教えてくれる


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