Nature via Nurture やわらかな遺伝子
マット・リドレー(早川書房)
たしか高校2年生くらいの頃に購入した本で、それ以降読み返していないので詳細な内容は覚えていないのですが(お恥ずかしい…)、一番印象に残っているのはヒトゲノム解読によって人間の持つ遺伝子数が約3万ということがわかり、そのくらいの数(思っていたよりだいぶ少ない)でこんな複雑な仕組みを作れるのか!と驚いたことです。
一卵性双生児における研究が非常に興味深く、遺伝的に強く決定づけられているところと可塑性のあるところがあるということをクリアに示していると感じました。
また、この本の中では状況に応じて遺伝子オンオフのスイッチを切り替えるという環境に応じた柔軟な制御機構があるということを研究成果に基づいて説明しており、こんなふうな複雑な仕組みを私も解いてみたいと思ったように記憶しています。生物研究を志した基部にある、そんな本です。難しい部分もあったように思いますが、高校生のうちに一度読んでみると良いかと思います。
不思議なかたちの虫こぶに棲む、昆虫の生存戦略
虫こぶは幼虫のお菓子の家
成長の過程で形態を自由に変える植物。その能力を利用した昆虫の生存戦略を解き明かしたいと考えています。
ある種の昆虫が植物組織内に産卵し、孵化した昆虫の成長に伴って周囲の植物組織がふくれ、複雑な形状を呈したものを虫こぶと呼びます。虫こぶ内の幼虫は周りにある植物を食べて成長します。いわばお菓子の家に住んでいるようなものです。
植物は成長の過程で環境や他生物からの刺激を受けて、比較的自由にかたちを変える能力がありますが、この能力を利用した最たる例が虫こぶと言えるかと思います。
飼育栽培が難しく未だ謎が多い虫こぶ
虫こぶはそのかたちの多様さ、不思議さから多くの研究者の興味の対象となってきました。
しかし、これまでは虫こぶを作る植物・昆虫の両方が野外の生物であり、飼育栽培が難しく、また生物を形作る根源となるゲノム情報も揃っていなかったことから、虫こぶ形成の背後にある分子機構までは明らかにされてきませんでした。
遺伝子レベルで明らかに
現在は次世代シークエンサーと呼ばれる技術によって、どんな生物においてもそのかたちができる機構を遺伝子レベルで明らかにすることが可能となってきました。そこで私はこの次世代シークエンサーを用いた解析により、虫こぶを形成する分子機構を解き明かすための研究を行っています。
虫こぶ形成に関わる分子を特定することで、人工的に不思議なかたちの植物を作ることも夢ではないと考えています。
銃・病原菌・鉄 1万3000年にわたる人類史の謎
ジャレド・ダイアモンド(草思社文庫)
学部生の頃は農学部に属しており、博士課程ではイネの栽培化を研究していたこともあり、農耕文化やそれに伴う人類の移動や定着には興味を持っていました。
この本では、各地域の文明の発達の違いが自然環境の違いによるものであるという説を唱えていて、それぞれの自然環境下で栽培できる農作物や家畜動物の違いが技術の発達を促し、最終的には民主主義、社会主義といった政治体系の確立にも寄与しているとしています。各地の栽培環境や文化が異なる遺伝子の選抜につながったという独立した2地域のイネ栽培化を研究していた私にとっては「確かに」と頷きながら、読み耽りました。