深層学習を用いて、溶媒に溶かさず結晶のままキラリティを判別
右手と左手は同じ向きで重ね合わせられない
ルイ・パスツールはご存知でしょうか。フランスの偉大な研究者です。化学者としては分子のキラリティを発見した功績で知られています。
キラリティとは、ある物体がその鏡合わせの物体と重ね合わせられない性質のことです。身近な例は我々の右手と左手です。手の平同士は合わせられますが、同じ向きでぴったり重ね合わせることはできません。
結晶の形から分子のキラリティを発見
パスツールは酒石酸アンモニウムナトリウムを結晶化させて顕微鏡で観察するとその結晶外形に右手型と左手型があることを見つけました。
これをピンセットで丁寧に選り分けて旋光度を測定すると、その大きさが同じで旋光方向が反対となっていることを示しました。これが分子のキラリティの始まりです。
キラリティの判別は医薬品の分析にも
私の研究はこのような外形にキラリティをもつ結晶を深層学習を利用して分析することを目指しています。
元々、フランスでの博士課程では結晶化によるキラル分子の分離に関する研究に取り組んでおりました。その中で結晶のキラリティを調べるために毎回結晶を溶媒に溶かして分析していたのですが、「なんとか結晶のまま分析できないものか」と感じていました。
結晶外形に分子のキラリティが反映される例は少ないのですが、結晶一粒ずつのキラリティを判別できるようになれば、溶媒に溶かさなくても分析結果が得られます。
キラリティを示す分子は医薬品にも多く含まれており、応用が進めば新しい分析方法になるかもしれません。
わからないことがわかるようになる感覚が好きな子供でした。昔から理系科目全般が好きでしたが、化学を選んだのは高専在学時です。原子や分子を対象にする学問に関わることで、世界に対する解像度が高まる気がして選びました。たまたま結晶学を専門にすることになりましたが、X線構造解析によって分子が目の前にあるかのように観察できる経験が自分の性にあっており、いい選択をしたと思います。
◆主な業種
(1) 化学/化粧品・繊維・衣料/化学工業製品・石油製品
◆主な職種
(1) 基礎・応用研究、先行開発
(2) 生産技術(プラント系)
(3) 生産管理・施工管理
◆学んだことはどう生きる?
まだ指導した学生は大学院に在籍中ですが、結晶学の専門知識は分子配列の制御などに役立てられます。今回紹介した研究の他に、化学品の連続生産やキラリティの制御そのものにも関わる研究も展開しており、研究室内で話をするだけで幅広い知識が身につきます。
最近は安価な顕微鏡も販売されていますが、身の回りのものを顕微鏡で観察して写真を撮ってみると面白いと思います。
尿素の樹状結晶を観察して、枝分かれの様子を記録してみましょう。偏光板をつかって偏光観察ができれば、結晶の複屈折も観察できます。それぞれの現象について調べて、どのような学問が関係しているのか考えてみてください。
Q1.18才に戻ってもう一度大学に入るならば、学ぶ学問は? 物理か化学です。 |
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Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? スイスかオランダです。どちらも2か月くらい過ごしましたが、自然がきれいで休日も楽しかったです。 |
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Q3.研究以外で、今一番楽しいこと、興味を持ってしていることは? 息子の成長を見るのが楽しいです。できなかったことができるようになると嬉しいですね。 |
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Q4.好きな言葉は? Le hasard ne favorise que les esprits préparés |